ファッションブランド・小売事業者向けECシステムから物流フルフィルメントまで一気通貫にサポートするAMS(東京)は、アパレル業界全体の課題となっている「在庫消化」解決に向け、新サービス拡充を行っている。すでに運用実績が上がっている店頭接客・客注アプリ「プラムス・オーダー」ではEC在庫を使ったオムニチャネル施策が増収に貢献している。実店舗、ECモールを含めた全販路を対象に、「商品在庫を見える化」し、1点単位での在庫引き当てを可能にして、企業・ブランドの持続的成長を全面支援する。
【インタビュー】AMS代表取締役社長 村井眞一氏
ファッション業界の在庫課題を解決
■全販路での販売在庫最適化のためのソリューションを続々リリース
20年は新型コロナウイルスで未曽有の消費環境となり、あらゆる企業が「デジタル化」「オムニチャネル化」を真剣に考える機会になっています。
特にファッション業界は、「各販路の在庫の偏り」と「余剰」を解決することが、安定経営の必須課題です。コロナウイルス感染拡大以降、お客は実店舗へ来店する機会が減り、一方でECサイトへの訪問が劇的に増加しました。そうなると、実店舗に配分した在庫を、お客が欲しいタイミング・場所に合わせて提供することが必須。すべての在庫を全販路で「見える化」して、今欲しいお客にしっかり購入してもらうシステム構築が、不可欠です。
そこで今年は、全販路での販売在庫を最適化するソリューションを複数リリースしてまいります。店頭在庫を対象にした在庫引き当てサービスの提供や、店頭在庫の取り置き、試着予約サービスなどを開始してまいります。EC在庫を実店舗来店客向けにオーダーできるツール「プラムス・オーダー」を進化させ、店舗在庫の情報を把握し、スタッフとのコミュニケーションやオーダーや取り置きが可能にできるサービス等です。在庫データがまだ一元管理できていない企業や、色々な販売チャネルで多品種小ロット型のショップ様に、ぜひ活用していただきたい。
現在、EC支援企業は多数存在する中で、当社はファッション事業に特化し、ECシステム・全販路の在庫効率運用・実店舗のIT化・物流倉庫と配送支援・ささげ(採寸・撮影・原稿)まで一気通貫で支援するサービスが強み。特にECは物流が収益の要ですが、各企業が自前で物流機能を強化するのはリスクもあります。当社では倉庫業務自動化、少人・効率運営を進めつつ、今後は店舗配送とEC配送の両方をこなすBtoBtoC物流を構築し、サプライチェーン基盤も支援していきます。
■進取の精神が経営に必須
本部組織も事業全体をサポートするため「カスタマーサクセス本部」を新設しました。ECでは各社で要望が異なる一方で、乗り遅れてはいけないビジネスの大きな潮流を提案することも肝要となっていますので、標準的な支援、先端マーケティングを視点に置きつつ、いずれでも「お客を幸せにするコンサルタント部隊」をめざします。
また、システム投資を強化し、よりアパレル企業にとって魅力のあるシステムを提供してまいります。ここにきてシステム開発技術がマイクロサービス化し、カート、決済、会員管理といった各機能パーツを開発・改修する流れとなり、大きなシステムを開発する必要がなくなっており、障害の復旧対応も速くなっています。ゆくゆくはデータ課金になっていくでしょう。
技術はどんどん進歩しています。古いものを変えずに改修し続けて継続する企業がまだ多いですが、コロナで時代は激変するタイミング。新しい時代に合った売り方・情報技術に進取の精神が、これからの企業成長の可否を分けるでしょう。
【インタビュー】アルページュ 専務取締役 野口 英男氏
支援企業と事業成長する視点が大事
実店舗を取り巻く環境が大きく変わる今。TSIホールディングスグループのアルページュ(東京、野口麻衣子社長)も、新型コロナウイルス禍でECシフトを決断し、「ECと店舗の新たな連携」で成果を出している。野口英男¬専務に聞いた。
■ECは顧客接点のメディアに
―この半年のコロナ禍を振り返ると。
当社は「アプワイザー・リッシェ」「ジャスグリッティー」「リランドチュール」「マイストラーダ」「カデュネ」のレディス5ブランドを展開し、主要都市部ファッションビルにブランド単独店やブランド集積「アルページュストーリー」を約50店運営しています。
コロナ対策では、3月上旬に生産量の抑制を決めました。4~5月は都市部に集中する実店舗全店が休業を余儀なくされ、すぐにECに振り切り、売上高に占めるEC比率を50%にする目標を掲げました。50%はコロナ禍の瞬間的な数値でなく、店舗が通常通りになった後の事業設計を見据えたものです。
そのため今後2~3年かけて実現すればよいと漠然と描いていたオムニチャネル施策を、この半年で一気に進める必要がありました。当社はすでにEC比率40%で、そのうち自社EC比率は50%。目標達成には自社ECを倍増する意気込みが必須でした。
まず店舗在庫を再開した時に必要な在庫以外、AMSに委託する物流倉庫に移動しECで販売しました。次に来店できないお客様へ、EC、メルマガ、SNSで新着商品や商品特集を届けるコンテンツ量を増やしました。6月から自社ECサイトの特集企画をブランド単位で週1回配信と2倍の頻度に高めた結果、6~8月EC売り上げは前年同期比30%増で推移しています。
―今後は店舗・ECの連携が課題です。
