紡績から織り、染色、仕上げまで自社工場で一貫生産するイタリアの毛織物メーカーでは、調達網や生産工程の透明性を確保するところから、さらにもう一歩進め、原料調達先の認証取得を支援したり、バリューチェーン全体の環境インパクトを公表したりする動きも出てきた。
【関連記事】エコ素材、次の一手 秋冬欧州素材見本市から㊥
顧客に再保証
「サステイナビリティー(持続可能性)は、トレーサビリティー(履歴管理)と考えている」。そう話すのは、ピアチェンツァ社長のカルロ・ピアチェンツァ氏。主力のカシミヤを調達する中国内モンゴルの農家に対し、国際認証の取得を支援している。効率重視から牧場伝統の生産方法に立ち返ってもらい、動物愛護や環境保全への取り組みを促す。農家には、安定した買い上げ価格と数量を保証する。
レダは今年から、「環境製品宣言」(EPD)を実施。国際基準に基づき、テキスタイル生産を通じた環境負荷を数値化して情報提供する。同社は以前から、動物愛護や環境保全が保証された原毛を使用し、生産工程も環境負荷の低減へ積極投資してきた。
EPDの結果を会計報告やプレスリリースなどで公開し、自社のサステイナビリティーを顧客に再保証する。エルコレ・ボット・ポアーラCEO(最高経営責任者)は、「今後もっとEPDに取り組む企業が増えれば、競争が生まれ、環境負荷を低減する動きがより強まっていくのでは」とも話す。
カノニコは18年度から、サステイナビリティー・レポートを発行した。グローバル・レポーティング・イニチアチブが16年策定したサステイナビリティー報告書のガイドラインに照らし、自主作成したもの。経済的、社会的、環境的な観点からの取り組みと主な結果を説明している。
併せて、サステイナビリティーを前面に出した初のブランド「H.O.P.E.」を発表した。リサイクルウール、リサイクルメンブレン、未染色の三つの切り口で、これまで取り組んできた自然環境や人に配慮した物作りを「改めて発信する」(カノニコ)狙いだ。

産業全体の動きに
「サステイナビリティーの価値はきちんと計測され、透明性を持って、最終消費者に伝えられるべき」と、伊ファッション業界団体システマ・モーダ・イタリア(SMI)のマリーノ・バゴ会長。サステイナビリティーがマーケティングやトレンドの観点でも取りざたされ、様々な国・地域の幅広い企業が取り組みと発信を強めるなか、「サステイナブルな物作りに20年前から取り組んできた」優位性を発揮するためだ。欧州、とりわけイタリアは他の国に比べ、サステイナビリティーに関わる規格が充実していると強調する。
伊素材見本市のミラノウニカ(MU)がサステイナビリティーをテーマに開いたパネルディスカッションでは、「川上から川下まで」という言葉が繰り返された。「素材だけでなく、産業全体で取り組める要素は多い」(ボット・ポアーラMU会長)とし、アパレルメーカー、小売りも巻き込んだ取り組みで、メイド・イン・イタリーを盛り上げる狙いだ。
設備投資、認証取得・維持、消費者への啓発など、サステイナビリティーを目指した物作りには、多大なコストやリスクが伴う。イタリアはアパレルメーカーや小売り、消費者の意識改革を進めるとともに、「中小企業も実現可能な」(バゴSMI会長)法整備などを「産地ごとでなく、オール・イタリーで」(ポアーラMU会長)政府に働きかけていく考えだ。
昨年は、伊ファッション連盟がウニクレジットバンクと組み、サステイナビリティ―に投資する中小企業の長期的な支援を発表。今回は、25年にテキスタイルのリサイクルに重点を置いたごみ分別法の施行を目指すことが示された。
(繊研新聞本紙19年7月31日付)