【連載】エグゼクティブキャリア新市場①

2018/12/08 06:30 更新


みんな服で悩んでる㊤ 「エンビ」高橋みどりさん ファッションは成功のツール 働く服こそ、すてきに優しく

 16年の女性活躍推進法施行、20年までの指導的地位の女性比率30%の政府目標などを背景に、管理職や経営者としてリーダー的な役割を果たす女性は、ゆっくりながらも着実に増加している。アパレルメーカーや小売店は、この分野のファッションを国内では数少ない成長が見込める有望市場とみて、商品開発や売り場作りに力を入れている。

 ただ、リーダーとしての役割を担う女性の装いは、ビジネスの現場で主役を務めてきた男性のビジネススーツのようなスタンダードがない。どう装うのか、戸惑う女性も多い。管理職やこれから管理職を目指す女性たちの悩みに向き合い、ソリューションを提供しようとするアパレルメーカーと小売店の現状を追った。

悩みのベスト5

 マーケティング・コンサルティングのオーエンス代表、高橋みどりさんはこの5年ほど、キャリア女性に向けた多数のセミナーでビジネスシーンのファッションについて講演している。そこで分かったのは、参加者はみんな毎日の服をどうすればいいのか「本当に悩んでいる」こと。裏を返せば、悩みに応えられる服や店が切実に求められていて、応えれば市場は広がるということだ。自らディレクションして、18年春夏からエグゼクティブキャリアのブランド「エンビ」(エプタモーダ)を始めた。

 私はセミナーでいつも、ファッションを考え直し、役職に合ったスタイリングをすることで自分たちのビジネスがスムーズになり成功につながる、目的を達成できると話しています。

 ここ3年ぐらい、課長以上に昇進する女性がとても増えました。毎日どんな服で働いたらいいのか分からない、誰も教えてくれないという人も増えた。セミナーの前にお願いしているアンケートでは、「トレンドは取り入れていいのか」「どこまで自分らしくしていいか」「若い人たちと違うスタイルにするには」「体形が変わってきた」「どれぐらいの価格のものを買えばいいか」が聞きたいことのベスト5。昔はスーツを着ていれば良かったけれど、その感覚は今だいぶ緩くなりましたし、働くシーンも広がったので、判断に迷っているんです。

高橋みどりさん

 私が考える仕事の服は、まずトレンドは必要ない。もちろん全く無視するわけではなく、シルエットやサイズ感、素材で今の感覚は取り入れますが。そして、オンでもオフでも着られる服はなく、割り切ってちゃんと分けないと両方中途半端になり、ビジネスを成功させる服は見つかりませんと話しています。

 ビジネスは相手、目的、その日何をしなければいけないのかがはっきりしているわけですから、仕事の服は一般のファッションとは考え方が違います。シーンや相手との関係性で服を選ぶ。それはイコール、プレゼンテーション能力でもあるのです。

 10年、20年前の〝キャリアウーマン〟のころは、仕事はできてもおしゃれじゃない、メイクもちゃんとしていない、みたいなところがあった。だから偉くなることに抵抗もあったのでは。日本ではファッションが成功のツールになることを自覚できていなかったわけです。

 女性にもっと活躍してほしい。それには誰の前でもどんなところでも自信を持って着て働ける服が必要です。この市場は可能性が大きい。ただ、スーツもブラウスもスカートも何でもあります、と並べただけや、価格や体形でまとめるといったこれまでの売り方では女性たちは買えません。

 ビジネスの様々なシーンで何を着るか考えてMDを構築し、スタイリングのイメージができないと納得できない。そして大切なのは、その服を着ることで、すてきに見えることです。シーンに合ったコーディネートができる力を持った売り場を作っていかなければ。

JR名古屋高島屋での期間限定店でトークショー(9月)

応援する気持ち

 エンビはこうしたことを踏まえて作ったブランドです。テーラードジャケットはあえて作っていません。ボウブラウスをキーにしていて、顔まわりが優しく女らしく見える、色々なシーンで着回せる、20代の人との差がわかるデザインにしました。ブラウスのボウは長めにし、結び方で昼と夜の使い分けができたり、ジャケットなどもネックラインを変化させたりできる。色はピンクやブルー系なども含め、それぞれのアイテムで13色用意しました。

「エンビ」18年秋冬

 カタログもシーン別にどう着ればいいかを示し、悩んだらこれを見て自分で組み合わせれば恥ずかしくないのよ、安心して買えるでしょう、と分かりやすく作っています。百貨店で期間限定店を開き、売り場ではトークショーも開催します。来場するのは30代後半~40、50代の方が多い。パーソナルなアドバイスもしています。

 このマーケットは売れ方はスローだと思います。しかし根気強く長い目で見て続けていかなければ。作る側、売る側も働く人を応援しようと言う気持ちが大事です。求めている女性はさらに増えていくのですから。

カタログはシーン別に
商品一つひとつにアイテムナンバー、デザインの種類、シーン別の頭文字のタグが付く。迷ったときはこれでコーディネート

(繊研新聞本紙10月30日付)



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