連携の成果は三つ出ています。まず、店舗再開後はAMS提供の客注システム「プラムス・オーダー」が大活躍しています。来店購入にEC在庫から商品を引き当て、自宅や店舗に配送手続きするシステムで、同ツール経由売り上げ比率が倍になっています。18年に導入し、店舗スタッフも操作や接客応対に慣れています。店舗はリスク回避で必要最低限の在庫しか置けない中で、欠品による売り逃しがないのが何より大きいです。
二つ目は、サイトのコンテンツが店舗集客と連動している点です。9月4日のカデュネ有楽町マルイ店オープンに絡めて、事前に有楽町マルイ限定商品の予約販売を自社ECサイト連動で行ったところ、今までで類を見ないほどの店舗取り置き注文を得ることができました。従来の「ECで予約販売」「開店案内」だけの範囲を超え、各ブランドが新規開店情報と結び付けて、商品を仕掛けて来店にもつなげるという「モノ・コト」発信まで相乗効果が作れています。
三つ目が、店舗・EC併用客が増えていること。会員のうち併用客は約10%ですが、単独販路だけの購入客に比べて客単価は約2倍あります。そこで店舗でしか購入しない顧客に向けてEC用クーポンを配布するなどの販促を行い、併用客が増えています。
これ以外に、社販をすべて自社ECで完結する仕組みを9月1日に導入しました。業務の効率化に加え、社員が「お客の立場でECサイトを体験する」狙いがあります。本部・店舗スタッフはECサイトを見ないことが多く、EC購入した場合、商品がどう届くかの体験をしてもらい、改善に役立てます。
―EC比率50%の意図と、これからの事業展望を。
実店舗は絶対に必要な販路ですが、大量販売時代は終わり、当社のブランドに合致した出店立地も限られてきました。リアルの環境が変わる中で、利益率が高いECを伸ばすのは当然の流れです。その中で、自社ECは「5ブランドの個性」を伝えられる顧客との接点であり、「未購入客とのつながり」をつくり、社内では「どういった商品に反応しているか」を共有できる「メディア機能」になっています。ただ、自社のリソースは限られます。システムや技術的な支援とともに、顧客の反応データ、それをベースにしたマーケティングまでをAMSと組んで事業成長につなげていきたいと思います。
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■機会損失最小化に効果あり
コロナ禍で、商品生産を抑えたため、各店舗に十分な商品量を確保することが困難になりました。店頭で商品が売り切れれば、売り逃しが発生する懸念があります。そこを以前から活用していた「プラムス・オーダー」で、倉庫に在庫があればお客様へ販売することができるので、便利です。機会損失を最小化し、顧客の要望に答えられ、売上を確保することに繋がります。販売員のモチベーションにもつながり、バックヤードの保管軽減にもなっています。
今年は全社あげてのEC戦略強化とブランドごとの企画強化を行っています。それはオンラインでの発信だけではなく、オンラインと店舗での連動企画も含みます。その中で、プラムス・オーダーでの販売強化も全社的に行っており、システムを提供するAMSの花城さんからは、過去に携わった店舗で前年比200%の注文に繋がった事例もあると聞いて、効果を実感しています。
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■AMSの物流戦略
コスト抑制で貢献 6月にシャトル式自動倉庫が稼働
AMSは、今年6月、自社物流センターにシャトル式自動倉庫システム「ハイブ(Hive)」を稼働させた。アパレルECでは荷造りや配送運賃などEC物流費の上昇が負担になっている。同社では入・出荷、保管、ささげ、梱包など各業務の効率を高めることで、コスト増を抑え、アパレルECの物流コストの抑制に貢献する。
入・出荷の業務で、オーダーごとの商品を集めるピッキング作業は人手も、労力もかかる仕事だ。簡単なようだが、件数が多いほど人員が必要で、必要な商品を置いてある場所まで取りに行き、オーダーごとに分けて梱包しなければならない。これをどれだけ効率よく行えるかは処理能力とコストを左右する。
ハイブは縦横に組まれた棚に1万1千箱を収納し、その間を21台のシャトルが動き回る。入・出荷作業を行う場所に一人ずつ担当を配し、入・出荷を行う。導入の効果は現状で、1商品を取りに行って戻ってくる平均時間を約半分まで短縮し、人員は以前の3分の1でこなすようになった。将来的には平均作業時間を3分の1まで短くさせるという。
シャトル式自動倉庫にしたことで、他にも改善されたことがある。天井近くまで荷物が入るため、同じ広さでも荷物が多く入るようになった。人が歩く労力が無くなったため、働く人の作業負担が軽減した。こうしたことは省人化とともに、従業員の採用もしやすくなった。
同社ではこれまでも、ささげ(撮影・採寸・原稿)業務でフォトオートメーションシステムや入庫検品などでRFIDタグ対応など、いち早く新しい技術の開発・導入を行ってきた。今後はピッキング以外の梱包や封入の作業の自動化も検討する。「コストを自社内で抑え、一般的に高騰している物流費を可能な限り維持することで、支援するブランド、企業に役立ちたい」という。
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