横編機のトップメーカーである島精機製作所。無縫製横編機「ホールガーメント」をはじめ、デザインシステム「SDS‐ONE・APEX3」、自動裁断機「P‐CAM」シリーズなどを組み合わせ、無駄なくサステイナブルな物作りを実現する「トータルファッションシステム」を早くから提唱し、常に次世代のファッションビジネスを意識した機種やシステムを生み出してきた。島三博社長にFB業界の現状とこれからについて聞いた。
消費者がワクワクするものを
―FB業界でIoT(モノのインターネット)、マスカスタマイゼーションといったことが盛んに言われていますが。
小売りにしても生産にしても、AI、IoT、オーダーメイドなどのキーワードが出てきていますが、そういった動きについては従来から取り組んでおり、流行り言葉に振り回されないような形でしっかりと歩んでいくことが大事だと思います。何のためにそれらが必要なのかをしっかり考える必要があり、さもないと言葉や技術に振り回されて終わりということになりかねません。
当社の横編機や無縫製横編機「ホールガーメント」がマスカスタマイゼーションにマッチした機械だとはよく言われます。ですが、企画の段階から消費者が手にするまでのプロセスが進化しないと本当の意味でのマスカスタマイゼーションではないでしょう。編み機に必要な糸自体は完全なクイックデリバリー、オンデマンドを実現できていません。繊維原料から糸がオンデマンドで生産できて、編み機にすぐかかり、出来たものがすぐ届くというプロセスが構築できないと、本当の意味での顧客満足は生まれないと思います。現在はファストファッションから次の時代へという変革の初期段階だと思います。
―次の時代に必要なものとはなんでしょうか。
業界が活性化するためには、消費者が手にとってワクワクする商品が作れないと駄目だと思います。ファストファッションであれハイブランドであれ、消費者が本当にワクワクしているのかは疑問だと思います。「今までにない生地やスタイルを」とは昔から言われていますが、その要素だけでは満足できないからこそプライスへの要求が高まっているのだと思います。例えばウェアラブルなど、洋服に対するサムシングニューを提供しないといけません。ホールガーメントにしても、進化の方向性は完全自動化だと思います。ですが、それだけだと生み出せるものは今までと一緒。消費者にワクワクしてもらうためには自動化、生産性、新しい機能の付加の三本柱が揃っている必要があります。
変化をサポートし業界とともに
―島精機製作所としてはどのように歩んでいくのでしょうか。
今までの延長線上も必要ですが、プラスアルファの新しい発想を取り入れるため、もっと色々な企業や団体と協力して、イノベーションを起こしていきます。大学の研究機関などとの取り組みで広くアイデアを提供できる機会も増えていくと思います。
イノベーションを起こしていくためにはデザインシンキングという考え方が重要です。アイデアを出し合い、これが良いとなったらすぐにプロトタイプを出し、ブラッシュアップして商品化していく。これはアパレルの世界でも同じでしょう。例えば3Dサンプルなどデジタルで一時間のうちに新しい洋服のプロトタイプをつくることができれば、それをたくさん作り、ブラッシュアップして商品化できます。従来のようにまずブランドのコンセプトマップを作り、デザイナーが考えて、パターンを起こして、サンプルアップして、だと時間がかかりすぎます。こうした「アパレルのプロトタイピングのデジタル化」は全世界のアパレルファッション業界の付加価値を上げるために必要不可欠。ユニクロとの戦略的パートナーシップや、香港のニッターであるコバルト・ファッションとの連携は、こうした考え方を実証するためのモデルケースになってくると思います。重要なのはアイデア出しとプロトタイピングのスピード。これを制した企業が生き残っていけるのではないでしょうか。
洋服はもっと大胆に変化していくべきです。私たちが展開しているウェブサービス「staf」にしても、あの中に入っているコンテンツの範囲内の組み合わせだけでは、それは人間のやることではないと思います。stafを作った裏の意味はその枠をはみ出て考えることが人間の作業であり、その枠を超えたものを作って欲しいという願いを込めています。
―日本のものづくりはどうしていくべきでしょうか。
まず「新しいことをやりたい」という気持ちが必要です。国内のプレイヤーが少なくなってきているのも事実ですし、店頭が面白くなくなって値段に走り、店頭を見る若い人の新しいものを作るモチベーションが無くなってしまうことは懸念しています。大胆な発想で夢のある業界にしていくことで、若い人も入ってくるというようなスパイラルに持っていかないといけません。
日本のものづくりについてもV字回復に向け、色んな取り組みをさせていただきたいですね。アメリカ国内ではオンデマンド生産の胎動が出てきていますが、同じような形が日本でも広がっていけばと思います。横編み産地にしても山形はメンズ、新潟はレディスと得意な分野がありますが、ユニフォームや子供服など色んな取り組みをしてみてもいいと思います。新しいチャレンジが業界発展の根本。産地の方はものづくりがわかっていますし、もっと前に出ていけると思います。その上で私たちとしてもただ機械を売るだけではなく、お客さんと一緒に走り、サービスやサポートをするという心構えが重要です。
島精機製作所とサステイナブル
昨年開かれた55周年スペシャルイベントの展示会場冒頭で「アパレル業界におけるサステイナビリティ」と題した映像を披露した同社。アパレル産業が抱える様々な課題を提示した上でトータルファッションシステムを提案した。無駄の無い、持続可能性のある物作りへの取り組みを強めている。
―サステイナブルへの要求は世界中でますます強くなっています。
世界全体で見ると洋服を作りすぎです。洋服の計画生産により店頭での無駄が起きてしまうわけで、最終的には完全なオーダーメイドでコストがリーズナブルというものを目指さないといけないかもしれません。すぐには難しいでしょうが22世紀に向けて徐々に成長していくでしょうし、そこに我々のホールガーメント横編機が大きく寄与できる可能性があります。
―糸、原料にも気を使う時代ですね。
私としては特に紡績について今後10~20年で大きな変革が起こってほしいと思っていますし、その可能性はあるかと思います。より簡単に糸作りができて、リサイクルも高品質なものができれば本当の意味でのサステイナブルになっていくのではないでしょうか。
島精機製作所としてはISO14001を取得し、工場内でも金属の削りくずなどは100%回収し再利用、毎年1%の電力削減にも取り組んでいますが、それ以上にサプライヤー、ユーザー含めて取り組みが全体に広がっていくことが重要です。我々ができることはまだまだ小さいです。色々な業界、企業とのコラボレーションを通じ、「サステイナブルなアパレルファッション業界を作っていきましょう」という動きが必要だと思います。
株式会社 島精機製作所 本社:073-471-0511(代)東京支店:03-3246-0511(代)西日本支店:06-6344-0511(代)
(繊研新聞本紙9月18日付け)