コロナはものすごいインパクトですが、たとえコロナがなかったとしても、今まで通りのやり方では小売りやファッション業界は難しかったのではと、ずいぶん前から思っていたことを実感しています。売れないのをコロナのせいにしているけどそうではない。いろんなルーチンが根強く、本当にお客様のことを考えてたのかなと。バイヤーに戻ったタイミングでもあり、シンプルな疑問に立ち返っています。すごくデジタルで、同時にすごくアナログなことが大事なのかもしれません。
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私がバイイングしたものを、私が売るわけにはいきません。バトンは店頭に渡しますが、私がパリやニューヨークの作り手に会って感じたファッションのだいご味を、店のスタッフに伝えきれているのか。そこからお客様にどうやって伝えるのか。そこが実は大きな課題だし、トライアルしたいことです。資料やパワポを共有してやった気になっていたけどそうではない。自ら店に行って手が空いている人と話して、思っていることを伝えて、みんなが思っていることを聞いて。当たり前のことですけど、地道にやることが大事なのかなと思う。
店を閉めると決まった時期、こんな事態なのに一人でも来てくれるのはありがたいと、店のみんなは言っていた。私は数字だけ見て去年の10%しか来てないって思ってたけど、店のスタッフは10%も来てくれてありがたいと捉えていた。そのメンタリティーの違いをどう詰めていくかが、うちみたいな規模の店にとってポイントになる。
そんななか、六本木店の男性スタッフが仲間に向けて自主的にインスタを始めたんです。「ダブレット」はここがイケてるんですよ、とか。それをバーニーズの言葉として発信することになりました。上から言われたからではなく、一人の行動が大きくなった。せっかく良いものが届いているのに黙ってられませんっていうスタッフの心意気が良かった。
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トレンドも変わりつつあります。今まではコレクションありきだったけど、今のトレンドって出所がわからない。自分自身が本当にファッションを楽しんでいないと、そのニュアンスをつかみづらいです。最近だと、襟の大きいブラウスとか。でも確かにかわいい。ヴァージルが言ってたとか、リアーナが着てた、ではなくなった。腹落ちして深追いしたいものは何か。それを自分で決めなくてはいけなくなっています。
暑いのに秋の立ち上がりにコートばかり店頭に並べるとか、業界の常識を伝えたところで、それはもう違う。細やかに、なおかつ思い切ってやっていかないと。
コロナに関しても、この人を信用すればいいというのはないですよね。自粛要請とはいえ、結局は自分で決めないといけないって思い始めたんじゃないかな、みんな。当然、ファッションにおいても、そのメンタルがキープされる。誰を、どの店を信用するか。これがお金に見合ったものなのかってそれぞれが自分で考えて自分で決める傾向が強くなると思う。
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6月から始まるプレスプリング展は、デジタルショールームや、zoom上で服を見ることが増えそうです。ただ、今後の状況が見えない今、プレスプリングをどれだけ買うべきかをもう一度考えなければいけない。それより特別なものを用意したほうがいいのかなとも考えています。
いろんなことが変わろうとしています。印象的だったのは、1月のニューヨークで見た「ザ・ロウ」のショーです。通常15分のショーが、3分ほどで終わった。ファッションウィーク巡りって会場で30分待って、15分ショーを見て、あわてて次の会場に走っていく。彼らはそんなの今は違うと言っていた。ショーを短くして、その後はおいしいお茶を飲んで、アメリカの彫刻家のオブジェを見ながら、アートやファッションについてゆっくり語らう場所があったほうがいいと。そういう風に大きなブランドの人が本質的なことを変えてくれれば、いい意味で変わっていく気がする。会場前でぎゅうぎゅうに並ばなくてもプレゼンテーションはできるかもしれないし、十分ブランド力を訴えられる。クリエイティブな人がファッション業界には多いから、違う表現方法でインパクトを与えてくれる人が出てくるんじゃないかな。そういう意味では期待してます。
■現在のバーニーズ・ニューヨークについて
- 週1回、店舗在庫をECに移送して在庫調整。
- ECでは、4月の新生活ニーズやギフト向けにIDケースやキャップ、サングラスが売れている。
- 新たなEC施策として、会員向けオンラインストア限定セールや送料無料サービスを実施。
- シーズン性の影響を受けにくい中軽衣料のカットソー類やパンツを強化。売り上げと在庫を鑑みながら、短いサイクルで発注できるように、顧客と密にコミュニケーションをとりながら買い付けを進めている。
- シーズン2回開催しているプレスプレゼンテーションを見送り、異なるアプローチを検討中。