生産量の減少や高齢化など厳しい環境が続く国内テキスタイル産地。一方で、産地見学ツアーや産地でのイベントに多くの参加者が集まるなど、物作りに対する関心は高まっている。産地は未来をどのようにつくっていこうとしているのか。兵庫県西脇市を中心とした播州織産地と、岡山から広島にまたがる備中・備後産地の取り組みを紹介する。
ファッション都市構想
播州織産地は、ギンガムチェックやジャカード、ドビー織物といった綿先染め織物が主力。昨年の生産量は2595万平方メートル、前年比5.6%減で、今年に入っても厳しい状況が続いている。特に得意とするカジュアル関連が厳しく、小ロット化によるコストアップや染料・物流費の上昇も響く。織布から染色まで、織物生産に関わる全ての工程が産地内で完結しているが、経通し(経糸を織機に通すこと)など準備工程の担い手の減少、高齢化など課題も抱える。
そうした中で、西脇市はファッションを志す若者の流入と最終製品の創出を目指す西脇ファッション都市構想を掲げてきた。最終製品比率を高めることで、消費者への認知拡大も狙う。
その柱の一つであるデザイナー等育成支援事業は、家賃や受け入れ側事業者の指導料などの一部を3年間補助するもので、これまで県内外から累計22人が「研修生」として参加、移住してきた。その多くが現在でも産地に残り各企業で活躍しており、製品化に取り組む産地企業が増えるなど一定の成果も出ている。
産地内にCAD(コンピューターによる設計)やミシンなどを備えたコワーキングスペースができたほか、産地内の生産工程で出る残糸を収集、再利用するシステムも構築されるなど、物作りへの環境整備も進んだ。
今年は、当初定めていた事業期間の最終年度となる5年目。来年からは育成支援事業の新規募集を終了するなど、全体の事業規模は縮小するが、ファッション都市構想自体は継続する見通しだ。研修や講演といった人材育成事業は継続していく方針で、「できた最終製品をどう売るか」といった販路開拓に向けた取り組みも検討。産地の新たな芽をさらに育てていく段階に入り、デザイナー研修生の起業にも期待する。
製品化に向け企画やデザイナーといった若手人材が多く産地に入ってきたことは今までにない動きであり、成果が出ていると言えるだろう。ただ、「現場の営業で若手人材が不足している」といった声も聞かれるなど、人材不足は引き続き課題となっている。
消費者への発信を
産地企業が手がける製品ブランドも成長しつつある。例えば島田製織の「ハツトキ」は、ブランド立ち上げから10年目を迎え、テレビ、雑誌でも取り上げられるなど認知が拡大。デザインやテキスタイルへのこだわりが評価され、売り上げも徐々に伸びてきた。来月には中国の展示会「モード上海」に出展するなど海外展開も図っている。
産地の魅力を消費者に発信するイベントも規模が拡大している。5月に開いた、産元商社や機業場などが参加した消費者向けイベント播州織博覧会(播博)には、6000人もの一般消費者が来場し、テキスタイルや製品を購入していた。メーカーが直接消費者とつながるクラウドファンディングの広がりからも見て取れるように、「直接、機業場と話がしたい」「産地ならではのテキスタイルが欲しい」といった消費者は確実に増えており、その流通経路も多様化している。
嶋田幸直播州織産元協同組合理事長は、播博のにぎわいを振り返り「西脇から発信すれば、人が集まってくれる手応えを感じた。産地としての発信力をもっと身につけないといけない」と話す。情報発信についても新たな発想が求められる昨今。産地に県内外から来た若手人材が多くいることは、今後に向けた大きな財産となるだろう。
(繊研新聞本紙19年9月24日付)