私は、西成の靴屋の息子として生まれた時から、53年間靴とともに歩み続けてきた。しかしそれは私だけではない。靴は全ての人にとって「人生のパートナー」と言っても過言ではない。生まれてから死ぬまで、人生の長い道のりを伴走するために靴がある。命を運ぶ道具だ。そんな大切な靴を作り、守り、担い手を育てる仕事に携われることに、私は誇りを持ち続けている。
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これまでに紹介した、エスペランサ靴学院や西成製靴塾など、自分がやってきたことが、少しでも未来の担い手の力になればと願っている。私には、「くつのまち・西成」の皮革産業を後世に継承したい思いがある。靴業界を盛り上げる一助になりたい思いがある。
しかしその根底にあるのは、やはり「楽しむ心」だ。世阿弥の能楽書『風姿花伝』の書名には、こんな思いが託されているらしい。「その風を得て、心より心に伝ふる花なれば、風姿花伝と名づく」(先人の芸風を学び、心から心へと伝えていくのが芸能の花なのだから、この書を『風姿花伝』と名づける)。
技術を伝えるだけでなく、心を伝えたい。
後世に名を残す人間であるよりも、風を運ぶ人間でありたい。
(エスペランサ靴学院学院長 大山一哲)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。
