【記者の目】レディス専門店はサステイナブルとどう向き合う 〝物を売る〟の先まで見据えて 課題をビジネスチャンスに
ここ1年ほど、取材先であるレディスチェーン専門店でもサステイナブル(持続可能な)関連の話題が絶えない。以前から継続的に取り組んでいる企業に加え、ブランドイメージ的に意外に思える企業にまで広がっている。ファッション業界全体でサステイナブルが一大ムーブメントとなっていることを改めて実感する現象だ。消費者との直接的な接点を持つ小売企業が動けば、市場に与える影響力は大きい。そこから新しいビジネスが生まれる可能性もある。
(石井久美子=東京編集部レディス専門店担当)
◇内装も新しい発想で
専門店によるサステイナブル関連の取り組みは、いくつかの傾向に分けられる。①商品の素材見直し。リサイクル素材やオーガニックコットンを採用したり、動物愛護などの観点からフェイクファーへの切り替えもある。②周辺資材の見直し。ショッピングバッグの有料化や紙製化が代表的だ。③余剰在庫の削減。売れる商品を求められる量だけ作る、という商売の基本を追求するため、デジタルを活用した需要予測や受注生産も注目されている。④シェアリングなどの新ビジネス開発。大手からはストライプインターナショナルの定額レンタルサービス「メチャカリ」や、アダストリアの子供服のシェアリングプラットフォーム「キッズローブ」などが出ている。
②の発展形では、マッシュスタイルラボのレディスブランド「スナイデル」は19年秋、ルミネ新宿の店舗リニューアルから新コンセプトの店装をスタートした。バウハウスから連想したミニマムなデザインで、什器や壁面など店舗の80%以上にエコ、リサイクル素材を使用している。近藤広幸社長はその際「サステイナブルやエコに取り組むのは企業として当たり前のことであり、押し付けたりはしたくない。見たことのないような格好良いお店、おしゃれな商品でいかにお客様をとりこにするかだ」と話していた。
どうすれば消費者が楽しいか、喜ぶか。サステイナブルを本当に浸透させるには義務的ではないポジティブなアプローチが必要だ。ブランドらしいやり方で消費者の共感を増やすこともできる。ただし、商品だけなく店舗内装や売り方、プロモーションまで、サステイナブルをうたう上で企業が配慮すべき項目は多岐にわたるだろうが。
各社の取り組みで最も多いのが①だ。ただ、素材や製造工程がどんなに環境に優しくても、大量に売れ残ったりすぐ捨てられるような服では全くエコとは言えない。販売スタッフなど、その商品に携わる人々の気持ちも疲弊してしまう。手段を目的化すること無く、その取り組みを通じて新しい価値を提供できるように考えていかなければいけない。
◇未来の小売業像を
専門店に取材していると、社員たちの事業アイデアとしてリサイクルや在庫活用などのキーワードが挙がると最近よく聞く。ファッション業界が潜在的に抱えてきた課題が一気に噴出している今、それを新しいビジネスに変えるチャンスが訪れている。
各社の新規事業を見るに、もはや商品を(作って)売るだけが専門店の仕事では無くなりつつある。今後は、売った後にその商品がどう使われるのか、ブランドは購入者とどうコミュニケーションを取るのかといったことにもっと関わっていけるはずだ。なぜ服が捨てられるのか、という現実に向き合うことで見えてくる答えもあるだろう。もう着ないけれど家にある服がフリマアプリという大きなビジネスに発展したように。例えば気に入っていたけど破れてしまった、素材は良いけれどシルエットが古くなった、自宅の保管スペースが足りない、といった理由があるとして、そこに専門店が物販以外の新しいサービスを提供することもできるのではないか。
オリジナル商品を主力とするチェーン専門店は、新規出店をする度に生産量を増やし、規模を追求することで成長してきた。各社がその手法の限界と脱却を訴えている今、サステイナブルというテーマは新たな小売業像のヒントをくれるかもしれない。ファッションを必要とする人のための、次世代の商品やサービスの登場を楽しみに待ちたい。
石井久美子=東京編集部レディス専門店担当
(繊研新聞本紙19年12月16日付)