水族の居場所 高層ビルの屋上の“海”

2026/07/21 13:00 更新NEW!


街の上空を飛ぶかのようなペンギン(池袋サンシャインシティで)

 母方の祖父母の家は和歌山県田辺市にあり、海が近かった。夏休みになると母と姉妹とで長逗留(とうりゅう)し、毎日のように海に行った。あるとき、近くの白浜の町に「南紀白浜ワールドサファリ」ができて、オルカ(シャチ)のショーが大きな話題を呼んでいた。私も行ってみたいなあと思っていたのだが、祖母が「クジラに芸をさせるなんて」と眉間(みけん)に若干しわを寄せて困惑したような笑顔で言った。それで周りが遠慮したのか、オルカショーを見ることはなかった。

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イルカもクラゲも

 この間、神奈川県藤沢市にある新江ノ島水族館に友人たちと遊びにいって、とても久しぶりにイルカのショーを見た。イルカ1頭に一人ずつ飼育員が付き、水上にジャンプしたり、空中回転したり、胸びれであいさつをしたり、実に躍動的。時折飛沫(しぶき)も飛んできた。

 飼育員も皆若く、イルカたちとむつまじく遊んでいるように見える。それを見ながら私もとても楽しい気分になったのだが、祖母の目には「イルカに芸をさせるなんて」という感想になるだろうか、と思ってしまったのだった。

 私は水族館や動物園が好きで、時々出かける。先月は東京都豊島区にあるサンシャイン水族館にも行った。池袋駅から徒歩8分ほどで到着するサンシャインシティのビルの10階にある。白浜や江ノ島と違って、海からは離れた場所の都心のビルの上に、サメやエイが泳ぎ回る、こんなに巨大な水槽がよく作れたものだと感心してしまう。

 月夜をイメージした薄暗い部屋でクラゲが壁一面に幻想的に展示されているスペースでは、海の底に体ごと沈んで眺めているような心地になり、雑念が溶けていくようだった。何時間でもぼうっと眺め続けられるな、と思った。

 日本刀の太刀に似ているから、あるいは立って泳ぐからと名付けられたタチウオの水槽には、スポットライトのような光が差していて、タチウオの体が金属のようにきらりと光る。おごそかな太刀の群舞のようで、こんな静かな展示も素敵である。

そうだ、ここは池袋

 屋外エリアに出ると太陽の光がじかに降りそそぎ、まぶしい。周りにビルがそびえ建ち、そうだ、ここは池袋だったと思い出す。

 ケープペンギンが、ビルの屋上の水槽を気持ち良さそうに泳いでいる。水槽の向こうには、池袋の街並みが見える。ペンギンが街の上空をすいすいと飛んでいるかのような写真を撮ることができた。

 ケープペンギンは、本来アフリカ大陸南部に生息していて、現在絶滅の危機にあるという。池袋のビルの上で生まれた子孫が、南半球の海を泳ぐ日は来るだろうか。

(歌人・東直子)



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