繊維工業は軽工業のため資本投入も比較的安価で、国家が工業化を進める上で参入がしやすく、発展していく過程で最初の産業の一つと言われる。日本では戦後復興に向けいち早く繊維工業が輸出を通じ外貨獲得に乗り出し、経済成長の飛躍に大きく貢献した。しかし、70年代を境に米国の自国産業保護政策により輸出は厳しさを増し、日米繊維交渉の交換条件として沖縄が日本に返還された。その後わが国は衣料品を輸入する状況へと移り変わり、23年の日本の衣類の輸入浸透率は98.5%となった。
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それを踏まえて、今後日本の繊維工業はどうすれば成り立っていけるのか、個人的に考察してみた。①スポーツを含む衣料分野②医療分野③建築・資材分野④食品分野――この中で①はもうすでに成熟した部門であり、他にはない特徴を持ち小ロット対応ができるものに期待できる。未知数なのは②。バイオテクノロジーとハイテクの融合で原料や繊維が進化すれば可能性がある。③は建築やインテリアに天然繊維と合繊が活躍できるはずだ。④では天然繊維が有望だろう。
柔軟な未来予想は、理論的に推測するAI(人工知能)では難しいだろう。AIはこれまでの経験を踏まえた上で推測するものであり、想像を働かせ未経験の分野へ飛び込めるのは人類だけだ。多彩なアイデアを元に開発を進め、努力を重ねていこう。
(小倉織物代表取締役社長 小倉久英)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。