"海外ブランドへのコンプレックスはない"ーナカアキラさん

2016/01/08 18:16 更新


“内的”なものを誘発するブランドでありたい
ー「アキラ・ナカ」のナカアキラさん
20年にわたって、国内外のコレクションを見続けてきた繊研新聞・編集委員の小笠原拓郎が、いま気になる人を直撃する新企画です。第二弾は、「アキラ・ナカ」のナカアキラさんにお話を伺いました。

 

 専門店、百貨店のバイヤーの間で、「アキラ・ナカ」の評価が高まっている。アントワープ王立芸術学院で学び、帰国後ブランドを立ち上げたナカアキラは、一時、ショー形式でコレクションを見せたいた。現在は展示会でのみ発表しているが、ビジネスを着実に広げている。16年春夏コレクションでクオリティをぐっと上げてきたように感じられたナカアキラに、クリエーションとビジネスの考え方を聞いた。

 

 

伝えたいのは、まとった瞬間に訪れる感動や違和感

 

 

小笠原拓郎小笠原 以前はショーをしていましたが、今はショーという形を取らなくなりました。一度始めたショーを止めるのは勇気のいることだと思います。ファッションは、ショーで見せるファンタジーの面と、服というプロダクトの両面がある。どちらもとても大切で、両方高いレベルでできているデザイナーが評価されます。今はプロダクトの面をすごく考えて作っていますが、そのバランスについてどう考えていますか。


ナカ 自分たちが一番向き合っているのは顧客で、我々はアート集団ではありません。もちろんアート性は大切ですが、クライアントにポジティブな影響力が出せなかったら、一人よがりになってしまう。欧州と日本とで、服の捉え方を一つの同じ線上で考えてはダメだと思うんです。一つの線上で考えようとするから、日本ではクリエーターの作るものと、マーケットで求められるものに差が出てしまう。それゆえ、日本ではすごく大きなショーにジャーナリストは来ていても、バイヤーは全然来ていないといった状況になっている。

 本来、いいショーであればバイヤーも来るはずなのに、日本では差があります。それはデザイナーたちが、パリでこんなことが起こっていると意識して、あたかも自分たちもパリにいるような気になって作っているからだと思います。

 欧州では、一部の特権階級で服の文脈を読み解ける人や、経験があって伝統を見てきたジャーナリストを(ファッションビジネスの)客としている。そういう仕組みがパリでは成立しています。文化も違う日本では、ファッションを文脈として読み解こうとしません。バイヤーがモノを見るプロセスや(良さを)感じる場所が、欧州とは違うんだと近頃は思っています。それがいけないということではなくて、クリエーションを消化する場所が欧州と日本では違うということです。

 欧州では、出てきた瞬間の表現であったり、ファッションの文脈の中で服を見る。その反面、縫製とか仕上がりといった部分を見る視点は薄い。

 一方で、日本は文脈やコンセプトは深堀りしないけれど、着た時の昂揚感や心地良い違和感を求めます。僕は服にコンセプトを込めますが、それが必ずしも全ての顧客につながる必要はない。顧客に伝えたいのは、それをまとった瞬間に訪れる感動や違和感です。ワードローブに新しい息吹を込めるようなことを、布の使い方やディテール、素材のウィットで表現していきたい。もちろん、将来は海外で闘おうと思っています。でも、あちらで求められることを、今そのまま日本に持ってこようとは思っていません。

小笠原 会社の規模やお金の使い方といったビジネスをデザインすることも、今のデザイナーには必要なことです。その点で、日本のデザイナーはややいびつだなと思う時もある。ナカさんはショーをやっていない分、プロダクションの質を高めたり、人を育てたりするところにお金を使っていますね。

 

 

ナカアキラ単独写真最有力候補

 

 

ナカ 「発想」と「達成」というのがデザインのすべてだと思っています。達成っていうのは、製造に限りません。シルエットやテキスタイルにはもちろんデザインを入れられます。でも、顧客が着たい時に届けるっていうことや、お客様と服がどう出合うかを設計することにもデザインはある。僕の思いを販売員に伝えて、感動を持ってもらうことで、自ずとその思いは顧客に流れていきます。

 デザイナーの思いを知って買うのと、ECでワンクリックで買うのとでは、ものとその人との関係性が違う。スピードが早い方が良いわけではなくて、あえてものとの間に距離があったほうがいい場合もあります。距離が近すぎると、洋服に対する夢やリスペクトが失われる場合もある。

 ある程度、苦労しないと買えないとか、自分の生活観を超越した位置から転がってくるとか、そういうことがあるからファッションって面白いものです。

 

 


チームとして闘えないと、欧州に出て行っても勝負できません

 

 

 

小笠原 スタッフの人数に関してはどういう考え方ですか。一般的に、売り上げをスタッフ一人あたりで割った際に、5000万円というのが一つの目安とも言われますが。


ナカ 今は企画が僕を含め3人、パターンが2人、生産管理が2人、インターンが1人、僕と一緒に経営を見る者が1人という体制です。スタッフが多すぎないかという話はたまに聞きますが、自分たちのもの作りを続けていくためには、まだまだ足りないんです。

 僕が目指しているものを作ろうと思ったら、外注にポンッと投げて返ってきてっていう作り方ではもちろん駄目です。機場に足を運んで、この糸だったらどうなるのかって突き詰める必要がある。今のパタンナーにしても、最初からちゃんと引けたわけではありません。人を入れて少しずつトレーニングしていく必要がある。

 

 

対談風景

 

 

 (他の日本のデザイナーズブランドと)明確に違う点があるとすれば、それは僕がチームに結構任せているというところだと思います。もちろん、コアなクリエーションには僕が入りますが、隅から隅までやるんじゃなくて、ルックごとチームに任せられるようになってきている。

