成熟するニューヨークの食文化(杉本佳子)

2017/04/25 19:00 更新


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 ニューヨークの外食代がますます高くなっている。それにもかかわらず、どの高級レストランもよく人が入っている。しかも、なかなか予約がとれない高級レストランが多いのだ。ニューヨークにはそれだけ、プレミアム外食の市場性があるのだろう。

 日本食レストランにおいてもそれは同じで、ここ2~3年、今までよりさらに値段の高い寿司レストラン、銀座で食事をしているかのような雰囲気の高級天麩羅やなどが続々オープンしている。

 最近ミッドタウンにオープンした会席料理の「鈴木」もその1つ。おまかせコースのみを出す寿司の「皐」(さつき)とバーラウンジの「スリーピラーズ」も構え、その日の気分で利用できるようになっている。会席は、ベジタリアン向けの精進コースは70ドルで、あとは80ドル、120ドル、150ドルのコースがある。

 皐のおまかせコースは250ドルが基本で、5時半か6時のスタートならブロードウエイの劇場が開く前にすませられるプレシアターコース(130ドル)もある。ニューヨークの場合、チップと税金、お酒も入ったら、結構な金額になるが、鈴木ではお酒も結構いいものを頼むお客さんが多いそうだ。


鈴木の4月の会席料理の一例。メニューは毎月変わる


鈴木のシェフは、かつて在ニューヨーク日本国総領事・大使公邸付きの料理人だった山本孝さん

 お客の8~9割はアメリカ人。アメリカといえば、サンドイッチ1つ頼むのにパンの種類から具は何を入れるか、マヨネーズなどはどうするかなど、いちいち自分で決めて細かく注文しないと買えないことが今だに珍しくない。出来合いのサンドイッチをピックアップしてレジに直行という手もあるが、自分好みのサンドイッチあるいはサラダを注文するために行列を厭わないアメリカ人は多い。

 レストランでも、「チキンを食べたいけれど胸肉じゃないと嫌」とか「グレービーソースはなしにして」とか、細かく好みを伝えるお客が多い。なので、「おまかせのみの日本食」「おまかせコース限定の寿司」というコンセプトがアメリカ人にどの程度受け入れられるのかと思ったのだが、今のところ、来店したアメリカ人で残す人はほとんど皆無という(ただし、アレルギーは事前に聞いて対応している)。

 アメリカの地方都市に行ったら状況はまったく違うが、ニューヨークではそうした高級日本料理のおまかせコースを楽しめるほど、舌が成熟してきているのだ。


皐の前菜の一例。ネタはほぼ毎日築地から取り寄せる

 ちなみに鈴木は、昨年33年営業して閉店した日本食レストラン「寿司膳」をやっていた鈴木俊雄さんと息子の雄太さんが始めた。俊雄さんはニューヨークの料理学校で5年近く食品衛生を教えていたことがあり、「ダニエル」や「ル・ベルナルダン」など、ニューヨークの有名高級レストランで活躍するセレブシェフたちも俊雄さんの授業を受けたという。

 寿司をアラカルトではなくおまかせのみで出すことは、俊雄さん自身、「今までのビジネスパターンと全然違う」と認める。それでも需要があると思う背景には、ニューヨークで舌の肥えたセレブシェフたちを教えてきた鈴木さんならではの「勝算」があるようだ。


皐で寿司を握る鈴木俊雄さん(右)と澤田健太郎さん

 ちなみに、このレストランには意外にもファッションが結構絡んでいる。

 スリーピラーズのディレクター、アレックス・オットさんは、科学と化学の専門知識をもつバーテンダー。過去11年にわたってNASAの宇宙飛行士用の飲み物を発明しているが、トム・フォードのフレグランスをプロデュースした人物でもある。スリーピラーズではストレス解消など、スピリチュアルな効能をもつオットさん特製のカクテルもあるそうなので、是非一度試してみたい。


ラウンジバーのスリーピラーズ

 店内を彩る花を担当しているのは永田絵梨子さん。永田さんはパリで「ヴォーグ」や「ハーパースバザー」などファッション誌とコラボしたアートワークの花とセットデザインを手がけた経歴をもつ。2016年1月にニューヨークに拠点を移し、自分の会社「エリンデザインインターナショナル」を立ち上げ、「アレキサンダーワン」の直営店の花や「ザ・ロウ」のランウェーのセットデザインなどを担当してきている。鈴木と皐は、料理を目と舌で楽しめることは言うまでもないが、ファッション感度の高いフラワーアレンジメントがより五感を刺激する。

 一方、マネジャーの大橋洋一さんはニューヨークのレストラン業界でマネジャー歴10数年に及ぶが、ファッション工科大学のウイメンズとメンズのファッションデザイン科の卒業生だ。ニューヨークで商談や接待にオーセンティックな高級和食レストランを利用したい時、ファッション業界人としてはここをお勧めしたい。


スリーピラーズのフラワーアレンジメント


89年秋以来、繊研新聞ニューヨーク通信員としてファッション、ファッションビジネス、小売ビジネスについて執筆してきました。2013 年春に始めたダイエットで20代の頃の体重に落とし、美容食の研究も開始。でも知的好奇心が邪魔をして(!?)つい夜更かししてしまい、美肌効果のほどはビミョウ。そんな私の食指が動いたネタを、ランダムに紹介していきます。また、美容食の研究も始めました(ブログはこちらからどうぞ


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