東日本大震災から5年、フクシマを逆手に

2016/03/11 02:41 更新


福島発ブランド、世界に 

 東日本大震災から5年。被災地の復興は道半ばで厳しい状況が続く。しかし、繊維・ファッション業界の中には前向きに地元で奮闘する企業の存在が際立つ。原発事故の影響が大きい福島県では、福島発のブランドが世界に挑むための大きな一歩を踏み出した。県内の製造業6社の力を集結した「フクシマ・プライド・オブ・シルク」は2月、イタリア・ミラノで初の展示会を開き、海外の来場者から高い評価を得た。

 フクシマ・プライド・オブ・シルクは福島県ファッション協同組合で作った。この組合には福島県内の6社が参画している。縫製の永山産業と三恵クレア、ニットの菅野繊維と大三、織物の斎栄織物、糸のシラカワだ。

県内製造業6社の集結

 6社でシルクや麻を軸に糸からオリジナル開発し、セーターやブラウス、ジャケットなどの製品を作り上げた。ミラノの展示会にはラグジュアリーブランドの担当者などが来場した。シルク100%のファータイプなど素材に対する評価は非常に高かったが、デザインに対しては辛口の指摘が多かったという。

 今年度は経済産業省の製造業支援事業として補助金を受けて2年目。最終年度となる来年度は「デザイン面などの課題を解決し、ブランドの完成度を高めたい」としている。その先のステップとして海外販路の開拓を本格化する計画だ。

 参画企業の1社、大三(伊達市)の三品清重郎社長は「海外でも知名度の高い〝フクシマ〟を逆手に取り、世界に福島発ブランドを広げたい」と意気込む。横のつながりが薄かった県内製造業をネットワーク化し、「新しい取り組みに挑戦することで、震災で沈んだ気持ちを盛り上げたい」としている。

 今回の取り組み以外にも大三では昨年秋冬から自社ブランド「ニジイロキャンプ」を立ち上げ、福島の製造業の健在ぶりをアピールする。プリントデザインの船津昌美さんと組み、編み地でカラフルな柄を表現したストールなどニットによる服飾雑貨を提案する。同社の編み立て・縫製に従事する若手スタッフを中心に一昨年夏からプロジェクトを始め、昨年は東京の合同展にも出展し、都内百貨店への卸売りや催事につながった。

 また、純正国産表示制度「J∞QUALITY(Jクオリティー)商品認証事業」を受けた自社工場発の商品も、秋冬から百貨店で販売する予定だ。「国内工場が生き残るためには、自社ブランドの比率を高めなければならない」と強調する。

イタリア・ミラノで展示会を開き海外の来場者からも好評だった「フクシマ・プライド・オブ・シルク」

 

 大三とともにミラノで展示会を開いた三恵クレア(南相馬市)の五十嵐則保社長は、現地でのグループ展を開催して「バイヤーから商品の評価と改善点を確認できた」としている。

 特にメード・イン・フクシマの生地に対する注目度が高かった。シルクと改質リネンの撚糸を使った二重織りスカートや、〝パーフェクトシルク〟と称した毛足30㍉のシルクファーを全面に使ったコートは、その艶やかさや触感が「サルヴァトーレフェラガモ」をはじめとするブランドやファッションメディアから注目された。

 その一方で、現地バイヤーからは「ファッション商品の魅力の源は素材が5割、デザインが5割。さらにデザインを磨いて欲しい、アイテムをトータルでまとめる力もつけて欲しい」とのアドバイスを受けた。五十嵐社長は「もっと大勢のバイヤーに商品を見てもらうことで商品企画に磨きをかけたい」として、次シーズンも欧州の有力合同展への出展を検討している。

 震災から5年を経て、未だ復興途上にある福島を取り巻く状況は厳しい。五十嵐社長は「この地域で働き、住む人々が目指しているのは、ここに元気を取り戻すこと」と言い切る。労働集約型産業といえる縫製業にとっても地域の活性化は欠かせない。フクシマ・プライド・オブ・シルクの海外出展の先に展望するのは「この地にファッションを根付かせたい」という思いだ。「魅力ある街作りを実現して、働きたくなる環境を整えたい」と前を向く。



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