福井・丹南地区のオープンファクトリーイベント「リニュー」 地域に活気もたらす

2024/07/10 06:27 更新


総合案内所であるうるしの里会館を起点に、来場者は普段なら非公開の企業や工房に足を運び、物作りの体験や商品の購入ができる

 福井県の丹南地区(越前市、鯖江市、越前町)の半径10キロ圏内の企業が一斉に工場を公開するオープンファクトリーイベント「RENEW」(リニュー)が地域に活気をもたらしている。15年から開催し、今年11月で10回目。開始以来、丹南地区で35店の工場がファクトリーショップを開設するなど存在感を増している。

(森田桃子)

 丹南地区は越前漆器や越前和紙、越前打刃物、越前たんす、越前焼といった伝統的工芸品や、眼鏡・繊維の産地が集積する。リニューは伝統工芸の需要減少や担い手不足で疲弊する産地の魅力を発信しようと、鯖江市のデザイン会社ツギ代表の新山直広さんが企画した。産地企業が3日間、一斉に工房を開放し、来場者が個別に企業を訪問。生産背景を見学・体験するほか、商品も購入できる。

 初めは工房の公開に前向きでなかった企業も、一度参加すると、製造工程を「見て面白いと思ってもらえる」と実感する。過去の出展企業から新規の紹介や問い合わせが増え、第1回に21社だった参加は、9回目の23年には94社に。来場者も3万人前後を維持する大規模イベントに成長した。有志で行っていた運営は22年7月に法人化し、現在は一般社団法人SOEが担っている。

産業を超え学び合う

 特徴的なのは、イベントが年1回の盛り上がりだけでなく、町に変化を生んでいる点だ。15年以降オープンファクトリーでBtoC(企業対消費者取引)に手応えを得た企業が相次いで自社商品開発や直営店の出店に乗り出している。リニューを機に「一緒に町を盛り上げようという雰囲気になった」「他企業の直営店出店が後押しになった」との声が上がる。

 イベントの理念はあくまで「産業観光を通して持続可能な産地を作る」こと。どんなに発信力があっても「内側の基盤が整っていなければ」(平田藍莉SOE/RENEW事務局長)との思いのもと、企業同士が協力し、学び合い、行動できる環境作りに重点を置いてきた。

 例えば、イベント開催前に参加企業同士で工房を回るリハーサルを実施している。新規企業が他企業から発信の方法を学ぶきっかけになるほか、産業間の交流の場を促し、協業商品開発にもつなげている。

 出展企業も大々的には公募せず、問い合わせがあれば検討する。理念が一致しない場合は断ることもある。

「続きのある関係」へ

 過去の来場者がプレーヤーとなり、地域を盛り上げる循環も生まれている。リニューを機に地域に就職した人は65人。職人のほか、物作りを通じた地域活性に興味を持った人たちだ。

 加えて、20年から産地サポーターチーム「あかまる隊」が活動する。過去のイベント来場者など県外を中心に110人が所属し、イベントを盛り上げる施策や交流会を企画している。イベント当日だけでなく「続きがある関係」(同)を作り、県内外に輪を広げる。

イベントのブランディングもこだわり、赤い丸のロゴから派生した装飾で統一感を出した


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