21年春夏パリ・コレクション デジタルならではの自由な発想

2020/10/08 11:00 更新


 21年春夏パリ・コレクションは、デジタルならではの自由な発想で見せるコレクションが相次いだ。わずか3分ほどの短い映像にもかかわらず、そのシーズンのコンセプトを明確にイメージさせるのが面白い。フィジカルなショーでは冗長に感じてしまうコンセプト説明も、デジタル映像なら明快に見える場合もあることが分かった。

(写真はブランド提供)

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ミステリアスな夜のストリート バレンシアガ

 バレンシアガは夜のパリの街をひたすら歩き続けるという映像で新作を見せた。モデルたちは全員がサングラスをかけて宵闇の中を「サングラス・アット・ナイト」という曲を口ずさみながら延々と歩く。リボリ通りの回廊、アレクサンドル三世橋、見慣れたパリの街並みを背景に、バレンシアガらしいスポーティーなアイテムをまとって登場する。とはいえ、暗闇の中での映像では服を見るには限界がある。ストリートを背景にしたミステリアスなムードというのがシーズンのイメージなのであろう。

 後日、届いたルックブックは、まさにそんなイメージのアイテムが揃う。全身黒のフーディースタイル、肩が落ち袖までがずるずると長いテーラードコート、配色切り替えのトラックスーツといったデムナ・ヴァザリアらしいルックだ。ボリュームたっぷりのシャギーヘアースリーブのトップやメタルチェーンドレスといったエキセントリックなアイテムもあるが、それよりもリアルなストリートスタイルが目立つ。それも21年夏プレコレクションというシーズン性ゆえであろうか。

バレンシアガ
バレンシアガ
バレンシアガ

交差する布、軽やかな配色 ニナ・リッチ

 バレンシアガの長いライブ配信とは対照的に、ニナ・リッチはわずか数分の映像でイメージを伝えた。この間のアイコンになっている丸い量感のハット、メゾンの伝統を思わせるハウンドトゥースのスーツといったアイテムが目立つ。春夏のポイントと言えるのが風をはらんで揺れる布の動き。布をねじり交差させながらギャザーでドレープを入れ、フルイドラインを描く。交差する布のボリュームと配色のコントラストが美しく、ルシェミー・ボッタ―とリジー・ヘレブラーの2人組のセンスの良さを感じさせる。

 シャツのカフスがそのままスカーフのように伸びるラインは、メゾンのワードローブからイメージしたもの。困難な時代にメゾンの原点である「楽観主義への抑えがたい欲望」に立ち返ったコレクション。オリジナルのカッティングで描く軽やかなシルエットは、デジタル映像でも上質で高いクオリティーを感じられた。

ニナ・リッチ
ニナ・リッチ

(小笠原拓郎)



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