【ニューヨーク=小笠原拓郎、杉本佳子】18~19年秋冬ニューヨーク・コレクションは、ノスタルジックなムードを取り入れたスタイルが広がった。レトロな配色や柄を取り入れることで、今の服にはない新鮮さを強調する。数年前からのレトロムードは大きなトレンドの一つでもあった。しかし、そのさじ加減やミックスセンス次第では、ただの古臭い服にもなってしまう。レトロな要素を取り入れながら、どうやってモダンに仕上げるか。デザイナーの力量が試されている。
原色とビッグシルエットのミステリアスな世界
「恥を知れ」の激しい怒号が、アッパーイーストの道路に飛び交う。マーク・ジェイコブスのショー会場の前には、アンチファーの団体が勢ぞろい。その怒号に包まれながら、観客たちは定刻通りに始まるショーへと急ぐ。
秋冬のマーク・ジェイコブスはボリュームたっぷりの迫力のシルエットとともに、ダークなムードを漂わせた。つば広の帽子にダブルフェイスカシミヤのビッグコートとレザーのペグトップパンツ。大きなコートは赤やピンク、ミントグリーンの原色をのせ、強いイメージを強調する。
ビッグシルエットのコートと共地のストールは、まるでコートの襟から伸びて首に巻きつけたかのよう。レザーのハイウエストパンツにスカーフカラーのシャツやビッグセーターなど、80年代を思わせるエキセントリックなシルエットと色使いがミステリアスな世界を生み出す。ウエストには、タフタやグリッターの張りを生かした大きなコサージュベルトで造形的なラインを作り、ボリュームいっぱいのファーコートとのバランスをとった。


ツイードコートやグレンチェックのスーツは大きな肩から直線的に落ちる構築的なフォルム。パンツスーツは、トーキングヘッズのデヴィッド・バーンの「ストップ・メイキング・センス」のようでもあり、かつての「ヨウジヤマモト」のようでもある。クレイジーパターンのカラーブロックのスーツやコートの色使いも過剰だが、レッグオブマトンスリーブやドレープたっぷりドレスもまた装飾いっぱい。

デムナ・ヴァザリアの「ヴェットモン」登場以降、時代はビッグシルエットの方向に振れたのは事実。だが、このコレクションはそんなトレンドうんぬんよりも、どこかノスタルジックでありながら狂気のような強さを持っている。