《第12回ファッションECサミット》SNSが開く共感の扉 多様な発信が成功の鍵

2023/07/11 06:25 更新


アワードの授賞式。左からコヒナ、パル、アウー、メイキップの受賞者

 繊研新聞社は6月に第12回「ファッションECサミット」をオンラインで開いた。ECの優秀・注目のサイトと支援ツールを選ぶ第6回「ファッションECアワード」の表彰式と受賞企業などのウェビナーを開いた。基調講演は「ファッションECアワード」のECサイト部門でフォーカス賞を受賞したパルと「コヒナ」の担当者が「SNSが開く共感の扉」をテーマに対談、エクセレント賞を受賞したアダストリアは「『.st』、進化するOMOの今」をテーマに講演。サポート賞に選ばれた2社や注目のサービスプレゼンテーションも開かれた。その一部を抜粋する。都合により欠席となったエクセレント賞のユニクロは後日インタビュー取材を行った。

フォーカス賞 基調講演

《対談》
newn 「コヒナ」ディレクター 田中絢子氏 ×
パル 常務執行役員プロモーション推進部部長WEB事業推進室室長コミュニティーデザイン室室長 堀田覚氏


 対談では、SNSマーケティングにおいて注力すべきポイントから、人材確保の問題まで話題は多岐にわたった。

 パルの堀田氏は会社全体の年商が約1600億円、うちEC売り上げは400億円、公式EC「パルクローゼット」の会員数は約800万人と説明。1700人ほどのスタッフが個人でSNSを運営し、総フォロワー数が約1000万人に達しているのも特徴だとした。

 身長155センチ以下の女性に向けたアパレルブランド「コヒナ」ディレクターの田中氏は、期間限定店も出しつつ売り上げのほとんどはECだと話す。立ち上げから5年経つが、当初からSNSを使ったマーケティングを重視しており、強みになっていると強調した。

 15年ごろにパルに入社した堀田氏は、当時はインスタグラムが注目され始めた時期だったと振り返る。自身のアカウントで店舗への集客につなげるスタッフも出ており、ノウハウを社内で共有しながらスタッフによる個人アカウント運用を推進してきた。転機になったのはコロナ。店舗へ来れない客への接客ツールになったという。

 田中氏はブランドが動き出す前からインスタグラムで発信をしてきたのが成長の鍵だという。立ち上げの3カ月ほど前から、低身長の女性向けのコーディネートを見せたり、悩みに寄り添う情報を発信し、ファンを増やした。SNSは商品を売るより、役に立つ情報が手に入る場にするのが重要だと言いきる。堀田氏も共感できる悩みを持つスタッフは人気が出る傾向にあるとし、画一的なかっこよさだけが受けるわけではないと同意した。

 発信の継続性についても語られた。堀田氏はまずやってみて続けることが重要だとしたうえで、スタッフのフォロワー数やECへの誘導に対してインセンティブをつけていることにも触れ、モチベーション向上に有効だと話した。

 田中氏は毎日開催するライブ配信について語った。基本は商品紹介や客の要望吸い上げが目的だが、ネタ切れになっても雑談で盛り上がり、客との重要な接点になっている。会社員やママなど多様な背景のライバーを公募で集めているのも強みという。

 今後の課題は人材確保だと両者の意見が一致。田中氏はSNSの時代において、トレンドなどの変化に素早く対応できる人材の獲得が急務だと話す。堀田氏は多様性の時代に対応する人と商品を揃えるには、企業のポリシーを発信し共感してくれる人材を集めることが重要になるとした。加えて、テクノロジーを駆使し、求めてくれる客へ適切に届ける発信を強化するべきだと訴えた。

エクセレント賞 基調講演

根底に「お客様ファースト」
アダストリア 執行役員マーケティング本部長 田中順一氏


 「エンターテインメントコミュニティー(EC)を体現していきたい」と田中氏。「ドットエスティ」でのUI(ユーザーインターフェース)のデザイン設計やウェブ接客、OMO(オンラインとオフラインの融合)の推進について話した。

