新型コロナで、専門店を取り巻く環境は大きく変わった。外出自粛などで苦戦する専門店が多く見られる一方で、消費者の購買動向変化への対応や運営スタイル、組織作りなど、新たな企業構築にチャレンジしている専門店も。時代や市場性の変化に、経営者の考え方も変わるなど、アフターコロナも見据えた取り組みが進んでいる。
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自社ブランドで直営店 地元客集うリアルな場作り
スズキインターナショナル
千葉県柏市でメンズ・レディスのインポートブランドを主力としたセレクトショップ「ラグラグマーケット」を運営するスズキインターナショナル(鈴木太郎社長)は、今春に自社ブランド「スウィープ・ロサンゼルス」の直営店を同市内にオープンする。「コロナ下でECなどデジタルでのアプローチを強化する一方、地元を軸に人と人が集えるリアルな場でのコミュニケーションにも力を入れたい」との思いが背景にある。
ラグラグマーケットは以前からEC専任担当者を付け、対面販売と同水準のおもてなしの精神で応対し、EC売り上げを伸ばしてきた。コロナ下でもECは堅調だが、実店舗での新規来店客が増えるなど、元々強みとしてきたリアルな対面販売にも手応えを感じている。昨年から来店予約制も導入したところ、テレワーク中の男性など地元客の潜在需要の高さを再確認したという。
柏市は東京の通勤圏内(JR東京駅まで約40分)で、中心市街地や郊外の大型商業集積が進む一方、都会と自然のバランスが適度な郊外の住宅街。コロナ下で東京を避ける流れもあり、地元客だけでなく、近県や東京からの来街も増えている。こうした中、直営店の出店立地を考えた際、「無理して東京の一等地に出店するよりも、等身大でいられる地元の柏が最適。その方が結果的に長く続けられ、多くの人に喜んでもらえる」と判断した。
スウィープ・ロサンゼルスは長年にわたり、ラグラグマーケットで仕入れ、販売してきたカジュアルシャツ中心のメンズブランド。コロナ禍以前に運営会社から譲り受け、自社ブランドとしてリブランディング中だ。直営店は当初は2月中旬に開設予定だったが、3月中旬以降に延期した。
新生スウィープ・ロサンゼルスはシンプルでスタンダードな主力アイテムのシャツに加え、地元、柏の縫製工場や刺繍・プリント工場で生産するTシャツやパーカなどカットソーなども加える。企画・生産・販売を手掛ける自社ブランドの運営は新事業としてセレクトショップのメンバーとチームを分ける。販路は直営店とECなどDtoC(メーカー直販)が基本だが、パートナーシップによる専門店への卸販売(消化仕入れ)も予定。「かつての雑誌依存よりも卸し先の店頭からファンに伝えてもらうことが今は大切。服に魂を吹き込むにはECだけでは限界があり、非効率でも五感に訴えられるリアル店の強みを生かしたい」と強調する。
ネット販売に舵を切る 地方セレクトの在り方に挑む
イシカワラボ
静岡県三島市のレディスセレクトショップのイシカワラボ(石川英章社長)は、ネット販売を軸にした企業運営に大きく舵(かじ)を切り、売り上げを大幅に伸ばしている。数年前からオンラインの活用に取り組んでいたが、コロナ禍もプラスに転じて一気に加速し、実店舗の予約制への切り替えや働き方改革にもつなげるなど、「地方セレクトのアウターコロナの在り方に向けて、これからもチャレンジしていく」としている。「優良企業であれば今後も残っていける。安心して働ける土壌を作り、地方の雇用や女性の活躍の場を増やしていきたい」との思いもある。
今期(21年8月期)は9月以降、月間売上高が約2500万円で推移、前年同月と比べると2.5倍から3倍以上に伸長している。要因はネット販売の確立で、毎月2000万~2200万円規模になっている。特に取締役で妻のひとみさんのインスタライブが好評で、スタイリングや着こなしなどを配信し、チャット機能で実店舗のような接客を提供。実店舗の取り組みをネットに置き換えた仕組み作りで、顧客満足度を高めている。また、ネット広告への投資も増やし、新規ユーザーは約3500人となり、「ベビーユーザーは300人ほどで、身近にお気に入りのセレクトがあるように見てもらっている」という。
昨年1月にはEC担当を採用しサービスを拡充、以前より商品掲載などが格段にスピードアップした。ネットは先物などの完全予約販売が70%を占め、オリジナル商品もシーズン毎に10型を投入、在庫ロスが減少し、環境にも良く利益にも貢献している。「店頭では1型で2、3色しか置けないが、ネットは10色から選べる」など、ネット利用の顧客拡大が進んでいる。
一方、実店舗は売り上げが半減した。そのため、1月から完全予約制に切り替え、「上顧客のお客様に向けたサロンのような個別対応」で仕組みを整えている。また、定休日は日曜日を新たに加え、毎週水曜日と日曜日、第3木曜日に固定化、「ネットを軸にしたことで実現でき、採用や働き方改革にもつながる」としている。前期売上高は約50%増の1億2600万円で、今期は2億5000万円を見込む。今後、「家業から企業へ」の思いで運営しながらも、「お客様に寄り添い、装いの提案でお役に立ちたい」とのスタンスは変わらない。
(繊研新聞本紙21年2月25日付)