素材から始める持続可能なファッションビジネス⑨

2018/10/14 06:31 更新


【無水染色/PFOAフリーの撥水】染色の水使用を抑える動き強まる

 水資源に恵まれている日本では意識されることが少ないかもしれないが、世界では多くの国や地域が水不足に悩まされ、欧州などでは市民や企業による水使用を抑える取り組みも活発になっている。

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 繊維製品の製造工程では、染色における水使用は深刻な問題だ。染色プロセスでは、生地の汚れや油分を落とす準備工程(精練)、染料を生地に定着させるスチームなどの処理、染め残しの染料・薬品を洗い落とす後工程(整理)で多くの水を使用し、廃水が出る。近年は中国や東南アジアを含め、廃水処理設備が必須になりつつあるが、水使用自体が環境に大きな負荷を与える。

 これに対し、全く水を使わない無水染色や水使用を抑えた手法が登場している。一つはインクジェットプリントだ。従来のスクリーンプリントでは大量の色糊を使用し、使用済みの汚れた型を洗浄することで廃水も生じる。これをインクジェットに置き換えることで、型洗浄や色糊の廃棄をカットできる。

 インクジェットでも染料を使う場合は前後処理の水使用は省けないが、顔料であれば乾燥だけで済み、後工程の水使用を抑えられる。ただし、顔料は風合いや堅牢度、発色などで染料より劣るのが難点だ。紙にプリントした柄を生地に写し取る昇華転写も水を使用しないが、生地がポリエステルに限られ、使用済みの転写紙が廃棄物になるなどの課題がある。

 無地染めでは新しい無水染色技術も登場している。超臨界流体染色といい、高圧の釜の中で水を使わずに染められ、乾燥も不要。夢の技術と言えそうだが、設備やランニングコストが高く、技術も未確立なため、海外の一部の例を除いて普及していないのが現状だ。

 世界の関心は水使用だけではない。土壌汚染に対する関心も高まっており、プラスチック以上に分解されないフッ素剤への懸念も高まってきた。フッ素はもともと撥水(はっすい)撥油剤として最もポピュラーな存在で、繊維製品にも多く使われてきた。

 しかし、従来のフッ素系撥水剤に含まれるPFOA(パーフルオロオクタン酸)は自然界で分解されずに残留し、生体に取り込まれると排出されにくい性質もある。長期の摂取による人体への毒性も懸念され、フッ素剤メーカーやスポーツアパレル、グローバルアパレルなどが自主的にPFOAを含まない撥水剤に切り替えている。

 例えばフッ素系でもPFOAを含まないC6タイプや、さらにフッ素系そのものを使わない動きもある。ただし、いずれも撥水性能が従来品よりも劣り、非フッ素だと撥油性自体がないため、性能の向上や加工法の工夫など研究開発が続いている。=おわり(この連載は橋口侑佳、中村恵生、三冨裕騎、浅岡達夫が担当しました)

インクジェットプリントでは工程がシンプルな顔料インクが注目されている

(繊研新聞本紙9月21日付)



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