 14年にドットエスティを始めた。売上高と会員数が拡大した分岐点は二つ。一つは実店舗とECの会員統合で、1万人以上の販売員の働きかけが成長を大きく支えた。もう一つはコロナ禍で「販売員やブランドの力、企業の姿勢を改めて考えさせられた」。その気づきを基に、最近はOMO店舗「ドットエスティストア」の出店や他社商品の販売、コンテンツの内製化でさらなる進化を見せる。

 EC事業の根底には「お客さまファースト」がある。UIをデザインする上では客観性が重要と、半年に一度、NPS(ネットプロモータースコア)を計測。ドットエスティでは毎日300~500件の客の声を集めて分析し、改善のための優先順位を明確にしてチームで実装する。ウェブ接客は社内の情報交換を活発にしてスキルや質を向上。「個人がメディアの時代」である一方、ウェブ発信には「色々な人の協力や理解」が欠かせないとする。ドットエスティストアでは、客のリーチを広げるECと五感を刺激する実店舗で「相関関係を作ってエンゲージメントを高める」ことを目指す。

ECの基本価値に立ち返る
「ユニクロオンラインストア」 ファーストリテイリング グループ執行役員 ユニクログローバルEC事業責任者 日下正信氏


 ECの役割について日下氏は「ユーザーフレンドリーであること」が重要と説く。「その基本をECの担当者は意外と忘れてしまいがち」と指摘。良かれと思って新機能を増やし、気づいたらオーバースペックで使いづらいサイトになってしまうことがある。行動制限が無くなり、市場では消費が店頭に回帰し、ECの伸びが鈍化する今、「何かしなければと焦ってしまうかもしれないが、そんな時こそ買いやすく、探しやすく、早く届くというECの基本価値に立ち返るべき」と説いた。

 OMOの視点では、ECでの注文から最短1時間で店舗受け取りができるオーダー&ピックがコロナ禍後も伸びている。店舗在庫から個人宅への発送も始めている。セルフレジや業務用アプリ、RFID(ICタグ)の活用で、スタッフの作業負担も軽減しながら運用面を磨く。「これからもできることはたくさんある」とし、「デジタルを使って店舗をアップグレードしていきたい」と語った。

サポート賞に選ばれた2社が講演

回遊率、CVR改善に寄与
アウー コンテンツマネジャー 坂居広行氏

左からアウー、ミレー、リーガルの担当者

 リーガルコーポレーションの秋葉光徳ネットコマース部部長とミレー・マウンテン・グループ・ジャパンの奥村武営業部イーコマース・マネージャーがゲスト登壇。ハッシュタグ自動生成・最適化ツール「アウーAI」導入によって、サイト回遊率、CVR(購入率)が改善した事例を紹介した。

 リーガルはECに集客した後の回遊率、直帰率、離脱率の改善が課題だった。商品が靴に限られているため離脱しやすく、見せ方に工夫が必要だったほか、検索しづらいという声が客から寄せられていた。ミレーは商品の機能説明が長く、登山初心者が理解しづらいサイトになっていた。客層が40~70代で、検索窓を使う人が少なく、バナーの商品など特定の商品に閲覧が集中して回遊性が鈍化。ロングテール商品の閲覧数が低いことも課題だった。

 アウーAIは商品のデータフィードをもとに様々な特徴を学習し、最適なハッシュタグを自動生成するもの。クッキー情報に依存しないレコメンデーションが可能になる。商品の機能性など画像で識別できない細かなニーズや、ユーザーの潜在ニーズをハッシュタグで表し検索性を高めることが出来る。両社の場合は、「防水 スニーカー」「パッカブル ジャケット」など機能性を端的に説明するハッシュタグが自動生成され、「ゴアテックス」などの用語を知らなくても感覚的に目的の商品にたどり着ける買い物体験が実現した。ハッシュタグを経由した人と経由しない人の比較では、回遊率はリーガルが3倍、ミレーが5倍、CVRは両社ともに約2倍に高まった。

 ハッシュタグに関連した商品を集約したランディングページ(LP)も自動生成され、リーガルはLP経由で商品詳細ページを閲覧する割合が8割と高い。SEO(検索エンジン最適化)にも効果を感じている。ミレーは課題だったロングテール商品の閲覧も高まった。新規とリピーター共に効果が得られ、店舗のような買い物体験に近づけられたと語った。

