【ファッションとサステイナビリティー】環境、人権課題との向き合い方 モノだけでなく〝ストーリー〟を見る視点を

2023/06/15 05:27 更新


稲垣貢哉さん

 SDGs(持続可能な開発目標)のゴールラインが近づくにつれて、環境保全や人権尊重の意識は国際社会でますます高まってきた。企業には環境、人権に関わる諸課題に取り組むことが要求されている。その上で重要なのはトレーサビリティー(履歴管理)とサプライチェーンの管理。繊維産業におけるサステイナビリティーの国際動向に詳しい稲垣貢哉さん(米NPOテキスタイルエクスチェンジ・アジア地区アンバサダー)によると、企業のなかでこうした管理業務を担っているのは品質管理担当者というケースが多いそうだ。国際的な流れと実務に関する心構えについて話してもらった。

ガイドラインに沿いチェック

 品質管理という業務は、物性の確認や製品品質基準という〝モノを見る〟視点で原料や工場をチェックしている。一方、国際社会では〝モノを見る〟視点に加え、原料が環境に与える影響や工場の労働環境、適切な取引形態といった〝ストーリーを見る〟視点が求められている。

 欧米ではブランドや小売業者が国際認証基準や独自の基準にのっとって素材と生産工程を第三者に委託し、管理する方法が浸透している。このため、原料のトレーサビリティーや、サプライチェーンにおける人権課題の透明性が確立されてきた。

 日本でも日本繊維産業連盟が22年7月に策定した「繊維産業の責任ある企業行動ガイドライン」と、ガイドラインに基づいて作成された「チェック項目例とリスク発見時の対処法の例について」という別冊のチェックリストも発刊され、企業が環境や人権の課題に取り組む基盤は整ってきた。これらのガイドラインに沿って、生産現場の労働環境、生産工程における作業環境、投入する原料が〝どこから〟〝どのように〟作られてきたかを証明することができる。

認証基準の扱いは要注意

 原料については素材の生産背景で非人道的な調達がされていないことを証明する必要がある。人権や環境に配慮して作られた原料のトレーサビリティーが可視化されると、風説被害や不買運動といったリスクを避けることにもつながる。企業の社会的責任を果たすことになるため、企業・ブランドの価値を毀損(きそん)せず、価値を高めながら安定的な商品供給ができる。逆に、何の根拠もなく「オーガニック原料やリサイクル原料を使っている」と言えば〝グリーンウォッシュ〟とみなされて社会から排除される。

 国際認証基準の製品認証を取得せず、例えばOCS(オーガニック・コンテント・スタンダード)やGRS(グローバル・リサイクル・スタンダード)の認証を取得した素材を使った製品という表現や、認証基準のロゴマークを使うことは優良誤認表示になる。テキスタイルエクスチェンジの知的財産物である、これらの認証基準の不正使用にもなり、注意が必要だ。

 生産工程における管理は、まず自社の労働環境をガイドラインに基づいて整備すること。その上で、サプライチェーン上の仕入れ先の労働環境にも目を配っていく。これは面倒に感じるだろうが、困難なことではないと思う。管理体制の構築は、欧米での事例を参考にして、第三者の監査が入ったとしても必要な書類と、その説明ができる資料を整理しておけばクリアできる問題だと考えている。新たな設備投資や大きな機構改革は必要ない場合が多いため、必ずしも経営的に不利益だとは思わない。

 ところで、トレーサビリティーとサプライチェーン管理は企業のなかで誰が担うことが適切なのだろうか。モノの管理をするエキスパートである品質管理担当者だろうか。誠実で研究熱心な品質管理担当者ならできる――と経営者が考えたからなのかもしれないが、モノの管理とは観点が全く異なる。トレーサビリティーとサプライチェーン管理は、企業の社会的価値を左右する大事な要素なだけに、兼務ではなく専任者を配置するなど適切な体制を再考することが肝要ではないだろうか。

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(繊研新聞本紙23年6月15日付)

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