《ファッションビジネス企業のお仕事紹介》現場で働く先輩に聞きました

2022/05/03 06:30 更新


 ファッションビジネス(FB)は中小企業主体で、多様な業種や人が連携して成り立つ業界。どんな職種があるのか仕事の種類と、その内容が分からない人、目指す方向や職種が定まらない人も多いはず。FB業界に興味のある人に向けて、現場で活躍する様々な職種の先輩たちに、仕事の内容と魅力について語ってもらった。

着る人をイメージして提案

〈デザイナー〉マークスタイラー 第1本部マーキュリーデュオ事業部企画部企画課 浅井聖子さん

浅井聖子さん

 16年春にスタイリスト学科を卒業し、販売職で入社しました。配属された「マーキュリーデュオ」は初めて挑戦するテイストでしたが、入社から1年半でサブリーダーを任され、3年目で企画課に異動。意欲的な人は声を出せば形にしてくれる社風で、「企画や作る側の仕事がしたい」と早くから店長や管理職に伝えていたため、社内試験を経て希望が実現しました。

 マーキュリーデュオでは外部のディレクション担当と、社内2人、社外1人の企画担当、販売計画を立てるMDでチームを組み、企画が軸になって商品作りを進めます。年間を4シーズンに分け、1シーズン約70型の新作を3カ月周期で投入。2月なら夏物の展示会、秋物のセカンドサンプルの確認、10月から投入する冬物の企画と、常に3シーズン同時進行です。

 毎シーズンのコンセプトはディレクション、服種の比率はMDが考え、企画3人でメーカー別など分担を決め、らしさを入れながらデザインして仕上がりまで担当します。フェミニンだけど甘すぎず、流行をミックスしたブランドなので、常に海外コレクションなどの情報を集収。自店や競合他店を見て売れ筋や打ち出し中の商品や色、VMD、客の年齢や身長も確認し、足りない要素を探します。リアルで分かりやすいスタイリング提案が基本。着る人のイメージを企画で共有することが大切で、店での並べ方やスタイリングを考えて絵を描きます。

 企画が細かい仕様や生地も決め、絵型と仕様書を書いてメーカーに発注。サンプル検討会では、外れた物を作らないように営業やエリアマネジャー、EC担当が一緒に見て、生地変更や人気の刺繡の修正を依頼します。メーカーとはコストや生産面を考えて修正し、各色が揃う2回目のサンプル検討会では営業やEC担当も入って色別の増減などを決め、発注会後に最終の修正を入れて本生産に入ります。卸先やディベロッパー、販促向けの展示会やウェブ用の撮影も、スタイリングを組んで立ち合い、店舗投入前に店長会で新作を説明するまでが企画の仕事です。多くの人に着てもらえる追加生産になるヒット商品が出るとうれしいですが、長く着てもらえる服も作っていきたいですね。

スタッフの接客支援に力

〈店長〉セキミキ・グループ グレディブリリアン天神地下街店店長 豊福梓歩さん

豊福梓歩さん

 大学生の時からアパレル企業でアルバイトをするなど、好きなファッションの仕事に関わってきました。セレクトショップのセキミキ・グループに入社して今年で7年目。販売スタッフを経て、店長としては5年目になります。

 私の店長としての一日は、30分前に職場に来て開店までにメールや連絡事項をチェックすることから始まります。朝礼で、その日の仕事の優先順位や各スタッフが行いたい内容を確認します。店頭のセッティングも店長が指図する重要な仕事です。

 天神地下街店は都心なので感度の高い客や連日来店する客も多いんです。昨日は奥に置いていた商品を今日は表に出すことで、売り場が新鮮に見え、昨日は気づいてもらえなかった商品に今日は気づいてくれることもあるからです。

 この仕事が好きなのは、客が自分の顧客になってくれた時。「〇〇ちゃん今日いる?」といったように自分を指名して来店したり商品を買ってくれることがうれしい。ただし店長は自分だけが売り上げを取ってもダメ。売り上げが伸び悩んでいるスタッフの接客のサポートに力を入れています。なぜなら売り上げこそが販売スタッフの最大のモチベーションだからです。

 そのため自分の売り上げ目標をできるだけ早く達成して裏方仕事を引き受け、ほかのスタッフにできるだけ接客のチャンスが増えるようにしています。店長の評価は店長自身の実績ではなく、店全体の評価で決まるのだと思います。

