店頭やECで、サステイナビリティー(持続可能性)を全面に出している商品が増えている。中でもオーガニックコットンは認知度が高いが、詳細の理解は浸透していない側面もある。オーガニックコットンに関わる取り組みを推進している財団と商社、アパレル企業からその基本と普及の鍵を聞いた。
(聞き手・構成=橋口侑佳、小島稜子)
品質に差はない
――改めて、オーガニックコットンの定義は。
葛西 大まかに言うと、遺伝子組み換えでない種を、農薬・化学肥料を3年以上使っていない土地で有機栽培し、枯葉剤を使わずに収穫します。そのうえで、紡績から最終製品までの製造工程でも条件が審査され、GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)などの国際認証基準で認証を取れたもののみが正式なオーガニックコットンとして認められます。よく誤解されていますが、オーガニックコットンであることと「肌に優しい」ことは無関係です。品質検査をしても肌触りなど品質はレギュラー(オーガニックでない)綿と変わりません。レギュラー綿から農薬が検出されるわけでもありません。
――オーガニックコットンがサステイナブルな素材と言われる理由は。
葛西 自然環境の観点では、農薬・化学肥料でなく、家畜の糞やたい肥などを使うため、土壌に与える影響が少ないからです。忘れられがちなのは、農家への影響です。インドでは、遺伝子組み換えの種や農薬・化学肥料を買うために負った借金を返せない農家が多く、一説では多くの人が自殺しています。オーガニックコットンは、必要な経済コストが少ないなど労働環境の持続可能性にも寄与します。
石塚 先ほど挙がったインドは、綿花全体と同様、オーガニックコットンの生産最大国です。しかし、オーガニックコットンの生産規模は非常に小さいのです。身の回りには多く出回っているように感じますが、割合は綿花全体の1%未満です。遺伝子操作した種より種の採れる割合が少ないからです。植えたうちの7~8割しか基準に見合う品質の種が取れません。そのうえ、農家が綿花を売る段階では、大部分が現地のジンニング会社(綿花のベールを作る会社)に安く買いたたかれています。収入増加につながらないため、有機栽培への転換が広がらないのです。ヤギと山弥織物が窓口となり、PBPコットンプロジェクトを通じ適正価格で農家から買う活動をしています。
葛西 労働コストが高いのに、品質は変わらないのが買いたたかれる要因ですね。
――製品段階に課題はあるか。
青木 当社が25年を目標とするサステイナブルコットンへの置き換えには、オーガニックコットンも含みます。扱うにあたっては、当社も会社のポリシーが大事だと思います。少数のアイテムだけでなく、いくつかのブランドではまとめて使わないと、消費者にメッセージが伝わりません。現状は、年間70万~80万枚の服にオーガニックコットンを使っています。化学繊維の比率が増えていることもありますが、自社商品の全体の1%未満にとどまっています。オーガニックコットンは、全綿花生産量の1%未満という量を分け合わないといけません。当社は買いやすい価格帯の商品が多いので、通常の商品より高くなるオーガニックコットンは、多量に使いづらいという現状です。
葛西 価格の壁を乗り越えることは非常に難しいです。PBPコットンプロジェクトをフェリシモの私の担当ブランドのみで取り組んでいた頃は、商社や素材メーカーに既存の生産体制でコストが見合わないと断られました。しかし、綿の段階で高いといっても微々たるものなのです。糸や生地を作る各工程でのロットごとに価格を決めているので高くなる。綿から製品までを一貫して見れば、糸や生機など共用できる部分があります。そのうえで、ディテールで違いを出していけば、製品に個性を出しながらコストを下げられます。
石塚 値付けは、労力と収穫量のバランス、流通量を考慮して感覚的に決まっています。オーガニックコットンの生産が増える近年、レギュラー綿との価格差は縮まってきています。葛西さんの言う通り、串刺しにして取り組めば、決して大きな価格の壁にはなりません。
葛西 縦割りというと、サプライヤーが自社のオーガニックコットンを他社より優れているとアピールする動きが気になります。縦で区切られると規模が広がらず価格が上がる悪循環になります。世界のために仲良く手を取り合いましょう。PBPでは現在、賛同してくれた5社の商社を通じて販売しています。
青木 当社も原料を高く買いたいし、買わないといけません。高いから使わないではなく、どうやったら使えるかを社内、そして社外と連携して考えます。例えばヤギとは、納期と調達のコストの兼ね合いなど使いにくい事情の解消に向け相談しています。
社内から変革を
――オーガニックコットンを広めるためには、価値を消費者に伝える努力も大切だ。
青木 当社は消費者へのアピールを始めたばかりで、原料について理解できていないことも多いです。この1年ほど学んで、消費者への効果的なアピールを営業やCSR(企業の社会的責任)チームを交えて議論しています。オーガニックコットンを使っていることだけでなく、本質を伝えるのが今後の課題です。親和性のあるブランドを生かして伝えられればいいですね。そのためにも、商社の原料部隊や、紡績メーカーなどできるだけ川上にさかのぼって話を聞き、理解したいです。
石塚 オーガニックを語る上では、エシカル(倫理的な)、サステイナブル、レスポンサビリティーなど表現が様々あって難しいですよね。ヤギではこれまで、オーガニックをオーガニックとは明示せず売っていた時期がありました。ニーズが少ないなか、国内にオーガニックコットンを広めていくために、そういった工夫を交えてきました。オーガニックコットンはエシカル素材ではありますが、差別化素材ではないからです。
青木 今はオーガニックコットンの使用が、消費者の購買動機に直接つながってはいません。生産部隊としては、消費者が気づいたら全部サステイナブルな綿に変わっていたという状況にしたいです。それは物作りや企画など身近なチームの意識を変えることで実現できます。店頭でアピールすることとは別の事柄と捉え、物作りをする責任として取り組みます。
葛西 アダストリアは、東北コットンやサステイナブルコットン置き換えの宣言など、組織的に取り組みを続けていることがすごいですよね。そのような会社の強い意志に、社員一人ひとりが実体験を伴わせて、個人の自分と組織としての自分をバランスとりながら本気になってもらうのが理想です。取り組みを続ける原動力となる、担当者個人の思いに勝ることはないと思います。
――最後に、オーガニックコットンの普及に向けてお考えを一言。
葛西 時代はもっとDtoC(メーカー直販)になると思うので、買ってくれた人に後からどのように役立ったのか情報提供することが今後は重要になります。PBPでは、消費者向けアプリを開発しています。洋服は洋服で思い切り楽しんで、そのうえで結果がリアルにスマートフォンの中で可視化できるほうがマーケットは広がるでしょう。
石塚 消費者が意識をもって選択してくれるような消費構造が来ることを信じて、自社でできることを気高い意志で続けていくしかありません。
青木 今まで以上に消費者に喜んでもらえるものを、そういう原料を使って生み出していくことが我々の一番大事なことと思います。できれば綿農家とコミュニケーションをとり、生産背景を客に伝えられるといいですね。継続を第一に考えます。
(繊研新聞本紙20年12月23日付)