イタリアの大学院で繊維を学ぶ学生たちと、日本の繊維産地などで働く若者らがこのほど、オンラインで交流した。世界で唯一の再生セルロース繊維「ベンベルグ」(一般名称キュプラ)を製造販売する旭化成が2019年からサポートするプログラムの一環。国を超え、繊維産業の未来への思いを語り合った。
繊維の専門家育てる「ビエラマスター」
オンラインで交流したのはイタリアの「ビエラマスター」の学生と、日本の繊維塾「産地の学校」の卒業生たち。
ビエラマスターはピエモンテ州ビエラにあるチッタスタディ大学の大学院で、羊毛(ウール)や毛織物、アパレルビジネスに関する幅広い専門知識を学ぶ。学内での座学の授業以外に、ウール原料が出来るまでの牧羊や、紡績、織物・編物、染色、製品企画や販売・マーケティングまで、海外を含む現場での実践的な研修やインターンを行っている。
ビエラは世界的に知られる毛織物の産地であり、「ロロピアーナ」「エルメネジルド・ゼニア」「レダ」といった有力ブランドを生み出した場所。ビエラマスターはこうした有力イタリア企業や、世界的な紳士服ブランド、百貨店などが資金サポートし、次世代の人材育成を支えている。旭化成グループはスーツの高級裏地などにベンベルグが採用されていることもあり、ビエラマスターへの支援を行ってきた。
2019年には旭化成がビエラマスターの学生を日本に招き、宮崎県延岡市にあるベンベルグ工場を見学したり、シルクやベンベルグを使ったテキスタイルを生産する山梨の富士吉田産地を訪問した。その時、初めて産地の学校の学生との交流を行い、コロナ禍の2020年以降もオンラインでの交流を続けている。
延べ500人輩出する「産地の学校」
一方の産地の学校は、糸編(東京、宮浦晋哉代表)が運営する繊維塾。繊維産業やテキスタイルについて体系的に学ぶ場として2017年に開設し、さまざまなカリキュラム、プログラムで繊維産業に貢献する人材を育成・輩出している。旭化成とのコラボで、ベンベルグについて学ぶ「ベンベルグラボ」も開催してきた。
今年のオンライン交流会には、延べ500人いる産地の学校卒業生の中から、日本のテキスタイル企業3社で企画や製造に関わっている4人が参加し、自身の物作りや思いについてプレゼンテーションした。今年は紹介したいテキスタイルの見本を事前にイタリアに送り、手元で触れてもらえるよう工夫した。
遠州産地(静岡県)の織物メーカーで働く女性は、ジャカードコーデュロイ、刺し子の二重織りなど、遠州伝統の綿織物をアップデートしたテキスタイルを見せた。
久留米絣産地(福岡県)の企業で働く男性は、世界中に伝わる絣織物についてや、生産プロセス、地域で取り組む活性化のプログラム、モダンな柄にアレンジした現代の久留米絣の見本を紹介した。
東京のテキスタイル企画会社に勤める男性は、京都産地で作ったストライプ柄の注染の刺し子、墨流しの技法を用いたマーブル模様、越前和紙と綿ブロードをボンディングしたものなど、国内産地のさまざまなテクニックを駆使したユニークな生地を紹介した。
ビエラマスターからは4人の学生が参加し、学校の紹介や今年のプログラムについて話した。同校のカリキュラムはテキスタイルデザイン、織物・ニット、染色・プリント、仕上げ、テーラーリングと多岐にわたる。また、コロナ禍で途絶えていた海外研修を今年から再開しており、ニュージーランドやオーストラリアの羊牧場を訪れたほか、ドバイ、ニューヨーク、パリの有力ブランドの店舗で小売りや卸ビジネスについても実地体験した。
互いのプレゼンテーションの後に質問や意見交換を行い、関心のあるクリエーションやテーマ、プレゼンテーションした生地の用途、製法など熱心に深め合った。
「産地の学校」を主催する糸編の宮浦晋哉さん
●コロナ禍でオンラインの可能性広がる
コロナ禍で従来やってきたような産地の学校のプログラムも開催が難しくなり、オンライン講義やオンライン動画を充実するなど工夫して活動してきました。
2020年5月からはユーチューブをスタートし、手応えを感じています。これまでだとリアルのプログラムでは年100人ほどが限界でしたが、ユーチューブだと1動画で月3000人といった人に見てもらえます。これまでに10万回の合計再生数があり、自分たちの目的を考えた時に大きな可能性を感じました。
この2年間、山あり谷ありでしたが、自治体との取り組みが広がった点は大きな前進面です。例えば遠州産地のある静岡県とホームページを作成したり、群馬県とDtoC(メーカー直販)の製品化支援の取り組みも行っています。産地の学校のユーチューブをきっかけに、ニット産地のある新潟県五泉市と組んだ産地見学のオンライン配信も行いました。
今、日本のテキスタイル産地は、円安による国内回帰もあってニーズは高まっています。一方でコストアップ影響等で収益は厳しい状況にありますが、産地企業がDtoCに乗り出すなどチャレンジも進んでいます。産地の学校では卒業生の就職支援を継続的に行っており、産地を担う若者を今後も育成していきたいです。
ビエラマスターとの交流は、今年で3回目です。慣れない英語でのプレゼンテーションは参加者にとって大変なことですが、「やりがいがあり、楽しかった」という感想も聞かれました。英語でのコミュニケーションは大事です。テキスタイルを企画し、既存の流通に流していくだけでなく、言葉の壁を超えて魅力を伝えていくことがますます重要になってくると思います。今回のような交流会はモチベーション向上にもつながる機会として意義深いと感じています。
旭化成の再生セルロース繊維・キュプラのブランド「ベンベルグ」公式サイト
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