インクジェットプリンターを製造・販売するミマキエンジニアリングは、テキスタイル・アパレル向けにサステイナブル(持続可能な)のソリューションを強化している。デジタルプロセスによって環境負荷の軽減だけでなく、簡単で使いやすい機械で消費地近くの新たなビジネス創出に貢献していく考え。池田和明社長にアパレル業界への提案について聞いた。
【関連記事】繊維機械にもサステイナブルの波 ミラノで開催のITMAで一大テーマに浮上
◇
6月に伊ミラノで開かれた国際繊維機械見本市ITMAでは、〝サステイナビリティー&サーキュラリティー〟をテーマにしました。染料プリントで必要なスチーム処理や水洗といった工程が不要な、ドライプロセスのプリンターやシステムに特化し、サステイナブルに大きくかじを切りました。
ITMAでは毎回、アパレルの方から「今回の新しい物は何か」と聞かれるのですが、今は「どれだけサステイナブルに貢献できるか」が問われる時代になっていると思います。
インクジェットプリントの分野ではこの10年強、超高速のシングルパス機に象徴されるようなスピードを追求する動きが主流でした。それによって生産効率やコスト競争力を上げ、従来のアナログ方式をデジタルに転換するという発想です。もちろんある程度のスピードがなければ商業規模にはなりませんから早さは大事なのですが、今はそれ以上に、「デジタルによってサステイナブルを実現する」「廃棄が少なく、リサイクル可能」「水を使わない」といった視点が重要になっています。
さらには、〝簡単〟であることが重要と思います。当社では直接生地にプリントする機械も出していますが、生地は種類によって伸縮性が違ったり、端の繊維くずがインクジェットヘッドに絡まって詰まりを起こしたりと制御が難しいです。一方、昇華転写プリントは紙に印刷した絵柄をポリエステル生地に写し取る方式で制御がしやすく、水も使いません。グローバル大手SPA(製造小売業)に大量採用されましたが、それも簡単だったことが大きいです。
ITMAでは昇華転写のほかに、顔料転写という新しい方式も提案しました。昇華転写は生地がポリエステルに限定されますが、顔料転写は綿や混紡などあらゆる素材に転写することが出来ます。簡単な紙印刷で、更に生地の種類に関係なく水を使わずプリント出来る画期的な方式です。
こうしたシンプルなプロセスは、消費地近くでのビジネスに向いています。コストの安い海外で大量生産し、多くのCO2(二酸化炭素)を出して運んでくるというやり方は限界に来ていますし、安値競争も無理があります。昇華転写や顔料転写を東京など消費地に近い場所で設置し、クイックに商品化できれば、運搬によるCO2も減らせ、付加価値の高い新しいビジネスモデルを創造することも可能ではないでしょうか。
当社で最もリーズナブルなプリンターは100万円強ですから、個人のデザイナーが1台から始め、成功すれば機械を増やしてスケールアップするといったやり方も出来る。ファッション学校を卒業しても仕事がないという話も聞きますが、新しい道も開けます。
使用済みの昇華転写した生地から色を抜き、生地をリサイクル出来る「ネオクロマト」技術も披露しました。これを社会実装していくのが当社の役割です。機械として製品化し、縫製部位の少ないのぼり旗のような用途から循環の仕組みを作っていきたいです。
(繊研新聞本紙23年8月30日付)