《学ぶ・育てる》ファッションスクール発 うちの頼れる先生

2023/05/04 06:29 更新


 学校では4月の新年度に入り、入学式を終えて、そろそろ新学期の授業が始まった頃だ。入学者の確保に悩むファッションスクールも多い中、卒業後に役に立つと評判の授業、学生から頼りにされる先生も多い。各校で人気の授業や頼れる先生を紹介する。



杉野服飾大学 鈴木桜子教授 物の見方学びスタンス探求を

杉野服飾大学 鈴木桜子教授

 杉野服飾大学出身。他校の大学院を卒業後母校に就職し、1、2年生の必修科目中心に、西洋の服装史を含むデザイン全般の歴史に関する多くの授業を担当。4月に新設した服飾学部服飾文化学科でも「現在は過去からの蓄積の上にある。現代の課題を解決するために、歴史や伝統、歴史衣装の修復などを学び、現状が分かった上で未来に向けて持続可能性について考えてほしい」と歴史の講義を受け持つ。

 一般的に服装史は、各時代の装いの羅列を教える傾向が強いなか、時代や社会との関わりからファッション史を教える授業が人気だ。「人は必ず空間の中で服を着ている。建築にはゴシックやロココなど時代に応じた様式があり、装いも建築も美の考え方の一つ。時代によって美の求め方が全く違い、美の考え方は社会構造の変化、宗教的な問題など時代を反映し、染色や縫製技術の進化が服装の変化に影響を及ぼす」と、全体の歴史をざっくりつかんだ上で、ファッションの視点で装いの歴史を解説する。古代、中世など歴史の流れがあり、「近世はこんな時代」と各時代に意味があることを伝え、各様式別の特色、19世紀半ばからの近代以降はアールヌーボー、アールデコなどデザイン運動の流れも教えている。

 「ココ・シャネルが発表したリトルブラックドレスも時代の背景があって生まれ、スキャパレリのシュールレアリスムも芸術運動の中で出てきたデザイン。アート作品から想起し、感覚的にアートから借りてきて服を作る学生が多いですが、プロはどんな流れのアートかを理解して自分の物作りに取り込む必要があり、デザインは社会性と責任を伴うことを伝えている」。

 現代ファッション論も、歴史を基にテーマ別に教える。テーマのまとめでは4人グループを作って意見を交わし、多様な意見があることを学べる授業で、社会性も身につくと好評だ。

 「大学の4年間は社会に出る準備期間。社会に流されず立ち止まり、批判的に捉えることを学び、疑問を持って考えることが成長につながる。情報があふれ、自分を見失いがちな時代だからこそ、ぶれないために歴史的な物の見方を学び、情報の集め方、接し方も学習し、自分のスタンスを地に足が着いた形で見つけてほしい」と話す。

マロニエファッションデザイン専門学校 岡本剛二校長 失敗を恐れない行動力呼びかけ

マロニエファッションデザイン専門学校 岡本剛二校長

 「自分を大きく変えてくれたブランドのデザイナーになりたい」という目標を立て、マロニエファッションデザイン専門学校入学時から強い意志と努力、行動力で、夢を実現した経験の持ち主だ。同校の教員になってからも、こうした経験や企業デザイナーのキャリアを基に、授業で学生を力強くサポートしている。20年に校長に就任したが、今でも複数の授業に携わり、「少人数制学校の強み」として毎年、学生と直接面談も行っている。

 東コレにも参加したことのあるブランドで、チーフデザイナーとして奮闘した自身の経験を基に、「デザイナーとして、どう発想をすべきか」という部分から、企画の組み立て方、仕様書の作成といった実践的な部分まで、様々な授業を担当する。最近は、時代の変化をとらえ、デザイナー志望者のプレゼンテーション能力を養うことにも力を注いでいる。

 ファッションマスター学科4年生の担任も務めている。4年次は学生が3年間学んだ次の段階として、各自がそれぞれの自由研究を進める。海外コレクションへの参加やインターンシップなど、様々な挑戦を温かく支援している。

 学生には普段、「自分の目標に向け、失敗を恐れず行動すること」を強く呼びかけている。「目標は簡単にあきらめるものではない。強い思いや高い志を込め、その目標を実現するために必要なことを、一つひとつ具体化していこう」と学生に語りかける。

