「履けるなら履きたい!」が生む消費㊤

2018/05/03 04:45 更新


《「履けるなら履きたい!」が生む消費 百貨店婦人靴売り場から㊤》売れ筋よりも“個に寄り添う” シューフィッターや販売員育成も

 パンプスなくしては成り立たないのが、百貨店の婦人靴売り場。この数年、他業態で低価格のトレンド靴が増加した影響で、ボリュームだった1万円台の商品が苦戦している。一方で、広がったのが、来店客に向き合い、一人ひとりに合った一足を提供する売り方だ。多くの売れ筋を作るよりも、いかに個に寄り添うか。付加価値の捉え方が変わってきた。

(須田渉美)

催事販売に反響

 昨年も百貨店婦人靴売り場の販売は決して良くなかった。高級スニーカーは売れても、平場のパンプスの売り上げはほとんどで前年割れ。そうした中で、全日本革靴工業協同組合連合会が管理・運営する革靴認証プロジェクトが、快進撃を続けている。

 日本製で「革靴基準品質」を満たした合計288サイズから、ジャストフィットのパンプスを提供する「パンプスメソッド研究所i/288」の催事販売を高島屋で開催。べージュを中心に21色の革からオーダーでき、昨年は1週間で大阪店219足、玉川店141足、横浜店106足、日本橋店は1カ月で459足を販売。

 さらに、今年2月の名古屋店では、1週間で370足、売り上げが1000万円を超えた。3月に再び行った大阪店は280足。税込み2万9160円の価格はインポートブランド並みだが、「洋服やバッグはお金を出せば、欲しいものが買える。でも、靴はお金ではどうにもならないと、あきらめていた消費者は多かった」と担当者は話す。

 三越伊勢丹でも、オリジナル「ナンバートゥエンティワン」で昨年9月に始めたプレーンパンプスのイージーオーダーが好調だ。伊勢丹新宿本店、日本橋三越本店、三越銀座店の3店で実施、半年足らずで年間販売目標を上回り、予定の2倍以上のペースで受注した。

今秋から太ヒールも加わった三越伊勢丹「ナンバートゥエンティワン」のイージーオーダー

 「パンプスを履けるなら履きたい!と思っている女性がどれだけいるか、自分たちが勉強になる取り組み」(松野裕婦人靴バイヤー)だ。13種類の革から選べ、価格は2万1600~2万3760円。サイズは横幅A~3Eの7種類、21~26センチに対応し、2種類のトウライン、5センチと7センチのヒールを揃えて合計28モデルがある。

 これらは、同ブランドを始めた11年以降、国内メーカーと開発して販売実績のある木型を使い、全サイズを網羅しなくても、大方のニーズに対応できるという。B~Cの受注が約30%を占める結果も出ている。

潜在ニーズが「表」へ

 これらの消費傾向は、絶対数としてジャストフィットのパンプスを求める女性が増えたことによるものではない。既製靴はほとんどがE、2Eを基準に生産され、最大公約数の形には合わない消費者の声を聞き入れていなかっただけだ。

 靴専門店でi/288の常設売り場を導入したキッドでも顧客は増え続ける。「パンプスが合わないと悩む人の多くは、自分の足の特徴に気づいてもいない。今までそういった情報が少なすぎたし、解消できることに大きな期待がある」と小堤啓史専務は話す。

 もう一つに、そごう横浜店の上級シューフィッター、林美樹さんの事例が挙げられる。足の悩みを持つ人が履きやすいハイヒールを提案できる接客力が支持され、遠方からも来店が多い。

そごう横浜店は足に関する悩みとレッグファッションのカウンセリング体制を整えている

 個人のブログやSNSでの情報発信が盛んになる中で、新規客の問い合わせは増える一方。この6カ月で300人の予約を受け、現在も「1カ月待ち」。その40%がネット経由という。「『靴、痛くない』『パンプス、楽』といった検索で私の名前が出てくるらしい」と林さん。

 ただ、個人の接客では受け入れられる客数に限界がある。同店では他に専門職で3人の上級シューフィッターがおり、足の悩みを解決する接客と購入後のフォローアップに力を入れる。こうした成功事例をグループ内で応用するため、林さんは今、そごう西武の首都圏4店でシューフィッターの育成と販売員教育に取り組んでいる。



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