水族館へ行ったら、館内の解説に驚いた。生物名を示す簡素な印刷文字とは別に、魚との思い出や飼育員ならではの秘話などが、手描きのイラストと文章で語られ、水槽の周りを埋めつくしている。例えばツボダイの水槽には、ゆるい絵と共にこうある。「見る魚ではありません」。食べるとおいしいので、観賞よりも焼いて食べる魚という認識だそうだ。水族館らしからぬ説明に笑った。内容はもちろん、手描きというのも印象に残った理由だ。デジタル化が進み、人が書いた文字を見る機会が減っただけに目に留まる。文字と内容から垣間見える書き手の「癖」に強烈なインパクトがあった。
一方、観光地のある商業施設では、訪日客が増える中で手書きPOP(店頭広告)がネックになっているという。スマートフォンのカメラをかざす翻訳機能は、手書き文字を認識しないことがあるためだ。国内で伝わる人の個性やユーモアを、どう国外にも伝えていくか。訪日客向け対応の中でこの良い「癖」が消えてしまわないことを願う。
(桃)