【ファッションとサステイナビリティー】椅子張り資材のシンコー PVCレザーを独自にリサイクル

2024/03/27 05:30 更新


リサイクルPVCレザーは「キクロス」の商品名で販売

 椅子張り資材のシンコー(名古屋、矢追和彦社長)は、PVC(ポリ塩化ビニル)レザーのリサイクル本格化に向け、4月に名古屋市中川区に1次処理施設「シンコーKYKLOS(キクロス)センター」(仮称)を開業する。椅子の張り替えなどで発生する端材を回収し、再びPVCレザーとして再生する取り組み。リサイクルしたレザーは「キクロス」の商品名で販売する計画だ。PVCの原材料はほぼ輸入に頼っているが、リサイクルすることで国内での資源循環につなげたいとしている。

 椅子張り資材は張り替えの際、使う形状に合わせて裁断するため、どうしても端材が発生する。従来こうした端材は多くは産業廃棄物として処理されていたが、資材の配達便を利用してPVCレザーの端材を回収し、リサイクルする。回収したレザーは、来月、開業する施設で1次処理し、粉砕・分離工程を経て、上層の表皮層、発泡層はPVC原料に、基布はクッション中材などに再利用する。

他社製の国産レザーも回収

 PVCはリサイクルを繰り返しても品質や物性の劣化が少なく、同社では実際に30回リサイクルして品質が保たれることを検証した。そのため、国産であれば他社製のPVCレザーでも回収し、リサイクルする。

 回収に当たっては、同社から張り替え業者などに資材を配達する便に乗せるため、輸送のための費用は抑えられる。それでも分別や仕分け、処理などリサイクルならではのコストがかかり、バージンのPVCに比べ割高になる。サステイナブルなレザーとはいえ、価格が高すぎると使ってもらえない。コスト積み上げではなく「販売価格から計算」(矢追和彦社長)し、10~15%程度の価格差で販売する計画だ。

 PVC使用量の多いカーペット業界では昨年、日本リサイクルカーペット協会が発足した。回収したタイルカーペットを分離しPVCの水平循環を推進する。椅子張り資材は、市場規模が小さく、PVC使用量はカーペット業界ほど大きくはない。同社独自の取り組みではあるが、椅子張り資材のリーディングカンパニーとして、リサイクルレザーを市場に提供し、資源の国内循環や消費者も含めた認知拡大を促す。

 PVCは、炭素と水素、塩素から成る塩化ビニルモノマーが、鎖のようにつながった重合体。通常言われる塩ビは、モノマーではなく、PVCの方だ。原料は石油由来のエチレン(あるいはアセチレン)と、海水から得られる塩素。多くの工業製品の製造に不可欠なカセイソーダ(水酸化ナトリウム)は海水を分解して作られるが、その際に塩素も同時に生成され、その塩素を利用する。PVC原材料のうち石油は4割ほどで塩が6割。PVCの半分以上は塩でできている。しかもその塩は、地球上にほぼ無尽蔵に存在する海水から得られたもの。他の石油系プラスチックに比べ、石油消費量は少ない。

 PVCが、焼却炉から発生する猛毒ダイオキシンの犯人とされた時期もあったが、燃焼条件によっては空気中の塩素によってもダイオキシンは発生する。とんだ〝濡れ衣〟だった。

 同社がPVCレザーのリサイクルを手掛けるのは、環境への配慮に加え、「PVC業界への恩返し」(矢追社長)という思いがある。〝塩ビは環境に悪い〟という誤ったイメージを払拭(ふっしょく)するため、リサイクルを通じクリーンな実態を伝え、名誉回復につなげる。

高耐久性で環境配慮

 同社は椅子張り生地の「環境配慮に優れた原料、製法」が認められ昨年、経産省の「次世代を担う繊維産業企業100選」に選ばれた。残糸やくず繊維、不用になった古着などを回収し、半毛工程を経て再利用した椅子張り生地や、綿糸製造工程で発生する落ちわたをリサイクルした椅子張り生地、水を使わない無水染色技術などが高く評価された。

 昨年は脱動物由来のビーガン思想に対応した椅子用ポリウレタン(PU)ソフトレザー「ビガペーレ」シリーズを発売した。本革は、原皮を加工する各工程で、多くの水や熱、様々な化学物質、薬品が使われる。ビガペーレは革をPUに置き換えただけでなく、溶剤を使用しない製法のため、余分な化学物質を使わず、揮発性溶剤を回収するためのエネルギーも不要。エネルギー消費量は従来製法の半分以下に抑えた。

脱動物由来で溶剤を使わず製造する「ビガ」シリーズ

 同社の目指すサステイナビリティーは、原材料や製造工程での持続可能性だけでなく、製品の耐久性が強く意識されている。短期間で使えなくなり廃棄されるようでは、環境面でも、資源の有効活用の面からも、サステイナブルとは言えない。例えば、自然な状態でも加水分解が進み、劣化するPUレザーだが、同社では10年は問題なく品質を維持できるレベルに技術を高めた。だが、「10年では満足できない」として、さらに高みを目指している。

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(繊研新聞本紙24年3月27日付)

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