とうとう外出制限(15日間、もしくはそれ以上)
3月17日。12時。
フランス全土で外出制限が発動されました。
その理由は言わずもがな、新型コロナウイルス、COVID–19の伝染拡大防止のため。
この時点で仏国内の感染者数は6633人、死者148人。世界ランキング6位。
外出制限が発令されたのは、16日の20時。
その前日から伝染病感染防止措置最高のステージ3に引き上げられ、生活に必須な商業以外すべて休業の「突然」の指示。
ここで国民の誰もが自問する。「生活に必要ものとは?」
それぞれは個人によって違うはず。
フランス人らしくタバコ、もしくはブルゴーニュワイン、花と言う人もいれば、豆腐、とらやの羊羹だと言う在仏日本人もいるだろう。
官報のリストでは大中小のスーパー、ブーランジュリー(パン屋)、食品関係の専門店(当然動物用も!)、煙草屋、文房具店、キオスク、コインランドリーなどが許可されています。
しかし外出制限が出されたことで、営業許可リストにあるものの従業員不足や来店者減で休業、または営業時間・日数を限定する店舗がほとんど。
この休業停止で最も悲惨なのは、レストランやカフェの飲食業界でしょう。
18年11月から8か月間、まだ完全に終わってはいない「黄色いベスト」に、年末から50日間ほど続いた交通スト。
日常生活が普通に戻ってから2か月足らずでコロナウイルス。
某3つ星レストランで働く料理人は、「突然の休業命令に、厨房はどうしようもないことばかり。自分たちは当分自宅待機で、一時失業者になってしまった」と肩を落とす。
本当に切ない話です。
外出は生活に本当に必要な目的以外は許されず
それでは許可される外出とは?
テレワークできない場合の出勤(要職場証明)、生活必需品の買い物、通院、病人やお年寄りの介護、適度な運動、子供の運動の付き添い、そして動物の散歩_
ただし外出のたびに、政府が作成したフォーマットに移動目的を記入し、日付、サインをした「証明書」(むしろ移動理由の誓約書)と身分証明書を持参しなければなりません。
「パリで外出規制なんて耐えられない」
外出規制までの残された時間で考えられる唯一のソリューションがパリ脱出。
一人暮らしも所帯持ちも、地方の実家(庭付きならなおさら)をめざし民族の大移動。
パリ居残り組は、生活物資を買い溜めにスーパーへ。
こうして17日の午前、パリは見たことも感じたこともない異様な状況に様変わり。
これから先、何が待っているのでしょう?
厳しさを増す外出規制
パリ市内には、県警、市警、国家憲兵隊、私服警官がパトカー、白バイ、自転車でパトロール。セーヌ川では警官がボートから。
内陸と水辺からたくさんの監視の目が光っています。
もし警官に呼び止められて、「証明書」を持っていなければ135ユーロの罰金。
子供たち、犬と一緒、もしくはスポーツウェアを着ていれば、「ちょっとそこのマダム、外出の目的は何ですか」などと警官から尋ねられることはあまりないのですが、普段着の大人のひとり歩きは検問率が非常に高い。
そんな訳でセーヌ河岸の遊歩道はにわかランナーが急増。
走っていれば検問を素通りできるとは考えが甘かった。
セーヌ河岸には、関所とも言える検問所がランナーの数に比例して増設され、証明書キットがないとお咎めを受ける。
そして春の訪れとともに、ランナーと散歩者がさらに増えてしまい、外出規制が敷かれてから初の週末からセーヌ河岸も各地の海岸もすべて閉鎖。
地域間の移動も禁止。
極悪非道ビジネスモデル
さあ世間はこんな状況だから(悲しいかなパリ名物の)スリや盗難の注意は必要ない_と思うでしょう。
ところがどっこいもっと酷い。
外出規制と同時に、ニセ警官による根拠のない罰金徴収や、ニセ防疫官の訪問による盗難が発生。
こんな非常時によくもまあ人非人の所業に至るとは、全く以って許されぬことです。
あなたと私は1メートルの関係
物資不足は少しずつ解消されてきましたが、買い物客同士は1メートル以上の間隔を取らなければならず、スーパーやブーランジュリー来店者数の規制が敷かれています。
時間帯や曜日によっては、店内に辿り着くまでに長蛇の列。
しかもレジでまた1メートル規制。
自宅から検問をパスし生活物資を獲得し帰宅するまで、まるで忍耐力の一大絵巻。
お家で楽しむ
日本人が桜好きなら、フランス人はテラス好き。
半年間も太陽のないグレーで鬱な季節が終わりを告げたのに、友人たちとテラスで1杯楽しめない。
テロや「黄色いベスト」や長期ストの不測の出来事に左右される生活に慣れた(?)フランス人。
テラスがなければ自宅のバルコニーがあるじゃないか!とばかりに、ウィークエンド20時のバルコニーコンサート。
ご自慢の演奏でデビューできるし、好きな曲を流してもいい。
Instagramでは人気ミュージシャンたちのライヴが毎夜楽しめる。
そして音楽に美味しいものがあったらもっとイイ!
星付きレストランのシェフ、有名なパティシエたちも続々参加。
自宅で作れるカンタンなレシピを公開(ライヴ付きも)し、Instagramは美味しそうな匂いでいっぱい!!
連帯する
20時のメルシーファンファーレ!
買い物に不便ながらも幸い毎日焼きたてのバゲットを食べれらる、シェフのレシピを実現できる材料もある。
場所によってはポワラーヌのパンやイベリコ豚もデリバリーも頼める。
コロナウイルスの前線に身を晒しながら、今のこの生活を支えてくれる人たちに感謝しようと、区によって毎夜20時、各世帯のバルコニーから「メルシー」の歓声とともにパフパフ鳴り物のファンファーレが鳴り響きます。
みなさん本当にありがとう!
レストランを助けよう!
突然の休業を強いられたレストラン。
せっかく仕込んだ食材が無駄にならず、少しでもレストランの売り上げになるよう、いくつかのサイトを経由し一般に販売されています。
感染者、医療関係者たちへ美味しいものを
ラグジュアリーグループがアルコールジェルやマスクを生産し医療機関に寄付していますが、感染者、医師、看護師の方々を励まそうとガストロノミー界もアクションを起こしています。
ショコラティエのジャック・ジュナンは、パリの病院へショコラを500キロ、ショコラアラン・デュカスもフランスとモナコの病院へ寄付。
3つ星レストランのシェフ、アンヌ=ソフィー・ピックはお惣菜をデリバリー。
みんなの命のために!
経験したことのない不安に満ちた閉ざされた生活から、自分のリズムを作っていくのは決して容易ではない。
しかし目先の利益や楽しみに心を奪われ、外出制限を嘆いている状況ではありません。
みんなの命のために、伝染病と闘っている医療関係者たちのために、フランス国民は自宅に留まり連帯する時にいます。
それぞれにこの意思を貫いてもらおうとグラフィックアーティストたちが「みんなの命を救うため、お家にいます」のメッセージを込めたフォトフレームをデザイン。
FacebookやInstagramで広がる「お家にいよう!」
COVID–19に1日でも早くピリオドを打つために。
松井孝予
(今はなき)リクルート・フロムエー、雑誌Switchを経て渡仏。パリで学業に専念、2004年から繊研新聞社パリ通信員。ソムリエになった気分でフレンチ小料理に合うワインを選ぶのが日課。ジャックラッセルテリア(もちろん犬)の家族ライカ家と同居。