日本の生活文化を他国に「正しく分かってもらう」のは難しい。
お相手が西洋なら、なおさら難易度が上がる。
ふろしき_ 風呂に敷く
その起源は諸説あるようですが、風呂屋で入浴客が床に敷いて衣類を包んだり、身繕いした布の名から転じたと言われています。
日本人なら、なるほど、と頷ける「ふろしき」の誕生も、銭湯で「お背中流しましょう」なんて過去を持たないフランス人にはチンプンカンプン。
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奇想天外! Furoshiki Paris
ふろしきがパリを沸かす!
オテル・ド・ヴィル(パリ市庁舎)広場(写真家ロベール・ドアノーが一瞬をとらえた「パリ市庁舎前のキス」で有名)に、高さ6メートル、幅50メートル、奥行10メートルの唐草模様ふろしき包のインスタレーションが!(とても残念なことに11月1〜6日までの期間限定…)
これはアンヌ・イダルゴパリ市長と小池百合子東京都知事が、文化を通して2都市の関係を深めることを目的とした「パリー東京2018」と日仏友好160周年記念大イベント「ジャポニスム2018」のダブルの公式プログラムのひとつ「Furoshiki Paris」
東京からパリへの「ふろしきの贈り物」_ この巨大なふろしき包みのパビリオン500平方メートルの「中身」では、展覧会とアトリエが開かれ連日満員御礼。来場者たちは、この四角い布の歴史、芸術、そしてお包みの実践に挑戦し、ふろしき文化を真剣に、そして楽しく吸収、ブラボーブラボーの大盛況!!
世界最初のエコバック ふろしき
日本の伝統を紹介する展覧会の文法(お決まりのやり方)を壊し、こんな奇想天外でファンタスティックなFuroshiki Paris をアートディレクションをしたのは_
「未来の記憶」をテーマに東京オペラシティアートギャラリーと東京TOTOギャラリー・間の2館で個展が同時開催されている注目の建築家。パリに Atelier Tsuyoshi Tane Architects を設立し活動の場を広げている田根剛さんです。
建築家とふろしき。なかなか一気には結びつかないですよね。なら田根さんご本人はこの依頼にもっと驚かれたはず。
「まさに人生において想定外でした」と微笑みながら、2年前にスタートしたこのプロジェクトを振り返る若き建築家、田根さん。
風呂敷が「世界最初のエコバック」と聞いたときに、田根さんは大変驚き、このこと最も伝えたい大切なメッセージとし、巨大なパビリオンとして表現したという。
パビリオンは4部構成。
第1部 「ふろしき」の由来と物語
包む、結ぶ、贈る、の3つの漢字で、日本文化のおもてなしの心を表現。
「パリ市民を包み込んで、パリと東京を結び2都市の歴史と文化を交流を深め、さらに次の世代に新しい物を贈っていきたいという願いを込めました」(田根さん)
伝統の風呂敷展示・ビデオで風呂敷の歴史を紹介。
第2部 「ふろしき」の美とサイクル・オブ・ネーチャー
ふろしきが世界で最初のエコバックであることを伝えると共に、クロソフスカ・ド・ローラ節子、草間彌生、北野武、ジャン=ポール・ゴルチエ、アニエス・ベー、アネット・メサジェら日仏20人のアーティストたちが「自然のサイクル」をテーマにふろしきをデザイン。
第3部 世界で最初のエコバック、「ふろしき」の魔法
世界初のエコバック、ふろしきを新たに提案。人生の物語が増える「魔法の布」であるふろしきの100の使い方を展示。
アトリエではバゲット(フランスパン)やワインボトルなど、6種のフランスの生活に欠かせない物の包み方をiPadで見ながら、来場者が初ふろしき体験に挑戦!
第4部 文化遺産「ふろしき」に託した未来
現代の重要課題である環境をテーマに、新技術だけでなく、古来の物やいにしえの知恵を活用しながら未来を創造する大切さを、このふろしきがパリから世界へと広がっていくことを願う。
2020年に東京、2024年にパリでオリンピック・パラリンピックが開催されることから、安倍首相、森元首相、そしてバッハIOC会長とパーソンズ国際パラリンピック会長がデザインしたふろしきを展示。
エッ、石像がふろしき包みを持っている!
展示はパビリオンだけではありません。
東京都はパリ市民へふろしきをパビリオンに贈るだけでなく、パリ市庁舎を支えているパリの歴史を作った43の偉人たち、そしてライオンの石像一つ一つにもふろしきをプレゼント!
この想像を超えるサプライズに、パリ市庁舎を通りかかる人たちは大喜び。
「ふろしきのプロジェクトを進めていくうちにだんだんととても面白くなってきて、さてどうしようかな、とパリ市庁舎でふと見上げてみたら、石像があった。「これはやるしかないとないと!」とアイディアがポッと出ました。フランスのエスプリを効かせながら石像に風呂敷包を持たせるなんて、おそらく誰もやったことがないでしょう。最初は怒られるかなと不安でしたが、市長さんはじめみなさん喜んでこのアイディアを受け入れてくださいました。石像のモデルは、今では忘れ去られたフランスの偉人たち。全員の名前とそれぞれの業績をリストに起こし、石像に一つ一つに仕事に対してのお土産のふろしき包を渡す。哲学者には本とか建築家には筒とか。歴史と文化の交流ですね」(田根さん)
ところでパビリオンの唐草模様ですが、これは田根さんが奈良時代の朱色がかった古代色の赤を選び、日本人デザイナーによるオリジナルデザイン。
ふろしきの素材は、パビリオンはテント地。フランスで制作。
展示作品は、株式会社岡重、宮井株式会社、山田繊維株式会社(むす美)の特別協力によるもの。
手触りがとてもよく、愛着が湧いてくるふろしきでした。
「せっかくやるのだったら生地からオリジナルでと思い、一つ一つ触りながら選び、それを染めていただきました」(田根さん)
パビリオンのテント地、建築資材はすべてリサイクルできるものが使用されました。
パリ中でFuroshiki
この「Furoshiki Paris」のプロジェクトに、LVMHモエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトングループのベルナール・アルノー会長兼CEOが大変興味を持ち、同グループが本プロジェクトのメインスパートナーに。フォンダシオン ルイ・ヴィトン前にも「KENZO」オリジナル巨大ふろしき包のアート作品をインスタレーション。
シャンゼリゼにはふろしき包みが載せられた広告塔、ルノー日産三菱による唐草模様のハイブリットカー、資生堂によるパリ日本文化会館でのふろしき展、パリ市庁舎のブティックにおけるふろしきポップアップ。ふろしきに包まれたパリ。日本の伝統文化ふろしきに託した未来へ!
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。