東急百貨店 融合型リテーラーへの進化を目指す

2018/03/02 04:00 更新



顧客接点を広げオムニ化進める

 東急百貨店は2018年度から新たな中期3カ年計画をスタートした。2011年の二子玉川東急フードショーを皮切りに渋谷ヒカリエShinQs(シンクス)、HINKA RINKA(ヒンカリンカ)など、積極的な出店を続けてきた。今回の3カ年計画では、百貨店事業を起点に、店舗・無店舗、物販・サービスなど、多様な事業・ノウハウを組み合わせた、独自の融合型リテーラーへの進化を目指す。重点施策として、既存店の構造改革を進めるとともに、専門店事業の拡大とECによる市場開拓など新規事業を推進し、顧客創造と新たな顧客エンゲージメントの強化に向けて取り組みを進める。

■計画値達成で東横ハチ公どら焼き

 渋谷再開発が進む中で、東横店東館が閉鎖されたが、この間、二子玉川東急フードショー、シンクス、武蔵小杉東急フードショースライス、mikke(ミッケ)東急プラザ蒲田店、タイ・バンコクの2号店、ヒンカリンカなど、顧客変化に対応しながら、新たな業態へのトライ、将来に向けたテスティングを続けてきた。

 また、人員配置の適正化や接客販売技能士取得の推進などによる社員のスキルアップ、外商強化などに取り組んできた。その結果、18年1月期は、東横店東館が閉鎖した以降で最高益となり、計画値を大幅に上回る見込みである。

 「お客さまのため、従業員のため」「新しいことへの挑戦」という価値観を社内的に共有し、醸成してきたことも社内の意識改革につながった。計画値を大幅に上回る見込みとなったなか、年度末の1月31日には、取引先からの販売スタッフも含めた東急百貨店で働くすべての人達に、二橋千裕社長(現会長)と役員一同のメッセージ入りで、東急百貨店のマスコットキャラクター「東横ハチ公」の刻印入りのどら焼き2万個が配られた。

■札幌店、吉祥寺店を今春改装

 今秋には渋谷ストリームが開業するものの、渋谷駅の再開発ビルは27年開業予定で渋谷再開発にはまだ時間を要する中、エリア間競合の激化や急成長するEC市場など、環境変化は今後も一層激しくなる。そうした環境の下で今年度からの3カ年計画の中で、百貨店価値を基盤としながら、多様な事業・ノウハウを組み合わせた融合型リテーラーに向けて歩みを進めることになる。それに向けて、中期経営計画の重点施策の一つとして新規事業の強化を掲げており、専門店事業のさらなる推進や多様な顧客接点を作りリアル店舗とECをつなぐオムにチャネル基盤を確立していく。

 これまで同様に、百貨店業態を中心とした既存店の構造改革を進めながら、これまでテスティングを続け布石を打ってきた専門店事業を拡大するとともに、シンクス・マイ・カートを始めとしたECの取り組み強化で、顧客接点の拡大、新規顧客の開拓を進めていく。

 既存店では、4月26日、札幌店に集客力もあり、すでに札幌で20年近く営業しファンが多い東急ハンズが3600平方㍍の規模で移転する。

 現在改装中の吉祥寺店は、4月から5月にかけての完成を目指し取り組んでおり、各店舗が顧客からの支持を受け収益性が向上する体制となるよう順次、改革を進めていく。

■専門店事業を拡大

昨年12月にオープンした東急フードショースライス自由が丘駅店

 昨年12月に、東急百貨店が流行のスイーツや惣菜などを販売する東急フードショーの小型店としての東急フードショースライスが、目黒線目黒駅、東横線自由が丘駅に相次いでオープンし順調に推移している。

 両店とも①とびきりの美味しさ②ファッション&トレンド③クイックという要素を採り入れながら、大岡山の人気ベーカリー、ヒンメルが近くのベーカリー工房から焼き立ての状態で商品を提供し、人気を集めている。目黒駅では季節のスイーツの売り場も併設しており、30代、40代の女性を中心に百貨店と同様の客単価となっている。百貨店が提案する上質なMD(マーチャンダイジング)が駅ナカでも受け入れられていると言える。

 東急プラザ蒲田に出店している服飾雑貨・キッズ雑貨に特化した小型専門店のミッケもリニューアル後は順調に推移し、銀座のヒンカリンカも雑貨やコスメが好調だ。

 これまでのトライアルでの経験を生かし、百貨店のMDを東急線沿線や駅利用者に利便性高く満足感を提供できる専門店業態の店舗を今後、多店舗化していく計画だ。また、食品が中心となるが雑貨、コスメなども立地に合わせて展開していく方針だ。

今後も専門店事業を拡大へ(目黒駅店)

■ECも拡大へ

 顧客接点を広げる上でもう一つの柱になるのがECだ。昨年、シンクスで立ち上げたシンクス・マイ・カートは、人気の商業施設となったリアル店舗のシンクスの店頭を起点としたオンラインサービスで、顧客が店舗とネットを行き来しながら買い物を楽しむことができる。

 店舗スタッフがスマホなどのモバイルで商品をブログに投稿し、顧客は気に入った商品をそのまま買うことも、取り置きもできる機能を持っている。店頭にある商品なので、着用感やコーディネート、お手入れ方法など店頭と同様な接客をネット上でもできるのが特徴だ。

