障害者を積極的に雇用するYKK六甲 ダイバーシティー推進の見本に

2020/01/02 06:28 更新


《明日につながる人作り》障害者を積極的に雇用するYKK六甲 ダイバーシティー推進の見本に 一人ひとりの持ち味生かす

 神戸・六甲アイランドに、YKKが「ダイバーシティー(人材の多様性)推進の見本」とする特例子会社、YKK六甲がある。YKK六甲は従業員25人のうち18人が障害者で、働きやすい環境を整備している。障害者の働きやすさは全ての社員にとっての働きやすさにもつながるため、YKKグループ(YKK、YKKAP、YKK六甲など5社)はその取り組みを共有することで、障害者雇用を促進している。

(藤川友樹)

 同社の社員は6人が知的、5人が聴覚、4人が精神、3人が肢体不自由の障害者だ。勤務時間は一人ひとり異なり、在宅勤務の社員もいる。在宅勤務制度は約10年前、身体障害のある社員が遠方に引っ越して通勤が困難になったことを機に設け、その後グループ各社にも広げた。

全館がバリアフリー

 社内環境はもちろんバリアフリー。全館で段差を解消したり、車いすが2台すれ違える廊下を設けたりしている。使用する機械には異常が分かるようにパトライトを設置するなどの工夫も随所にある。また憩いの場として、敷地内にはビオトープ(人工の小川)がある。これは車いすの社員の「今まで川に行ったことがない」という一言をきっかけに、社員みんなで作った。

 業務内容はグループの社内報やカタログの印刷、サンプル帳や商品の下げ札の製作を主にしながら、外部受注の仕事も増やしている。

 特例子会社だが、黒字経営を続けているという。YKK六甲の倉本哲治社長は「働きやすい環境を整備することで障害という壁を取り払い、一人ひとりが成長しながらできる仕事を増やしきた結果」と話す。実際、障害のある社員が事業責任者を務め、ほかの社員に仕事を教えるだけでなく、効率的に働けるように工場のレイアウトを変更したり、新規事業を発案したりと、主体的に働いている。

 98年の創業時からの社員で聴覚障害を持ち、今は印刷部門責任者の崎濱健一さんは、「入社直後は障害者だから評価されないと思い、バイクに乗ってヤンチャをしていた」という。しかしバイク事故で大けがをすることになり、当時の社長に「『あなたはいずれ上に立つ人間なんだから無茶はするな』と手紙をもらい、この会社は公平なんだと気づけたことが働くモチベーションになった」と手話で語る。

社員はみな自主的に生き生きと働いている(発達障害の社員が音頭を取っている手話勉強会)

相手の視座で考える

 こうした同社の取り組みは、グループのダイバーシティー推進担当部署と連携した研修などで共有され、グループの障害者雇用定着に貢献している。

 民間企業の障害者の法定雇用率は20年度に2.3%に引き上げられるが、YKKグループは19年の時点で2.43%。特例子会社で集中的に障害者を雇用して法定雇用率を達成する民間企業も多いなかで、YKKグループの障害者雇用のうちYKK六甲が占める割合はわずか6%に過ぎず、各社で法定雇用率を上回っている。

 YKKグループのダイバーシティーの考え方は「性別・年齢・国籍・障害の有無など見かけの違いだけでなく、価値観や経験など内的な違いにも目を向け、社員一人ひとりの持ち味を生かすことで組織のパフォーマンスを高められる」というもの。それを実現する一つの方法が障害者雇用だ。健常者にとって障害者と働くことは、「相手の視座に立って物事を考える」(倉本社長)ことにもつながる。

(繊研新聞本紙19年12月3日付)



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