 「最初から正解かどうかを気にして踏みとどまらずに、まず踏み出してみることが大切。あれこれと蛇行することによって、様々な気付きや発見がある」と岡本先生。「それらは必ず将来の自分にとって、貴重な引き出しになるはず」と笑顔を見せる。

大村美容ファッション専門学校 諌山滉平先生 自分の経験、熱く人に伝えたい

大村美容ファッション専門学校 諌山滉平先生

 ファッションビジネスやコレクション解説の授業、販売ロールプレイングの指導などを行うほか、昨年度からは卒業制作ショーの演出も担当している。自身も大村美容ファッションの卒業生。在学当時から地元のアパレル会社の社長などが講師を務めており、実際に会社を運営する中で得たリアルな情報をもって指導する講師の姿に憧れ、人事や人材育成の仕事に興味を抱いた。卒業後は大手アパレルメーカーに入社したが、「ゆくゆくは教員に」との思いが強く、百貨店の販売員として3年間働いた後、縁があって同校に採用された。教員になって今年で9年目となる。

 多様な科目を受け持つ中で、特に〝ロープレ〟販売の授業では、接客する際の熱量を重視する。学生時代に「学生に向かって熱く語る民間出身の講師が楽しそうで、その姿がファッション業界自体も楽しそうに思わせてくれた」ため、自身のそうした体験を伝えられるように心掛けている。

 卒展制作ショーの演出は、コロナ禍を契機に担当することになった。これまで見てきたショーを基に手探りで進めているが、学生には作り手側の視点だけでなく、客として観る側の視点を意識させるなど、ここでも自身の経験を生かした演出指導を重視している。3、4年前から九州のいくつかの高校で、文化祭のファッションショーの指導に取り組んでおり、外部と自校での経験を相互に活用している。

 学生に学んでほしいのは、自分で考え、自分で発信すること。今の学生は間違えることに忌避的で、最初から正しい答えを求めたがる。そのため「伸びしろはあるのに、自分で限界を作ってしまっている。答えだけでなく、その過程をもっと大事にしてほしい」と感じている。

 自身が人からされて良かったことは、後人にも伝えていきたい。当たり前だが、学校や教員は学生の人生を預かっている。時には指導で厳しいことも言うが、そうした大人がいてくれることが大事。成長する途上には気づかないことの方が多いもの。いつか「そういうことだったのか」と分かってくれればよい、と考えている。

名古屋ファッション専門学校 早川満知子先生 学生の価値観引き出す

名古屋ファッション専門学校 早川満知子先生

 短大を卒業後、名古屋地区の百貨店に入社し、ラグジュアリーブランドの販売員として働いた。退職後も婦人服の販売員としてキャリアを重ね、縁あって非常勤講師として名古屋ファッション専門学校はじめ、複数の専門学校で教鞭(きょうべん)を執った。20年からは名古屋ファッション専門学校の正職員として教壇に立つ。

 ファッション業界に関わる内容の「ファッションビジネス演習」はじめ、客とのコミュニケーションの取り方や商品説明の仕方、買い上げの流れなど販売について教える「リテール演習」ほか、様々な科目を学生に教えている。

 中でも力を注ぐのが1、2年生に向けた「就職特別講座」。就職活動の進め方、自分に合う企業選びの方法などを学生に考えさせる授業だ。転職が当たり前の時代になるなか、「20歳からの10年間は人との関わり方や生涯のパートナーを見つける大切な期間」と考える。また、「新卒のスタートラインは最も希望する企業に行けるチャンス」でもあるからだ。

 型にはめて教えてしまうと学生の意思に沿わず、就職後の離職率が高くなるから、無理に答えは教えない。授業で学生同士が話し合う中で、仕事内容なのか、給料なのか、企業ブランドなのか、学生に自分の価値観を振り返ってもらい、自分の優先順位に自然と気付くようにもっていく。

 中には「自分の価値観を人に知られたくない学生もいる」。そう感じると人前で無理に価値観を発表させず、立ち話などでそれとなく引き出す。授業を始めて1年が経つ頃には「学生は目覚ましい成長ぶりで、驚かされる」と目を丸くする。

 「学生と接することができるのは2年間。長い人生で考えると、ほんの一部分。でも、その一瞬に何か良い影響を与えたい」と話し、最終的には「『名古屋ファッション専門学校で良い時間を過ごせたな』と思ってもらいたい」と真剣なまなざしを見せる。

(繊研新聞本紙23年4月24日付)



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