店頭で進む「働き方改革」の現状は?

2019/07/16 06:27 更新


 4月から厚生労働省による「働き方改革関連法」が順次施工され、企業に対して「残業時間の上限規制」「年18日間の年次有給休暇の取得義務化」などが適用されることになった。

 店頭での慢性的な人手不足に悩む小売業も例外ではない。本社は今まで以上にスタッフの残業時間を減らし、有休取得の把握や消化を促さなければならず、店を切り盛りする店長も、様々な工夫を凝らし、対応する必要に迫られている。店頭で進む「働き方改革」の現状を聞いた。

能力を把握し効率的シフト実現 役割分担でやりがいも生む

チャオパニックティピー/イオンモール四條畷店店長 伊東貴弘さん

「シフトにメリハリをつけたことで、しっかりミーティングも出来ている」と言う伊東さん

 「閑散期と繁忙期とでシフトにメリハリが付けられるようになってから、最も大切なミーティングの時間をしっかりとれるようになった」と伊東さん。

 18年9月から会社が変形労働時間制を導入し、閑散期は思い切って人員を減らすシフトを実施した。「積み重ねで人手の要らない日が見えるようになり、他のことに時間が割きやすくなった」と言う。

 伊東さんの店長歴はイオンモール熱田店に続く2店目。「熱田店で前任の店長に、シフトを組むコツを教わったことが大きい」と振り返る。現在の店に着任してからは、スタッフや自身に残業がほとんどない効率的な店舗運営を実践している。

 シフトを組むうえで、「まずスタッフそれぞれの能力をきちんと把握し、全体のバランスを考慮し、なるべくシンプルにまとめることがポイント」と話す。「この日は休みたい」など、スタッフ個々の要望もなるべく受け入れる。「その代わりこの日はどうしても出て欲しい」とはっきり言うことも大事という。

 変形労働時間制を取り入れてからは、時短勤務の主婦アルバイトの人だけでなく、ある日を短時間勤務とするスタッフも増えた。互いの理解も進み、「全体のコミュニケーションが以前よりも円滑になった」と言う。

 店舗効率を上げるため、スタッフの役割分担や育成方法にも工夫している。「任せられた方が士気は上がる」という考えから、服の陳列、清掃担当などの役割を、最初はその人の得意分野から任せている。

 みんながやりがいを感じる職場作りも強く意識している。一つの販売員像に当てはめるのではなく、「それぞれが自分らしさを生かせる形の指導方法を優先している」。それによって「もっと店の個性も実現していければ」と考えている。

希望かなえて働きやすい環境に 感謝の気持ちで結束固まる

ビームスEX横浜/ショップマネージャー 蘭祐矢さん

「ストレスなくモチベーション高く働ける環境は大切だ」と話す蘭さん(中央)

 「スタッフの休み希望は必ずかなえるようにしている」と話す蘭さん。モチベーションを高め、全員が気持ちよく働けることを心掛けている。

 シフト編成を担当するようになった3年前から、休み希望を聞き入れることにした。自身が若手だった時になかなか休みを言い出せなかった経験もあり、プライベートを気兼ねなく優先できれば、気持ちの浮き沈みなく働ける環境が作れると考えた。希望をかなえることで人員がマイナスになる日もあるが、休憩の入り方を工夫してうまく少人数で運営している。

 休みを取っているスタッフの顧客が来店することもある。そういったときには店の顧客データや、自社のポイントカードの購入履歴などのツールも使ってきちんと周りのスタッフがカバーできるようにしている。休んでも「お互い様だと思えるし、感謝の気持ちも芽生えている」という。

 有休も積極的に取るように勧めている。シフトを組んで人員が足りているときは、休みたい人がいないか聞いたり、時には自らも休んでリフレッシュしている。

 店休日にはスタッフ全員で遠出をしたり、泊まりがけで出かけたりすることでチームワークを深めている。家族の話やプライベートの悩み、今後の人生設計など色々なことを出来るだけ話す。年が離れたスタッフでも、壁を作らずに普段からコミュニケーションを取っているため、年齢を越えてプライベートなことでも話しやすい関係性が出来ている。店舗のブログも「仲がいいからこそ出せる人間味や、横浜店らしいカラーが出る」という。

 蘭さんが店長になってからは、店でやっていきたいことやスーパーバイザーとのミーティングの内容を書面や面談形式で全員に直接伝え、その際、スタッフからもアイデアを出してもらっている。密にしっかりと伝えることで浸透率も高くなり、スタッフ一人ひとりが当事者意識を持って働けるようになった。