 その商品が、市場でも評価を得るようになっています。昔は、アシスタントたちが描く絵を全部僕が描き直していました。やっぱりアントワープの教えって、自分の絵のタッチがあって、描いて描いてっていう世界じゃないですか。でも今は、チーム員がある一定のレベルまで自分たちで完結できるようにしないと、全体のプロジェクトが回っていきませんから。

 実際、ラグジュアリーブランドだって、メーンコレクションからプレまで、ディレクター本人が全部やっているのかというと違います。メーン、プレのそれぞれのチームがあって、それをディレクターがしっかり統括している。だからああいうことができるんです。

 チームを育てて学習して、次のステージへっていう組織じゃないと、今後欧州に出て行っても闘えない。僕はラフ・シモンズが抱える10人のチームと、うちの10人が別の世界だとは思っていないし、いつかは彼らと勝負する。そのために今からチームを整えていく必要があります。皆でビジョンを共有し、そこに向けて進んでいく。

 スタッフはほぼ全員、キャリアのゼロからうちでスタートしていますが、すごく成長しました。今後3年で更にどこまで伸びるか、それも僕はうちの強みだと思う。本当にいいもの作りをしようと思ったら、僕自身がいつまでも1つのテキスタイルに寄り添っていることはできません。それが歯がゆい時期もありました。でも、自分の手からチームに委ねることで見えてくるものは確実にあります。

 

 

FotorCreated
16 年春夏物

 

 

プラダやディオールに劣っているとは思わない

 

 

小笠原 自分たちの顧客が何を求めているのかにすごく集中してもの作りをしています。一方で、海外市場に売るためには、クリエーションのレベルをもう数段上げていかなければいけませんよね。


ナカ 僕は自分のプロダクトが「プラダ」や「ディオール」に劣っているとは思っていません。「シャネル」であれ「セリーヌ」であれ、コンプレックスはない。僕は自信を持って、自分のお客さんに対してものを届けています。

 ただ、インターナショナルな市場で売るには、レベルを上げるという意味ではくて、それらとは違うもの作りをしなくちゃいけないって思っています。求められているクリエーションの質が違うということです。発想のプロセスから変えていかなければいけない。だから、そこに対応できる機場や縫製工場をしっかりつなぎとめて、負けないチームをいま少しずつ作っていってるところです。

 海外市場には憧れで出ていくわけではありません。今、国内でもまだ行き届いていないマーケットがあって、どんどん成長しているのに、それを置いて海外に行くことはできない。まだまだ国内にやらなければいけないことがあります。「ブランドには旬があるから、リズムに乗って出ていった方がいい」と言う人もいますが、それで旬を逃すのならそれまでのブランドだったということ。

 僕たちは、そういうリズムを作り出せると思っているし、2年後に更に加速させている自信もある。16年春夏の売り上げは、前年比70%増となりました。3年前に一気に伸びた時と同じくらい、再び伸びています。

 国内で我々のもの作りがようやく認知されて、お店からも消化できるブランドだと思っていただけているし、顧客とリンクし始めている。潜在的な顧客はまだまだ日本にいると思っているので、その声に応えつつ、海外に向けて準備をしているところです。

 

 

スタッフとトワルチェック。三重県から、東京・世田谷に移した新アトリエで。
スタッフとトワルチェック。三重県から、東京・世田谷に移した新アトリエで

 

 

自分のブランドが、洋服の力を再認識させるようなものであって欲しい

 

 

小笠原 ブランドとしてのたたずまいというか、改めて「アキラ・ナカ」というものを、自身ではどういうブランドだと思っていますか。


ナカ 今の段階においては、僕はアートピースとは思っていません。ただ、プロダクトなんだとしても、もちろんコモディティ(日用品)だなんて絶対思っていない。偉そうなことを言うと、洋服の力を再認識できるものであって欲しいなと思っています。

 僕は若い頃に憧れて買ったブランドのことを鮮明に覚えています。それは、アイテムと自身との間に一定の距離やリスペクトがあったからだと思う。着た時に、服ってこんな気持ちにさせてくれるんだとか、自分の気持ちがこんな風にアガるんだとか、そういう再認識をさせられるような服でありたい。そういう服が最近少ないと思うんです。

 どうやって着たらいいのかと考えさせたり、スタンスを再認識させるようなものであって欲しい。着て、ただ「可愛い」となるのももちろん大切ですけど、それって視覚的なものですよね。もっと“内的”なものを誘発するブランドであってほしいなと思います。普通のものより高いんですもん。そういう気持ちにさせられないのなら、単なる“高い服”です。


小笠原 近頃はただの高い服が多いですから。たとえば、僕は「ロエベ」の15年春夏のロールアップデニムがいいと思って買ったんだけど、モデルが履くとロールアップの長さがバランスがいいんです。でも、僕が履くと長さの正解が分からない。それで一生懸命計算して裾上げしました。そんな風に、「どうやって着るんだ?」って考えさせるというのも素敵なことです。


ナカ そこまで惹きつけられているということですからね。実際、小笠原さんが履くよりも、180センチのモデルが履いた方がかっこいいわけですよ。でも、僕や小笠原さんがどの丈が正解なのかって考えてでも着る。考えることによって、他のものにはない、ものとの関係性が生まれるわけじゃないですか。それが僕はブランドだと思う。そういう関係性を導き出せるということはすごいことだと思います。

 今の時代にあって、40代のオヤジに丈を何センチにすればいいのか考えさせるブランドなんて、スタンディングオベーションを贈りたいですよ。着こなしたいという気持ちにさせるフレッシュさがあるということですから。ジェラシーですよね、人をそういう気持ちにさせているブランドがあるっていうことは。



この記事に関連する記事