【記者の目】研究開発拠点を強化するスポーツメーカー

2020/02/08 06:28 更新


【記者の目】研究開発拠点を強化するスポーツメーカー 基礎的な商品競争力高める 健康関連にも事業拡大

 スポーツメーカーは商品競争力を高めるため、研究開発拠点の整備に力を入れている。今年はオリンピックイヤーを迎え、世界に自社ブランドをアピールする絶好の機会となる。各社とも基礎的な素材開発から運動機能の向上、人体工学に基づいたデザイン、専門的な実験・測定など研究開発能力を強化しようとしている。スポーツでのパフォーマンスの向上と共に、健康や美容といった生活全般への事業拡大、デジタル領域での付加価値アップも狙う。

(大阪編集部スポーツ担当・小田茂)

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■近年最大の投資

 ミズノは大阪本社に隣接して新たな研究開発拠点を創立115周年に当たる21年度中に建設することを決めた。これまでは社内で研究開発してきたが、限界も出てきて、様々な人体に関する測定やデータも精密さが求められるため専門的な場所を設けることとした。総事業費50億円と「近年では一番大きい投資」(水野明人社長)となる。アパレルやシューズ、用具など全カテゴリーを対象とする。競技シーンだけでなく日常生活での身体活動にも拡大し、スポーツの力で社会課題を解決する〝社会イノベーション創出〟を目指した施設とする。

 デサントは18年にアパレルの「DISCオオサカ」(大阪府茨木市)、シューズの「DISCプサン」(韓国・釜山)と二つのR&Dセンターを開設した。同社では〝モノを創る力〟、商品の企画開発力を企業競争力の源泉と位置付けており、11月に発表したランニングシューズへの本格参入でも研究開発拠点での検証や社内外のノウハウを集結した。釜山のR&Dセンターでは欧米から靴の専門家も多く招請しており、ランニングシューズやライフスタイル系シューズの開発も進め、全社的なシューズ比率の向上に役立てる。今後も「物作りが企業の核。さらにR&Dセンターからの発信力を高めたい」(小関秀一社長)としており、今年は国内4工場への投資も拡大する計画だ。

デサントが18年に開設したアパレルのR&Dセンター「DISCオオサカ」

 ゴールドウインは17年に開設した「テック・ラボ」で、昨年盛り上がったグループのカンタベリーオブニュージーランドジャパンが開発したラグビーワールドカップ日本代表ユニフォームのほか、スポーツクライミング、ボッチャなどのユニフォームを開発する。

 「テック・ラボにより大学や研究機関だけでなく一般企業など〝外〟とのつながりが増えた。渋谷パルコにオープンしたザ・ノース・フェイスラボでは通常は富山で働く開発の担当者が3Dスキャナーを使ってユーザーとやり取りしており、こうした一般客とやり取りする機会も今後の開発にはプラスに寄与するだろう」(西田明男社長)と期待する。最近はスパイバーとの協業により開発した構造たんぱく質素材を使用した製品や運動力学、生理学に基づいた高機能製品を開発している。「ムーンパーカ」など実際の製品化も進んでいる。

■デジタル活用でも

 アシックスのスポーツ工学研究所は15年に新館を増設、既存館を改修した。グローバル発信が可能な研究所として規模を拡張し、研究開発を強化した。今年1月1日付で同研究所に「研究戦略部」「スポーツコンテンツ研究部」を新設した。将来に向けた研究戦略の立案と研究成果の戦略的PRを推進すると共に、健康増進とパフォーマンス向上を目指した革新的なサービスやトレーニング手法の確立、デジタルデバイスを活用した価値を創出する。

 スポーツ用品開発に加えて、スポーツ関連サービス事業を一層強化するため、昨年11月に開業した都市型低酸素環境下トレーニング施設や企業向けヘルスケア・チェック、介護施事業などをアシックスジャパンから本体へ移管する。将来的にはスポーツ関連事業を海外にも広げることも視野に入れており、「常にイノベーションを起こすことが必要で、さらにサステイナビリティー(持続可能性)やデジタル関連に目配せする上で研究所の役割は大きい」(廣田康人社長)と指摘する。

 一般のアパレルメーカーではR&Dセンターは少ないが、国内スポーツメーカーは世界市場も見据えて商品競争力を高める投資に前向きだ。日本は少子高齢化の影響で一般競技スポーツは低調だが、健康や美容に対する消費者の関心は高まっている。さらに、中国のほか成長著しいアジア市場や底堅い欧米市場にはまだ成長余地があると見る。2大グローバルスポーツブランドだけでなく、他ブランドとの差異化を明確にし、関連事業を強化する上でも改めて研究開発拠点を充実する動きが目立っている。

アシックスでは低酸素環境下トレーニング施設などスポーツ関連サービス事業を強化


小田茂=大阪編集部スポーツ担当

(繊研新聞本紙20年1月6日付)

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