試着・身体データをもとに
メイキップ 代表取締役 柄本真吾氏


 ファッションEC向けサイズレコメンドエンジン「ユニサイズ」の特徴と試着・身体データを活用したパーソナライズ施策をプレゼンテーションした。

 「ユニサイズ」は約1分の簡単操作で、欲しい洋服の最適なサイズをレコメンドするもの。CVR(購入率)が2.5倍、返品率が20%抑えられるのが「最大の価値」で、現在約250サイトで導入されている。ユーザーは250サイトのどこでもシームレスに使えるため利用率が高く、約4万ブランドに対応したボディーサイズのデータベース構築によってフィッティング精度も高いのが特徴だ。

 蓄積した試着・身体データを顧客・商品分析やマーケティングにも活用して付加価値を高めている。たとえばユニサイズで試着した未購入者に対して、値下げや在庫減、再入荷のタイミングでプッシュするターゲティング機能や、ユーザーに類似した体形や趣味嗜好(しこう)のスタッフコーディネートを提案するサービスを実装した。「誰一人サイズで迷うことのない世界を作るため、これからもサービスをアップデートして常識にとらわれない新しい試着体験を提供していきたい」と語った。

注目サービスのプレゼンテーション

OMO必須のデータPF
AMS 常務取締役 古田俊雄氏


 「在庫管理から始める顧客体験価値を向上させるOMO戦略」をテーマに、総合オムニチャネルプラットフォーム(PF)「プラムスオーダー」を提案した。同サービスは、店舗とECの在庫をシームレスに販売することや、顧客情報の一元化による顧客サービスの拡充を進め、オンラインとオフラインの垣根を越えたオムニチャネル化を進める。「在庫一元管理は、在庫取り置き、取り寄せ、客注配送サービスを含むものとなっている」と指摘した上で、これを実現するには「店舗、EC、サービス、物流など様々な機能を組み合わせることが必要となる」として、OMOに必要な情報をつなぐデータプラットフォームを提案。店舗スタッフが店舗在庫のない商品を販売できる「客注サービス」や、ECから店舗在庫を購入できる「取り寄せサービス」、ECから店舗在庫の試着予約及び商品の取り置きができる「取り置きサービス」などを紹介した。

きれいなのに軽い画像に
CRI・ミドルウェア SmartJPEGセールスリード 三上夏代氏


 画質を落とさず画像を軽量化するサービス「SmartJPEG」を提供する。忙しい事業者向きの構築不要で導入できるプラン「スモールスタートプラン」を紹介した。クリックされるためのポイントを抑えた〝売れる画像〟に欠かせないのは、画質がきれいであること。しかし、着用イメージや素材感を伝えるための繊細な描写の画像は、情報量が多く重くなりがちだ。「きれい」と「軽い」の両立は難しいが、同社は同じピクセルサイズの画像でもきれいに見える画質に合わせて軽量化する。導入企業の成功事例の画像を見せながら、実際の効果を解説した。画像を軽くすることで、画像の読み込み速度が向上して売り上げアップとコスト削減による利益率アップが見込まれる。

アプリでコアなファンと接点
ヤプリ マーケティング部 神田静麻氏


 アプリ開発プラットフォーム「ヤプリ」は活用事例や新サービスを紹介した。今年は10周年で、4月には開発したアプリのダウンロード数が累計1億5000万回を突破した。ユーザーはプログラミング不要のノーコードで、アプリを運用できる。アプリは売り上げの大半を占める〝コアファン〟の育成やコミュニケーションの構築に効果的だ。スタッフのコーディネート投稿が好評でEC売り上げが約1.5倍になったパレモや、LTV(顧客生涯価値)が前年比110%増、アプリ経由のEC売上高が50%超えになった「チュチュアンナ」などの事例を紹介した。顧客管理や販促に特化した新しいアプリやサービスも紹介した。ポイントや電子マネーの発行・管理、プッシュ通知やアプリ内広告などのプロモーションもできるようになった。

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