《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》「NANA WATANABE」 社会に共有される価値を持つ制作姿勢

2025/12/26 11:00 更新NEW!


25年にイタリアで開催されたA' Design Awardの授賞式

 「NANA WATANABE」は刺繍を施した生地を用いた、色彩豊かで立体的なアクセサリーのブランドです。海外での活動にも積極的に取り組み、1年ほど前にはニューヨーク、ロサンゼルス、ロンドン、ローマでのポップアップイベントと展示会に参加。海老をモチーフにしたイヤリングは革新的な造形が評価され、国際コンペティション「A' DesignAward」のブロンズ賞を受賞。身に着けるアートとして注目を集めています。

【関連記事】《ちょうどいいといいな ファッションビジネスの新たな芽》「PARANOMAD」 丹後で始めた布作りで海外に挑戦

環境に配慮する

 デザイナーの渡辺奈菜さんは、アパレルブランドのデザイナーを経て、17年に「ARRO」で活動を開始。24年11月に現在のブランド名に変更しました。卸売先は国内外で合計6店、英国のEC「Wolf & Badger」でも扱っています。

百貨店やセレクトショップなどでポップアップショップを行っています

 機械刺繍や立体への加工との相性がよく、表現したい造形を実現できたため、当初からポリエステル生地を用いて制作しています。貴金属や宝石は使っていません。ジュエリー業界では「エシカル(倫理的な)ジュエリー」という考え方が注目されていますが、「貴金属や石を使ってないこと自体がエシカルだと考えています」と渡辺さん。環境への配慮を深め、現在は商品の半数に採用するリサイクルポリエステルを、3年後には全商品で主材料にすることが目標です。リサイクル素材はコストがかかるイメージがありますが、生地値も無理なく採用できる段階にきています。

〝架空の楽園〟をテーマにしたテキスタイルジュエリーブランド「NANA WATANABE」

海外でより広がる共感

 当初から海外市場も視野に入れ、初期は越境ECモールを起点として、台湾や香港などで展示や販売を行っていました。現在は、海外売り上げの比率が高く、国内は講師やアーティストなど人前に立つ職業の顧客が多いそうです。

24年5月にニューヨークで「MAD about Jewelry」に出展しました

 日本では「個性的」「派手」と受け取られがちですが、欧米での反応は大きく異なります。「こんなの見たことない!」と複数点購入し、自信を持って身に着けてくださる光景が印象的だそうです。パーティーや社交の場という文化的背景が、装う気持ちと自然に重なっていると感じました。

 また、生活者自身の環境への配慮が一般化し、貴金属に頼らないジュエリーも一つの選択肢として定着していると肌で感じています。

 渡辺さんは一般の人にも、日常的に身に着けてもらいたい思いがあります。アクセサリーが装いや気持ちの前向きな変化のきっかけになることを何度も目の当たりにし、それに喜びとやりがいを感じています。今後はアートピース的な表現に挑戦し、高価格帯の商品も増やしていく予定です。素材と造形に向き合いながら、自身の表現を磨き続ける。その積み重ねが共感を呼び、結果として世界へとつながっていくのかもしれません。

■ベイビーアイラブユー代表取締役・小澤恵(おざわ・めぐみ)

 デザイナーブランドを国内外で展開するアパレル企業に入社、主に新規事業開発の現場と経営で経験を積み、14年に独立、ベイビーアイラブユーを設立。アパレルブランドのウェブサイトやEC、SNSのコンサルティング、新規事業やイベントの企画立案を行っている。



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事