 最近、代理店長として他店に応援に行く機会があり、他店とのやり方の違いや良さに改めて気づきました。「これはほかの店でも取り入れた方がいいのでは」など複数店を見渡して考えることが増え、エリアマネージャーになりたい思いが強くなりました。もっか、新店長を育成中です。

チームでこだわりの物作り

〈ミシンオペレーター〉ジョンブル本社工場 田中里佳さん

田中里佳さん

 ジーンズカジュアルメーカーのジョンブル(岡山県倉敷市)にミシンオペレーターとして就職し、22年3月で10年目を迎えます。

 手を動かすのが好きで、工業高校のファッション技術科で学び、インターンシップに参加したり、OB・OGの人の声などを聞いて、楽しそうだったので入社を決めました。

 本生産のチームで仕事をし、21年夏からリーダーを任されています。縫製の魅力は平面だった物がどんどん立体的になっていくところ。自分が縫った商品が、店頭に並んでいる所や、すてきに着用されている場面を見ると、励みに感じます。

 入社した頃は、ジーンズ特有の巻き縫いや特殊ミシンを使った工程などをうまくできるようになりたくて、努力しました。ここではパンツだけでなく、トップも一部縫いますし、こだわった物作りを重視しているので、様々な技術が求められます。

 縫製は奥の深い仕事で、例えばパターンや加工など、前後の工程ももっと学んでおけば良かったと思います。今でも苦手な〝縫い〟があると悔しくて日々、学び続けています。

 リーダーになってからは、納期と品質を両立できる役割分担を考えたり、後輩の技術指導でも頑張っています。技術を高めてもらえるように、指導に沿って新しい仕事を任せています。特定のスタッフに同じ工程ばかりが集中してしまわないようにし、みんなが楽しく仕事をできるようにすることも重視しています。

 今後の目標の一つは、縫製に興味がある人に向けて、この仕事の魅力を発信していくことです。コロナ禍でいったん中止にはなりましたが、自分から社内に提案し、母校で仕事について話す予定がありました。縫製はどうしても裏方のイメージがありますが、こだわりが詰まっている部分もたくさんあり、もっと注目されてもいいと思います。

華やかな舞台を支える

〈衣裳スタッフ〉松竹衣裳 営業本部演劇部第一演劇課 福島有莉さん 

福島有莉さん

 文化服装学院で服作りの基礎を学んでいた時、スタイリストのアシスタントを1年ほど経験し、衣装に関わる仕事がしたくて5年前、松竹衣裳に就職しました。舞台や映像の衣装、舞踏小道具の製作や貸し出しを幅広く手掛ける会社で、衣裳スタッフの仕事をしています。

 演劇や日本舞踊、テレビ・映画、イベントなどの部署がある中で1年目から今の課に配属され、歌舞伎や商業演劇の現場で、役者さんの衣装の準備や着付け、汚れなどの手入れ、公演後の保管までを担当。和装の着付けも一から学び、初めの3年は毎月、別の劇場に入り、古典的な歌舞伎から早替えのある現代風の商業演劇など様々なタイプの着付けを習得しました。

 最近は演出家やデザイナーとの事前の打ち合わせにも参加することも。演目が決まったら役に合う衣装のイメージを聞き、在庫から選んでもらうか、新作や新しい役は生地から手配し、社内の縫製担当や外部で製作します。全て揃ったら舞台稽古前の衣装パレードで出演者が試着し、サイズや着心地を確認して必要ならお直しを行い、各場面の衣装のバランスも確認。公演初日の数日前に舞台稽古が始まると、千秋楽まで劇場に入ります。

 今の部署には約50人の衣裳スタッフが在籍し、1公演7、8人で担当。公演中は開演1、2時間前に現場に入り、各自が担当の役者さんの着付けを行います。舞台稽古で、出番や着せ方の決まりを本人や先輩に確認。本番中の早替えは音やセリフでタイミングを覚え、台本とモニターを見て衣装を持って待機し、脱いだ服は汚れや壊れた部分を手入れして翌日に備えます。千秋楽の翌日にクリーニングに出し、棚に戻すまでが衣裳スタッフの仕事です。

