ドリス・ヴァン・ノッテンが退任する。3月19日の夜、退任のレターが届くとニュースは一気に拡散し、多くのファッション関係者がSNSにあげた。その反響の大きさに、ブランドを愛する人の多さを感じた。
(青木規子)
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6月末に発表する25年春夏メンズコレクションが、彼による最後のショーとなる。すなわち、ウィメンズコレクションは2月末に行われた24~25年秋冬コレクションが最後となった。最後とは知らされぬまま披露されたコレクションは、きれいな色が重なるドリスらしい美しさに満ちていて、多くの人の心をつかんだ。
86年のデビュー以来38年間、鮮やかな色や柄、インドで施される刺繍を組み合わせたコレクションで魅了し続けた。レザーグッズを主力とするブランドが増えるなか、服を柱とする数少ないファッションデザイナーとして際立っていた。
特にここ数シーズンは、服への愛情を強く感じるコレクションで引き付けた。24年春夏は「見たことのない、ありふれたもの」をテーマに、日常を彩るスタンダードな服に新たなエネルギーを吹き込んだ。愛着をもって服との関係性を築くことの幸せに改めて気付かされるシーズンだった。
SNSマーケティング全盛のファッションウィークのなかで、真摯(しんし)に服と向き合う姿勢に、ファッションの未来の可能性を感じた。そのデザイナーが退任することは、ファッションウィークの歴史における一つの転機と言える。
後任デザイナーは今後、適切なタイミングで発表される。服作りとその姿勢は、彼とともに仕事をしてきたスタジオチームが継承する。ドリスは「この時に備え、しばらくの間準備してきた」とし、数年かけて盤石の体勢を整えたことがうかがえる。今後の仕事にも期待したい。
58年、アントワープ生まれ。81年アントワープ王立芸術アカデミー卒業、「アントワープシックス」の一人。オリエンタルなど独自のスタイルが評価され、ビジネスを確立した。メンズウィメンズ合わせて年4回、パリでショーを行ってきた。