ヴァレンティノは、ミラノからパリへと発表の場を戻してフィジカルのショーを開催、その映像を配信した。この春夏はヴァレンティノらしい手仕事の装飾と軽やかなデイリー感覚が混在するコレクション。袖が揺れる白いセットアップ、ブラトップとジャケットのコーディネート、オーガンディと刺繍のトップ、装飾を入れながらもシンプルに見えるアイテムが次々と登場する。デニムパンツやショートパンツといったアイテムが軽快なイメージを強調する。イエローのミニドレスは端正なストレートラインとギャザードレープの組み合わせ、シャツドレスはそのまま床を引きずるトレーンがつく。モデルたちは会場を飛び出し、パリの街をそのまま歩くという演出。ファッションが日常の中に戻っていくことを象徴するような見せ方も楽しい。
ウィメンズに混ざってたくさんのメンズも登場したが、ヴァレンティノらしい色のコントラストとフルイドラインが利いている。テーラードスーツには襟がスカーフのようになったシャツを合わせ、ひらひらとスーツとコントラストを描く。ショーの後半は、メゾンの手仕事をふんだんに使ったアイテムが揃う。フラワー刺繍のセットアップにスパンコールのコンビネゾン。クチュールメゾンの技を入れながらも、やはり軽快な雰囲気。そのバランスがピエール・パオロ・ピッチョーリのデザインのたけているところ。単なるクラシックには収まらない、高い技術と巧みな時代感のとらえ方で、パリの街並みにファッションの再開をアピールした。
(小笠原拓郎)
ビューティフルピープルは、モデルたちの着せ替え映像により新作を披露した。この間、熊切秀典が取り組んでいる、一つのアイテムが違う着方で違うアイテムへと変わるというクリエイションの最新版。一つの洋服に多様性(マルチプリシティー)を付与するデザインだ。インサイドアウト、上下反転、服を90度ずつずらすことで、表情や色の配置が変わっていくもの。襟飾りやヘムのドレープが変わり、一つの服が違う表情を持つ。モンドリアンの絵のような色使いのトップやドレスは、服を回転させると袖の形や色の配置が変わっていく。
プレコレクションで見た異なる着方を成立させるために作られたディテールの違和感は、春夏らしい軽やかな素材感のせいかほとんど感じない。あるいは、デジタル映像の流れるようなスピード感がそれを感じさせないのかもしれない。コーディネートには先に熊切が語っていたように水着も取り入れられた。天候やシチュエーションに適応して、変化を楽しみ自由に着られる服。軽やかに服で遊ぶスタイルは、ビューティフルピープルらしいユーモアをパターン技術で成立させたものだ。あらゆるデザインがやり尽くされた後、新しい価値をどう提供するのかという模索の一つといえる。
(小笠原拓郎)