イタリアと日本の若者が、コロナ禍を越え熱く交流~ファッション、テキスタイルへの情熱に国境はいらない

2020/09/29 00:00 更新


 コロナ禍で人びとの暮らしは一変し、今まで当たり前だったことが出来なくなってしまった。海外との往来もその一つだ。対面での交流が難しい中、イタリアと日本の若者が9月中旬にオンラインで交流会を行った。毛織物産地として知られるイタリアのビエラにある大学院で学ぶ「ビエラマスター」の学生と、日本の繊維塾「産地の学校」の受講生、合わせて10人だ。両者をつないだのは旭化成―世界で唯一、同社が製造する再生セルロース繊維「ベンベルグ」(一般名称キュプラ)がこの縁を結んだ。

日本とイタリアの学生がオンラインで一堂に介した

●次世代担う若者が交流

 ビエラマスターはピエモンテ州チッタスタディ大学の大学院で、羊毛や毛織物に関する専門知識を学ぶ。学内での授業だけでなく、牧羊、紡績、織物・編物、染色、製品企画や販売・マーケティングまで現場での実践やインターンを行っている。

ビエラマスターが学ぶイタリア、ピエモンテ州のチッタスタディ

 一方、産地の学校は、糸編(=いとへん、東京、宮浦晋哉代表)が運営し、繊維産地やテキスタイルについて学ぶ場。宮浦さんは日本の服飾大学を出たあと英国留学を経験し、帰国後に「繊維の職人や若手デザイナー、消費者らをつなぎたい」と、コミュニティースペース「セコリ荘」を東京・月島に開設し、ここでの出会いが産地の学校に発展した。

 産地の学校ではさまざまなカリキュラムを設け、繊維・アパレル業界の専門家による講義、産地見学ツアーなどを通じて、デザイナーの卵やテキスタイルに関心を持つ若者といった、繊維・アパレル産業に携わる新しい世代を育てている。

 ビエラマスターと産地の学校の交流は昨年から始まったが、両者の橋渡しを担ったのが旭化成だ。旭化成はベンベルグを世界で販売しており、オンリーワン素材の魅力を若い世代に知ってもらうため、以前から世界中の若者に対して繊維・ファッション教育の支援や、出前授業などを行っている。

 ビエラマスターは、地元企業のロロ・ピアーナ、エルメネジルド・ゼニアといった有名毛織物メーカーが活動サポートしているが、旭化成の現地子会社も、スーツの高級裏地にベンベルグが使われていることもあり、支援を行っている。一方の産地の学校とも協業し、素材への理解を深めてもらう狙いでカリキュラムコースの一つとして「ベンベルグラボ」を実施している。

●互いの国の繊維産業を知る

 毎年、選抜メンバーがオーストラリア、ニュージーランド、ペルー、中国、英国などをまわる海外研修も実施している。昨年は旭化成の招待で日本を訪れた際、宮崎県延岡市にあるベンベルグ工場や山梨県の富士吉田産地などを見学した後、産地の学校のメンバーとの交流会を行った。

 今年はコロナ禍で海外研修がかなわない中だったが、オンラインで国境を越えた交流会を企画。双方5人ずつの学生がWEB上に集った。学生は全員、1人ずつプレゼンテーションを実施。自分が関心を持っているテーマや将来就きたい仕事などを語った。イタリアのある学生は、自然とアートの融合をテーマにした服を制作しており、作品の写真を披露した。



テキスタイルや糸の特徴をWEBの画面を通して伝えた

 日本からは福岡県を拠点に久留米絣(かすり)を制作する人、山梨県の富士吉田産地でテキスタイル作りに励む人らが自身の作った生地を見せながら日本のテキスタイルについて紹介したり、インターンを通じて知ったサステイナビリティー(持続可能性)への関心、ウルグアイでの牧羊体験や紡織会社での経験などを報告した。

 お互いに活発な質問やディスカッションも交わされ、染色方法などテキスタイルの技法についての詳しい質問、互いの国のテキスタイルの比較などを話し合った。

●ベンベルグが結んだ縁

 イタリアと日本の若者を結び付けたベンベルグは、日本が世界に誇るオンリーワンの繊維だ。美しい光沢や柔らかな肌触り、優れた吸放湿性などが特徴で、インナーウェア、制電性や滑りの良さを生かした裏地用途、ファッションアウター、インドやパキスタンの民族衣装といった幅広いアイテムに使われる。

 綿花の種子のまわりの産毛で、綿糸として使用されないコットンリンターを原料とし、出来た繊維は生分解性も持つなど、サステイナブル素材でもある。延岡市にある工場の電力は、専用の水力発電、バイオマス発電でまかなわれ、製造時の電力の4割をこれら再生可能エネルギーが占めている。これは国内の通常電力の3倍以上の比率だ。

 製造プロセスは廃棄物を出さないゼロエミッションをほぼ達成し、99%以上の溶媒回収、わたくずのキノコ栽培床への利用、繊維くずの発電利用などを行っている。今後も地域と一体となってサステイナブルな社会の実現へ向けた努力を継続していく。

【旭化成のベンベルグ オフィシャルサイトはこちら】

https://www.asahi-kasei.co.jp/fibers/bemberg/sustainability/production.html

企画・制作=繊研新聞社業務局



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