駅ナカ立地の攻略法 

2015/04/19 16:48 更新


《販売最前線》省力化と鮮度維持がカギ 短い接客で回転高める工夫も

 空港、駅、高速道路などトラフィックチャンネルと呼ばれる販路が台頭して久しいが、そのなかで最も売り場を広げたのは、鉄道利用客の通行路を売り場として開発した駅ナカ業態だ。売り場面積が狭く、客の滞留時間が極端に短いなど、通常の商業施設と異なる点が多いが、特にファッションビルが多い都市部のターミナルでは、駅ナカのオペレーションはどんどん進化している。効率的に通行人を購買客に変える駅ナカ特有の工夫をみてみよう。(津田茂樹)

■作業省き〝持たざる〟運営に

 駅ナカ店舗の運営で最も問題となるのは、在庫の問題だ。駅ナカはバックヤードが小さいどころか、中には持たない店もある。そのため店頭での搬出入が頻繁となり、発注や検品、値札付けなどの作業時間が増えてしまいがち。そこでジェイアール西日本ファッショングッズが取り組むのは、作業の効率化だ。

 直営37店のうち半数近くが駅ナカ業態の同社では、売り上げの大きい店には、あらかじめ物流会社で検品を済ませてから搬入している。アクセサリーアイテムについてはメーカーを絞り、発注先そのものを減らすことで、店舗スタッフがメーカーに連絡する手間自体を少なくしている。店内には品番別に値札の付いたダブルフック什器を使い、値札シールレス化を実現。同什器は新店から始め、採用店舗を増やしている。

値札シールを付ける作業を省くダブルフック什器(エピソード新大阪東改札前店)
値札シールを付ける作業を省くダブルフック什器(エピソード新大阪東改札前店)
独自の運営ノウハウを進化させる駅ナカ店舗が出てきた(ディスコードプティエキモなんば店)
独自の運営ノウハウを進化させる駅ナカ店舗が出てきた(ディスコートプティエキモなんば店)

 こうした作業の省力化は、接客時間の確保にもつながる。駅ナカは作業に追われがちなだけに、客へのあいさつと笑顔を向ける時間を多くする工夫がいる。省力化は、作業の平準化や研修時間の短縮につながるメリットを生むだけでなく、駅ナカ運営で最も課題となる要員充足率の改善にもつながる。

 とはいえ、接客自体の省力化が避けがたいのも事実だ。パルグループの駅ナカ業態で「ディスコートプティ」の一番店、エキモなんば店では、店頭作業が多いうえに回転が速いため、通常業態だと3・5人で済む売り場面積に平均5人を充てる。バックヤードがほとんど無く、什器類のほとんどに〝隠しスペース〟を設けるほどだが、アイテム数が多いため、店舗近くに倉庫を借りている。

 そこで同社が試みるのは、客に声をかけてすぐに離れる「タッチ・アンド・ゴー」式販売。長い時間接客はできないが、声をかければ売り上げが促進するという駅ナカ特有の購買特徴に対応し、レジへの誘導を早める接客スタイルだ。販売がピークとなる17時以降に、通常の接客からタッチ・アンド・ゴーに切り替えているという。

■高回転を実現する頻繁な店頭変化 

狭い店内には省スペースと省力化のアイディアがいっぱい(イイコット大阪店)
狭い店内には省スペースと省力化のアイディアがいっぱい(イイコット大阪店)
入り口近くのイベントスペースは短期間で陳列を変える(イイコット新大阪店)
入り口近くのイベントスペースは短期間で陳列を変える(イイコット新大阪店)

 運営上のもう一つのポイントは店の鮮度維持だ。駅の乗降客の多くは、毎日ほぼ同じ道を通り、日常的に店を見ることになる。いつ見ても同じ印象を与えないよう、絶えず店に変化を持たせなければならない。また、駅ナカ立地は家賃も高く、低単価品を高回転でこなす必要がある。

 JR西日本ファッショングッズは、アクセサリー、化粧品、服飾雑貨を扱う駅ナカ業態の「エピソード」16店と「イイコット」3店で、入り口に近いイベントテーブルに配置する商品を頻繁に変えている。本社で売れ筋を見極め、配置商品を決定。提案商品の見極めが売り上げを大きく左右するという。イイコット新大阪店には専属のMDがおり、同店の陳列が全店統一した演出の見本となっている。

 ディスコートプティも同様だ。平台での商品やタペストリーなどは、1~2週間で変更し、飽きさせないようにしている。同業態は品揃えの半数以上を雑貨で占めつつ、売り上げの7割はウエアが占めている。売れ筋はトレンド感のあるベーシックなニット、カットソーのトップが中心。つまり、雑貨で入店を促し、流行やサイズを問わない定番に一手間加えたトップで客単価を稼ぐようにしている。

■施設運営者に聞く 駅ナカの可能性は?

喜田恵里さん
喜田恵里さん

 駅ナカ業態から撤退する専門店・ブランドも出てきているが、駅ナカにはビジネスチャンスはまだあるのか。大阪市営地下鉄の駅ナカ事業「エキモ天王寺」「エキモなんば」「エキモ梅田」を東急不動産と開発した南海商事の喜田恵里営業推進第二部課長に聞いた。

 ――数年前に注目された駅ナカ業態。人気は続いているか。

 13年4月のエキモ天王寺開業に始まる同事業の説明会には416社が集まり、大阪初の本格的な駅ナカ商業施設への注目の高さを示しました。1年を経過した天王寺、なんばはともに前年同月の売り上げを2ケタ以上伸ばしています。開業前はウエアの苦戦が予測されましたが、オペレーションがしっかりしており、ファン作りに成功したテナントは好調です。

 ――テナント開発で心掛けることは。

 各駅の特性を重視した編集です。立地の便利性だけでなく利用客の属性に合わせ、天王寺だと生活者、なんばだと観光客、梅田は働く人のサポートを意識した売り場編成となっています。駅ナカ利用者は歩く速度が速く、店を目に留める時間が短いため、他業態よりも注目度を上げる努力が必要です。施設内に販促物の掲示スペースが少ないといった制約がありますが、鉄道側と連携し、駅ホームでの販促や車内放送などでデメリットを補うことは可能です。

 

■駅ナカ☆トリビア

Q.ピークの時間帯は?

A.平日が18~19時、休日が16~17時。客数に曜日の差はさほど無い。

Q.月別売り上げは?

A.7月、次いで12月が多い。両方とも全体の約10%を占める。逆に少ないのは2月、次いで9月。

Q.売れ筋は?

A.(96%を占める)服飾雑貨ではサングラスや日傘、手袋、マフラーなど季節性の高いものの比重が大きい。

(回答は松永勝宏ジェイアール西日本ファッショングッズマーケティング室長)



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