生活との両立を考慮し対応 スタッフの連携で効率アップ

グリーンレーベルリラクシング/コピス吉祥寺店店長 鶴岡照泰さん

「自分の半分くらいの年齢のスタッフもいるので、共通の話題を見つけ、目線を合わせて話すようにしている」と鶴岡さん

 ウィメンズ、メンズ、キッズのウエアに雑貨も扱い、330平方メートルの店舗には販売以外の業務を担うアルバイトを含め17人のスタッフが働く。「人数は充実している」というが、年齢層は20代から30代、40代と幅広く、子供がいて時短勤務のスタッフもいる。

 年齢もキャリアも異なるスタッフに一律の対応はできない。前任の店舗で、介護と仕事の両立に悩むスタッフに実家に近い店に転勤してもらい、働き続けられるよう奔走した経験から「キャリアプランだけではなく、一人ひとり違うワークライフバランスの把握を心がけるようになった」という。

 現在の店ではスタッフに「仕事以外の部分、プライベートの話も聞くようにしている」。無論、個人的な事情を話すことにためらうスタッフもゼロではない。早番の多い時短勤務社員とは昼の休憩を一緒に取り、雑談を交わすほか、メンズやウィメンズの売り場責任者から話を聞くようにもしている。

 シフト編成では、休みや勤務日に関し、皆の要望を可能な限り平等に聞くようにしている。時短勤務者は、子供の行事がある週末を休むこともあるが、自分のオフを有意義に過ごしたいというスタッフが最近は増えており「むしろ互いのプライベートを尊重し、後押ししてくれることが多い」。

 店頭業務でも、スタッフ同士が互いの事情を早めに察知し、助け合う。ウィメンズの売り場に来店客が多いときは、メンズのスタッフが付帯業務でカバーに入り、品出しや売り場のレイアウト変更などの作業が閉店後にずれ込まないようにしている。

 鶴岡さんも定期的なミーティングで各売り場の忙しさを把握し、適正な人員配置を指示しているほか、商品の店間移動も本社からの指示待ちではなく、店頭での反応を見て移動のタイミングを判断するようにしている。一連の取り組みの効果もあり、同店では月平均の残業時間は10年前に比べ半分程度になるなど効果が出ている。

働きやすい職場をどう作る? 勤務時間の融通や評価制度見直し 私生活への理解が成果へ

 今回登場のパルグループホールディングス、ユナイテッドアローズ、ビームスの3社は、販売員が働きやすい職場環境の整備を急ピッチで進めている。

 パルグループホールディングスは、18年9月から変形労働時間制を導入した。1日4時間勤務など、従業員がライフステージに応じて、勤務時間を選ぶことができるようにした。子育て中の女性が以前より働きやすくなったほか、それ以外のスタッフからも「自分のための時間が作りやすくなった」と好評だ。

 繁忙期と閑散期の人員配置にメリハリが付けられるようになり、シフト上で従来よりも人数を減らす場合もあるが、井上英隆会長は「売り上げは導入前と変わっていない」と言う。シフト編成を行う店長の負担も減り、スタッフ獲得や士気向上だけでなく、新卒採用の面でもプラス効果が見込めると期待する。

 ユナイテッドアローズは、今期の重点方針のひとつとして、働き方改革に取り組んでいる。始業時間を選択できるスライドワークの導入、残業削減や有休取得の促進、テレワークの検討、間接部門の業務プロセスの抜本的な見直しも実施する考えだ。

 実店舗では、付帯業務に限定したアルバイト採用を拡大し、販売員が接客に集中できる環境を整える。人事評価制度も変更した。13段階に分かれていた社員のグレードを5段階に切り替え、新卒や年次の浅い従業員にとってのキャリアアップがより円滑に進む制度を目指している。

 ビームスの場合、この間進めてきた労働条件整備ですでに一定の成果を上げている。16年の平均有休取得日数は13.1日と、厚生労働省の「就労条件総合調査」の同年度の小売業の平均取得日数に比べ倍近い水準だ。社員が自由に活用できる保養施設の充実や、育児との両立を支援する制度の拡充、自己都合による勤務地変更制度なども採用している。

 離職率も16年度時点で3.5%と低い。同社は「モノよりコト、コトよりヒト」を掲げ、従業員の個性を競合他店との差別化要素として生かそうと考えている。「休日に行う趣味などプライベートでの活動を積極的に応援するスタンスが、休暇取得の多さと従業員全員の理解につながっている」としている。

(繊研新聞本紙19年5月27日付)



この記事に関連する記事

このカテゴリーでよく読まれている記事