実店舗の強みであるコーディネートやコミュニケーション力を発揮し、顧客を引き付けている専門店。コロナ禍での外出自粛でネット販売の取り組みが加速しているが、客を素敵に見せる力で得た信頼を背景に、「この店で買いたい」と思わせる魅力が店に足を運ばせている。頼られる店や憩いの場として、ネット販売に負けない実店舗の存在感を示している。
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アンスリール(大阪府吹田市)
自信を持たせ好み広げるを助力する
ヤングミセスを主対象とするアンスリールはコーディネート提案と接客を強みに、創業から5年で年3回以上の来店客を約800人持つようになり、20年の売り上げは前年の50%増だった。SNS、ライブコマースを活用したECの販売力も強く、20年まで通常月のEC売り上げは実店舗の1.6倍だったが、21年から逆転。「あの人の店でしか買わないと思われなければ生き残れない」と、花岡由香代表が実店舗重視に方針を変えた結果だ。
コロナ禍で専門店のEC導入が増え、同じ商品が色々な店で買えるようになった。ブランドだけで買われるなら他店でも良いはず。ライブコマースなどの情報発信では、ブランド名を出さずに花岡さんの感性を強く押し出したコーディネート提案だけに変えた。同時に「店頭にはもっと良いものがあります」と来店促進のアピールも強めた。この方法にしてから「勉強になります」と言ったコメントや来店での相談回数が増え、信頼が高まったのを実感している。
花岡さんのコーディネートは「シンプルだけどおしゃれ」を基本に、凝ったデザインを避け、余分を省く引き算を心掛ける。以前に購買した服に合わせることを忘れず、決して無理強いはしない。
客の第一印象だけからコーディネートすると、客は「人からどう見られるか」と悩むことが最も多い。既婚者だと「夫がどう思うか」が多いようだ。その気になる人の好みも少しポイントに加えて心をほぐし、試着して着心地を確かめてもらう。これを数回繰り返すうちに、次第に他人の視線ではなく自分の好みを話すようになるようだ。
試着して自分に似合わないと感じた人は、背中を曲げているなど姿勢に表れる。その場合は背筋を伸ばし姿勢を整えさせてから、トップインや袖のまくりなどのテクニックを見せていく。似合わないと思われているカラーやアイテムは、顔から遠いところから合わせていき、徐々に好みの幅を広げる助力をする。
「まずは服が楽しくなるようにすること。それにはお互いが楽しみながら会話で引き出すことが秘訣(ひけつ)」と花岡さん。それが自店への信頼を強め、顧客の生活を豊かにすると考える。
写真のコーディネートはストライプシャツを購入済みのヤングミセス客を想定して、パープルのパンツを提案するのが狙い。アウターのボタンやステッチの色に合わせ、サングラスフレームは黒でなく、柔らかさを感じさせるべっこう柄に。ブーツ、バッグは春を感じるアイボリーで合わせた。
えがお洋品店(東京・巣鴨)
グレーヘア生かすスタイリングを
サンクリエーションが運営する東京・巣鴨のレディスセレクトショップ「えがお洋品店」は、60代以上の現シニア層に加え、今後シニアとなる40~50代の女性に対して、ミセスファッションの新たな選択肢を提案している。「年齢という枠にとらわれずにファッションを楽しみ、ワクワクした気持ちになってもらいたい」(太田明良代表)という思いから、若い女性も着るようなドメスティックブランドを中心に販売している。
「年齢を重ねる度に自分に似合う新しいスタイルを発見して欲しい」というのが店としての基本的な考え方だ。加齢による悩みもポジティブにとらえ、それらを生かす商品・スタイリングを提案する。
同店には、自社運営の美容室やネイルサロンが併設されていることから、体形や肌の色の変化に加えて、白髪などの毛髪に対する悩みを聞くことが多いという。そのため、19年春の開店以来、グレーヘアに似合うファッションスタイルを一貫して発信・提案し続けている。
グレーヘアに似合う色として、発色の良いレッド、ブルー、グリーンといった色味の商品を豊富に揃えるようにしている。普段はグレーや黒など暗めの色の服を着ることが多かったという客に対し、白髪を生かし、顔を明るく見せてくれる色の服を提案した際は、「似合うと思っていなかったが、周りからとても褒められる」と喜ばれた。
21年春夏は、ホワイトやサックスブルーなど爽やかな色を押す。特にシャツを充実させていて、コロナ下で外出機会が減っていることも踏まえ、さっと着用でき、様々なシーンで着回せるものを豊富に揃えた。春の立ち上がりは、「サイ」のバルーンスリーブのバンドカラープルオーバーブラウス(3万2000円)や「ダル」のジップアッププルオーバーシャツ(2万4000円)、「アダワス」のマキシ丈プリーツスカート(2万6000円)など、体形の悩みを隠すこともできるゆったりとしたシルエットのものの売れ行きが良いという。
クール・デ・シエル(埼玉県越谷市)
顧客が素敵になる手伝いをする
埼玉県越谷市のレディスセレクトショップ「クール・デ・シエル」。西谷恵子代表の感性で選び抜いた品揃えとコーディネート力で、「ここで購入した着こなしは褒められてうれしい」などの声が多く、客を引き付けている。一貫してネット販売は行わずに、店頭でのコミュニケーションを生かした頼りになるショップとしてファンを増やしている。
客には「オシャレをすると楽しい」などの気持ちを持ち続けて欲しいという。そのために、商品を見て、感じて、客が素敵になるようなコーディネートに注力している。心掛けているのは「お客様にとっての1.5歩先の提案で、挑戦してもらう」ことで、とにかく試着を勧めて新しい発見をしてもらう。例えばワンピースを探している客には好みと少しデザインが違うものも提案し、試着してもらう。好みだけではたんす在庫になりがちで、新しい自分の発見にはつながらないからだ。
だが、決して無理強いをするわけではない。合う商品がなければ「何も買わなくても帰る日があってもいい」という。似合いそうな商品が入荷され、購入につながったとき「あの時、買わなくてよかった」となることも大切だという。正直に客と接することで、信頼と顧客化につながっているようだ。ファッションの情報はあふれ、客の方がブランド知識がある場合も。しかし、「情報と着こなしは違う」と強調する。長年培ってきたキャリアで、顧客が素敵になる手伝いをすることが、リアルの持ち味であり、魅力という。
ショップは新越谷駅近くの商業施設1階にあったが、2月11日から住宅街の一軒家に移転した。もともと、数年後の移転を考えていたが「コロナ禍で環境も変わり、顧客のオアシスのような場所を作りたい」との思いから前倒しで移転。新店は築30年の3階建てで、以前は中華店。古い趣のある絨毯(じゅうたん)や一部の壁はそのまま使いながらリノベーションした。売り場は2、3階で、厨房(ちゅうぼう)だった場所はカフェに変更。出会いがあったアーティストの池平撤兵さんが壁面に動物などを描き、羊毛作家の作品を展示するなど、アートとカフェ、ファッションが楽しめる店作りを行った。
3階は「ハリス・グレース」「ラプレ」「コフタ」など従来のファッションとともに、娘の蕗さんのアトリエを構える。「作品ができる過程を見て、感じて欲しい」と、親子連れの子供が遊ぶ場やアートに関心のある若い人が訪れる場にもなっている。
(繊研新聞本紙21年3月11日付)