《視点》産地企業が街の魅力に

2022/09/21 06:23 更新


 山形県寒河江市にある紡績・ニットメーカー、佐藤繊維の工場を取材した際、本社に隣接する複合ショップ「ギア」に少しお邪魔した。先月、ニット産地でファクトリーショップが増えているという記事を書いたが、ギアはその先駆けであり、今も先頭を行く店だ。建物は、地元の酒蔵を譲り受け、しばらく工場として使っていたという築100年の石蔵。明治・大正期の石造りや梁(はり)、古い紡績機を活用した棚什器など、時代の面影が残る非日常空間に胸が躍る。ここにファッション、ライフスタイル雑貨、レストラン、グロサリーと同社が厳選した衣食住の全てを揃えた。

 ファッションはオリジナルだけでなく、作り手の目線で選んだ欧州のハイブランドや日本のデザイナーブランドもある。雑貨やグロサリーも地場産に加え、国内外の多彩な商品が並ぶ。レストランは地元食材を使った料理を提供する。「東京の後追いではなく、うちならでは」「ここでしか買えない。山形の良さを生かす小売り」を追求した結果、県外からも「わざわざ訪ねたい」店になり、コロナ下でも全店で過去最高の売り上げを更新した。

 取り組みが緒についたばかりのニットメーカーも、地域の魅力と磨いてきた感性を土台に、セレクトショップやカフェなど異なる事業に挑戦している。新たなにぎわいの拠点として期待が高まる。

(侑)



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