「はたらけどはたらけど猶(なほ)わが生活(くらし)楽にならざりぢっと手を見る」。有名な石川啄木の歌である。その所作のように手をじっと見てみるのだが、生命線が長いだけで、金運、恋愛運が全くたいしたことは無い、いや歳をとった今となっては「無かった」という表現が正解だ。
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365日のうち350日は自分の織物工場にいるような気がする。ついでに稼ぎが悪いときた。昨今、ファッションの明確なトレンドなどもはや無いに等しい。この世の老若男女は、今や完全に〝インディペンデント〟。行く先の事業のことで何人ものコンサルタントに世話にはなったが、現状「我いまだ浮上せず」だ。
ある時、50代のパキスタン人に英語で説教を食らった。スマホの翻訳を通した彼の言葉によると、「誰にでも紆余(うよ)曲折があり失敗もあろう、だが私は勇気を持って前に進んで来た。貴方にはその勇気は無いように見える」とのこと。「あんたと俺とでは立場や環境が違いすぎる」と言い返したいところだったが、議論も虚しいため「YES」とだけ返してしまった。
「勇気は無いし金も無いのだが、ビジョンだけは有る」。どこかで読んだ億万長者になった男の言葉だ。今居る自分の立場や環境が適切でなければ、自身の価値も分からず風評を信じ込み、右往左往をしながらたださまよっているだけの状態となるだろう。その男は行動し成功した。明確なビジョンがあり、もがき続ければ、今が苦しくとも、いずれは浮上できると信じている。
(小倉織物代表取締役社長)
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「私のビジネス日記帳」はファッションビジネス業界を代表する経営者・著名人に執筆いただいているコラムです。