 シンクスは東急百貨店の直営部分とテナントが融合した商業施設だが、その特性も生かしながら、顧客にストレスを与えないシステムになっている。

 百貨店としても、ミルポッシェとコラボして15年にスタートした出産内祝いギフトなど、今後もメニューを広げていく。

 専門店事業やECなど顧客接点の拡大を進めるとともに、直営とテナントといった業態を超えて、カード会員、メルマガ会員などの顧客情報を今年度から一元化し、新たなCRM、マーケティングの手法確立に取り組む。

 融合型リテーラーへの進化のなかで、リアル店舗とネット、百貨店、専門店、テナント運営といった様々な形で顧客接点を広げていく取り組みは、取引先各社とのウインウインの関係での融合でもある。

ECとリアル店舗を行き来し、買い物、取り置きも可能 ShinQs My Cart

 ShinQs(シンクス=以下、シンクス)は昨年から店頭を起点としてリアル店舗と連動したオンラインサービスShinQs My Cart(シンクス・マイ・カート)をスタートした。

 店舗スタッフがスマホなどで撮影した商品をブログに投稿、それを見て気に入った顧客は取り置きや買い上げ決済も可能となるシステムで、顧客がリアル店舗とネットを自由に行き来しながら接客サービスを受け、買い物が楽しめる。


顧客にとっての魅力

 顧客にとっては①お気に入りのショップのスタッフが発信するブログで、店頭の商品の情報を入手できる②改めてECサイトに行かなくても、ブログの記事から、そのまま購入・決済ができる③店頭で実際に商品を手にして確かめたり、試着したい場合には取り置きを申し込むことができる――などの魅力がある。

ショップにとってのメリット


 各ショップにとっては、①人気の商業施設であるシンクスのショップから発信するブログということでネットでの認知度が上がり、新規顧客を含めた来店促進につながるとともに、②スタッフ自身が店頭にある商品の情報を発信するので既存の顧客とも新たなコミュニケーションが生まれる③販売機会が増えて売り逃しを削減④ECとリアル店舗で同じサービスを提供できCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)が分断されない⑤ECでの売り上げが店舗の売り上げとして計上できる――などのメリットがある。

 東急百貨店が運営するシンクスでは、店舗スタッフが使いやすいシステムを提供するとともに、ブログ投稿、出品、決済、発送、アフターフォローなど一連の業務フローのマニュアルの提供やアドバイスなどを行い、各ショップの情報発信のスキルアップを促進しながら、快適な買い物環境を顧客に提供し、各ショップとシンクス全体の売り上げ増を狙っている。

全従業員、取引先とともに新たな挑戦へ グループ力、百貨店の強みを生かす

東急百貨店代表取締役社長執行役員 大石次則氏


 この2月11日に着任したばかりですが、これからは二橋会長が磨いた百貨店としての目利き、編集力などを礎として、今期からスタートした中期3ヵ年計画で掲げている融合型リテーラーへの進化を目指して取り組みを進めていきたいと思っています。

■シンクスが示した力

 百貨店業界を取り巻く環境は厳しく、百貨店の暖簾だけで成長戦略を描くのは難しくなっています。しかし、「ひとつの東急」を掲げて、沿線での職、商、遊、住のライフスタイル全般を提供・展開している東急グループの中で、自前の百貨店を持っていることは大きな財産だと思います。

 特にそれを感じたのは2012年にオープンしたシンクスでした。私は東急モールズデベロップメント(TMD)におりましたが、シンクスは百貨店ならではの目利きによる品揃え、売り場編集を生かして、場所によってはテナント賃貸でありながら、境目なく融合したフロアを提案しており、百貨店だからこそできる売り場づくりだな、と正直思ったのを覚えています。

 そうした百貨店として培ってきたノウハウ、スキルを生かしながら、百貨店、テナント賃貸、専門店、EC、アウトセールスなどの多様な事業、ノウハウを組み合わせ、あらゆる顧客接点を広げ深めていくのが融合型リテーラーです。

 渋谷の再開発が続く中で、郊外、地方店においては、それぞれの店舗が地元のお客様から愛され、収益を上げていけるよう構造改革を進めていきます。今春には札幌店、吉祥寺店の改装を実施する計画です。

■沿線、そして沿線外へ

 また、東急電鉄、東急不動産の商業施設、駅ナカ、空港など、グループと連携しながら、専門店事業も積極的に進めていきます。昨年末にオープンした目黒、自由が丘の東急フードショースライスも好評で、今後は百貨店の強みを生かして、食品、雑貨、コスメなどを軸にまずは、沿線を中心に出店を検討していきます。将来的には、沿線外にも進出できる魅力的な業態開発を進めていきたいと思います。

 新規事業強化の一環として、専門店事業に加えEC・通販事業にも力を入れていきますが、例えば、シンクスでは昨年から新しいオンラインサービスとしてシンクス・マイ・カートを立ち上げています。百貨店全体としてECの拡大を進め、オムニチャネルの基盤を確立していく考えです。

 東急電鉄、TMDでの経験、ネットワークも生かしながら、全従業員、お取引先の皆さんのご協力で新たなチャレンジができることを楽しみにしています。

(繊研新聞本紙3月2日付け)




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