最低工賃の設定を望む声強く
縫製工場を苦しめているのが低工賃と小ロット。国内の最低賃金が上がる中、縫製工賃は据え置きか、逆に低くなる傾向にある。中国やASEAN(東南アジア諸国連合)など安価な海外生産との比較によるものだ。
労基法を守れない
工賃はサンプル生産後の工程分析、ロット数、納期などを踏まえ、その上で必要な利益を乗せた積み上げで設定されるのが基本だ。しかし、「希望工賃を提示しても通らない」「商社からの言い値が全て」「アパレルメーカーからの指定になることが大半」との嘆きが多い。「20年以上前よりも安い加工賃で仕事を請けている」という声もある。ある縫製工場は当時取引があったアパレルに、「この工賃では労働基準法を守って働かせられない」と訴えた。すると、「ほかの工場も(労基法を)守ってませんよ」と、暗に違法労働を迫られたという。
振り屋の存在も低工賃を助長している。振り屋とは、縫製工場に仕事を〝振る〟(生産委託する)ことで中間手数料を得る企業・個人のことだ。縫製工場は営業が弱いため、仕事を持ってきてくれる振り屋に歴史的に助けられてきた側面もある。
問題は、生産管理をせず、本当に仕事を〝振るだけ〟の振り屋の存在。何もしなくても、当然マージンが発生する分、工賃が低くなる。ある縫製工場では「中間業者が6社入っていたこともある」と苦笑いする。「振り屋を排除して欲しい」と怒る声も聞こえてくる。
100枚以下は当たり前
受注数量が少なすぎる悩みもある。100枚以下の注文は当たり前。しかし、この程度の枚数では、どんな工場でも、品質を安定させて納品することは難しい。「デザイナーブランドからレザーコートの注文がきたが、枚数はたった8枚」と、ため息が漏れる日々が続く。
最低賃金が10月から全国各地で改定され、平均で25円増の時給823円になった。人件費負担増で工場経営は一層厳しくなる。繊研新聞社が実施したアンケートでは、約25~50%の工賃増を望む声が目立った。小売価格の10%前後である今の工賃では成り立たないというわけだ。
低工賃を是正するため、ある縫製工場の経営者は「最低工賃を国や行政が設定し、不当競争を防止して欲しい」と主張する。
例えば、仮に、布帛シャツの業界の平均工賃が2500円だった場合、その8割の2000円を最低工賃とし、それ以下は規制対象にする。「それが出来れば革新的」と賛同する工場経営者もいる。そうしないと、日頃の赤字補填(ほてん)のために採算度外視で受注を続ける悪循環が途切れず、適正工賃の仕事を請けることが困難だからだ。
生産の海外移転と低工賃、人手不足と後継者難…。国内縫製業は限界に近づいている。その課題と展望について取材した。この連載へのご意見・ご感想を、housei@senken.co.jpまでお寄せください。