ベテラン記者によるジーンズの深いぃ話-10

2015/08/02 08:05 更新


 ジーンズを担当して20年の繊研新聞記者が、方々で仕入れてきたジーンズ&デニムのマニアック過ぎる話を、出し惜しみせず書き連ねます。
 ジーンズは新しい素材や加工などの技術開発によって新商品を生み出し、その市場を広げてきたといわれます。日本のジーンズの歴史を振り返りながら、商品開発によっていかにジーンズの着用層やマーケットを広げてきたかをみてみます――。

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日本のジーンズの歴史を振り返る(下)
右綾と左綾のわずかな違いも見分けた日本の消費者

◇当初は事故続出だったストレッチジーンズ

 90年代後半にはストレッチジーンズのブームも到来した。きっかけは欧州ブランドの「シマロン」や「ピカデリー」。当時はまだ「スキニー」という言葉はなかったが、ストレッチ性の強い生地を使った細身のジーンズが女性の人気を集めた。それに追随して、国内のジーンズメーカーもこぞってストレッチジーンズを打ち出した。それがその後のカラーパンツブームにつながり、ストレッチ性のあるカラーパンツの人気が数年続いた。細身のジーンズはストレッチ性がないとはきづらいため、今ではレディスジーンズではストレッチが”標準装備”となっている。

 あまり表には出なかったが、ストレッチ素材は生地の中にスパンデックス(ポリウレタン弾性繊維)を織り込むため、当初は素材や製品の事故も多かった。それまでのストレッチ商品は婦人のスカートなどが中心で、ストレッチのパワーが弱く、製品洗いなどの加工もしないのでトラブルが少なかった。ところがストレッチジーンズは強力な伸縮性が求められ、しかも洗い加工や製品染めなどで生地を痛めるので事故が起きやすい。

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 トラブルの一つにスリップ・インがある。スパンデックスは原糸をそのまま使うのではなく、芯糸にしてそのまわりを天然繊維で包んだり撚り合わせたりして使う。ところが芯のスパンデックスだけが切れたり糸抜けし、生地の表面に飛び出したり、その部分だけ伸縮性がなくなってしまうのがスリップ・インだ。

 ジーンズは初めて水洗いすると縮むことはよく知られているが、ストレッチのパンツも水洗いすると縮む。特にカラーパンツは製品染めするものが多かった。製品染めでは、染める色や濃度によって染色時間や温度が変わる。これが縮率の差となってサイズのばらつきが起こる。極端な例が白のパンツで、白は精練漂白と水洗いだけなので、他の色のパンツとの間に当然縮率の差が出る。

 メーカーではこうした不良品が出荷されないよう検品を行っているので、不良品が消費者の手に渡ることはほとんどないが、当時はこうした事故が「メーカーでは毎日のように起きていた」(ジーンズメーカー)という。

◇”はいて楽”なニットジーンズ

 2000年代に入るとプレミアムジーンズのブームが起きた。1万円を超える米国の高級ジーンズブランドが世界的にブームとなり、米国から続々と高級ジーンズブランドが日本に上陸した。プレミアムジーンズの詳細については次回に譲るが、それまで実用衣料の位置付けだったジーンズをファッションアイテムに押し上げ、女性が通勤着としてはくようになった。それまでジーンズを扱っていなかったアパレルメーカーもジーンズを手掛けるようになり、1万円を超える高級ジーンズのマーケットを作り上げた功績は大きい。

 最近ではニットのジーンズが市場に広がっている。口火を切ったのは「ディーゼル」で、「ジョグジーンズ」と呼ぶ3万円を超えるジーンズが売れている。エドウインの「ジャージーズ」も同社の柱商品になっている。見た目はデニム(織物)のように見えるが、ニットなので伸縮性に優れ、スエットパンツのように楽にはけるのが特徴だ。

 

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 最初はデニムのジーンズのようにみえるニットジーンズが多かったが、最近では逆にスエットパンツやレギンス、イージーパンツのようなデザインのものも出ている。通常のジーンズは生地が厚く、しゃがむとひざが突っ張ったり、背中の部分が広がったりするが、ニットジーンズの強みは”はいて楽”なこと。それだけに今後も市場の広がりが十分に期待でき商材だ。

◇右綾と左綾の違いを見抜いた消費者

 以上みてきたように、ジーンズは素材や加工などの新技術・新商品の開発が着用層を広げ、マーケットを拡大してきた。今では日本のジーンズマーケットは年間7千万本規模になったとみられる。アパレルの単品アイテムとしては、インナーや靴下などを除けばダントツの規模だろう。画期的な新技術は出尽くした観もあるが、視点や着想を変えればまだまだ可能性がある。

 昔はジーンズといえば若者のもので、シニアでジーンズをはく人はいなかった。それがジーンズをはいて育った団塊世代がシニアとなり、ジーンズをはくシニアが増えている。ただ、ジーンズの商品開発はまだまだヤングやせいぜい30代、40代向けが中心。シニアがはきたいと思うようなジーンズができればもっと市場が広がるかもしれない。

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 一つの例だが、ジーンズは一般に右綾(右上から左下に向かって綾の線が出る)のデニムを使うものが多いが、一部に左綾デニムを使うブランドもある。右綾か左綾かは糸の撚りの方向との関係があって、一般的に右綾のデニムはざっくりした風合いに、左綾のデニムは当たり感が強く、はっきりしたたて落ち(縦方向の筋)が出やすくなる。あるジーンズメーカーは「それまで右綾のジーンズを販売していたが、ある時に左綾のジーンズを出したら、消費者は敏感に反応した。消費者の目をバカにしてはいけない」と語ったことがある。

 わずかな違いも感じ取ってくれる消費者が日本には多くいる。それだけに、メーカーも消費者の感性を刺激するような商品を続々と生み出していってほしい。

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※写真は全てイメージです。



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