 華やかな表舞台を支える大事な役目なので、役者さんが気持ち良く舞台に出られるように緊張感をもって働いています。歌舞伎は奥が深く、一つひとつ学ぶ必要があり、毎日が勉強ですが、伝統文化を現代につなぐ仕事にやりがいを感じます。ここでしかできない歌舞伎をもっと究めたい。商業演劇でも、リーダーとして全ての衣装を準備した舞台の幕を開けることが夢です。

有用な情報を社内外に発信

〈広報〉豊島 営業企画室 佐藤菜津紀さん 

佐藤菜津紀さん

 13年4月に入社しました。現在は営業企画室で広報業務を担っています。私が担当するのは、主に営業に関わる広報とプロモーションです。プレスリリース作成、それに伴う社内外の調整、イベント企画とメディア対応など幅広い仕事内容です。

 営業にとって常にプラスになる情報発信をするため、以前いた製品部の頃と比べ会社全体のことをより知っておかなければいけません。現状のプレスリリースは、社内から降りてくる情報をまとめたものが中心ですが、今後は自ら情報を集め、当該部署に内容や発表の仕方を含め提案できるように動きたいです。

 広報は会社を代表して情報を発信するプレッシャーもあります。当初は戸惑いもありましたが、部署内で上司や知見のある方にアドバイスをもらえる環境が整っており、心強いです。

 広報になり2年半ですが、印象深かったのは当社が推進するDX(デジタルトランスフォーメーション)で新しい3D・CGデザインシステム「バーチャルクロージング」を使い、大手SPA(製造小売業)と協業した時のプレス発表です。「ハンディキャップのある人にもファッションを楽しんでもらえる服作り」のプロジェクトを先方の広報担当者と何度もやり取りし内容を詰めました。そのかいあってテレビや新聞などに取り上げてもらい、多くの方から反響がありました。3D・CGは社会貢献につながる、ということを業界内外の人に知ってもらえました。

 私にとっては、広報の力を再認識する良い経験になりました。今は1人の専任ですが、上司からは「そろそろ後輩を育てて、複数体制にしたいね」と言われています。

 DXやサステイナブル(持続可能な)は今の業界のキーワードです。私が入社した頃と比べ、大きく変化しています。業界を目指す人は学生時代の経験を生かし、生活者へ衣に関する新しい価値やあり方を提案するチャレンジをして欲しいですね。

試着を重ね微妙な差を表現

〈パタンナー〉アイア ココディール事業部パタンナー 神木藍さん

神木藍さん

 4年制大学を出てから服飾専門学校で学び、14年にパタンナーとして入社しました。20代、30代向けの「ココディール」に所属しています。デザイナー3人、パタンナー6人の最多チームで、展示会は年4回、1回に110型前後を企画。毎シーズン、パタンナーは布帛とカットソーを1人15~20型ずつ担当します。

 デザイナーの絵が出てからパターンを引きますが、デザイナーの一人が務めるディレクターが表現したい気分をくみ取ることが重要。気分をパタンナー全員で共有し、合わせる服やトレンドの加減を考え、トワルを半身で組んでから、量産に使う生地を使ってトワルを縫います。トワルをデザイナーが着てパターンを修正し、仕様を決め、パターンと指示書を完成して工場に出します。

 サンプルが上がってきたら修正会議を開きます。会議の前に到着した物からS、M両サイズの社内モデルが着て担当デザイナーとパタンナーでウエストサイズを修正。会議では企画チームとMD、生産管理でデザイン変更や色選び、目標小売価格に収まっているかなどを確認します。会議後もデザイナーが試着し、価格に合わせた用尺の変更などに応じて形を修正。直し終えたらデザイナーとパタンナーが試着を重ねます。

 デザイナーあってのパタンナーなので、よく話し、指示の方向性をつかめるように工夫しています。他社よりサイズが少し小さめで、細い人や小柄な人でもゆるくならず、細く見えるブランドを目指しているため、試着と修正も大事。先上げサンプルを作る前、会議と試着の「後の後の確認」をパタンナー全員で全型に対して行い、手遅れとなるミスを防ぎます。

 パターンと検査表、指示書を完成して中国などの工場に送る時、難しい仕様は図や写真を入れ、正しく縫ってもらいます。先上げと各色サンプルが到着したらチェックし、展示会の前後に店への納品計画に合わせて量産の指示出し。毎週、仕事の流れや波を見て優先順位を考え、組み立てます。技術力を高め、任せて良かったと思われるパタンナーになりたいですね。

(繊研新聞本紙22年2月21日付)


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