楽天ファッション・ウィーク東京24年秋冬が開幕 自由な形でブランドの魅力伝えたい

2024/03/11 06:30 更新


 楽天ファッション・ウィーク東京24年秋冬が3月11日から始まる。10日にはオープニングイベントも行い、3月16日までの会期で参加ブランドは43。フィジカル発表が35となり、ブランドの魅力を最大限に伝えたいと、ランウェー形式にこだわらないプレゼンテーションも多い。どんな思いで取り組んでいるのか、参加するデザイナーに聞いた。

(須田渉美)

熱狂を作るためにフレキシブルに判断

「エムエーエスユー」後藤愼平さん 

 この数年、自分たちと比較できるブランドがなくなってきた感覚があります。以前は「90年代生まれの」と紹介されたり「ネクスト〇〇」などとくくられたりしていたんですが、枠組みを感じなくなりました。専門媒体のデザイナーランキングでは上位に入って、自分たちが考えた活動がちゃんと評価されていることが見えてきた。バイヤーやカスタマーの評価がどれも熱を帯びてきて、大きな自信になってきました。

「エムエーエスユー」後藤愼平さん

 昨年の「ファッション・プライズ・オブ・トーキョー」は当然受賞できる気持ちでした。1回目、2回目とファイナルまでいってだめで、3回目。今うちにかける判断をしない機関なら、その力を借りる意味はないかなと、最後の応募のつもりでした。

 SNSのアカウントには熱いメッセージが送られてきますし、自分よりもコレクションのことを覚えているファンが増えていって、昨年1月に開催したのが「マスボーイズランド」。直接話して熱狂を感じる機会でした。今年は2月に伊勢丹新宿本店のメンズ館で、段ボールの城を建てて2回目を開きましたが、初日の朝イチから150人近く並んで、結果も付いてきました。ブランドが成長するとともに仲間が増えていって、その過程で僕はリアクションを見ながら物を作っていくし、仕掛けもしてきました。

 3月10日に行ったイベントも、初めてパリでやったショーを日本でファンの人たちに伝えたいと企画しました。同じショーをやっても、面白味はパリの30%ぐらいになってしまう。渋谷ヒカリエのでっかいスクリーンを使って、ぜいたくに見せれば、そこでしか体験できないのはショーと一緒。その方がお客さんはより記憶に残るだろうとシネマのように演出しました。

 目標にしているのは、新しい存在、自由な存在でいること。例えばパリでショーをやるとなって、最初に出てきた話は公式スケジュールなのかオフスケジュールなのか。そういったシステム自体を懐疑的に感じています。公式では自由に日程を決められない。僕は今回のショーは絶対に夜やりたいと、絵を描き始めたときから決めていた。もし主催者から朝イチでと言われたら、その時点でクリエイションは50%ぐらいになると思う。純粋に届けられないし、そのショーのためのクリエイションをしなければならなくなる。そんな運営をしていては、うちのようなブランドは続かないと思う。

 だったらバイヤーが日本に来てくれるように、ブランドが魅力的になればいい。昔から思っていたことですが、パリのファッションウィークが一番上でも、憧れているわけじゃない。ニューヨークでやります、日本でもっと絞ってやりますと、フレキシブルなジャッジができるようでありたい。盲目的に何かを信じたくないっていう目標があります。

 ビンテージベース、アメカジベースは変わらずやっていきます。あまり触れてこなかったトラッドな要素もありますし、もうちょっとビンテージを多面的に見ていきたい。知らない世界もあるだろうから、人に聞いたり服を見たりして、いろんな攻め方を考えたい。(オープニングイベントで発表)

デニムをアンカーに新しいアプローチ

「タナカ」タナカサヨリさん

 目指しているのは、長く続いていくブランド、自分の代から引き継いでカンパニーとして後世に続いていく存在。ボーダーレスにチームを作っていって、自然と続いていく形態になれたらいいなと。そのために、今は基盤を作っている段階です。

「タナカ」タナカサヨリさん

 最初は歴史的にルーツがある服を、次の100年に向けて新しいものにしていけるかを軸に考えていましたが、今は新しい何かを生み出すアプローチの一つとして、よりコンセプチュアルに表現することを意識しています。原型がないなかで、一つのキーワードから物を作っている感じ。デニムをアンカーとして、タナカらしい格好良さの伝わるプロダクトやスタイル、一つの世界観を作っています。

 日本ではデニムって単品で捉えられがちですが、さらに魅力を伝えるブランドとしての見せ方を大事にしたい。日本製のデニムは一つひとつの工程が手作業で、決して安くは作れません。色の確認一つを取っても日本人の感性が反映され、日本のデニムの良さが管理されて生まれています。そこにクリエイティビティーの価値を付加して底上げしていくことがブランドの使命であると考えます。

 日本のビジネス拡大は遅かったのですが、23年秋冬の楽天ファッション・ウィークで初のショーをしたら反響が大きかった。24年春夏のセールスは大きく伸びました。国内の売り先は50ほどになり、会社として安定感が出てきました。

 最初に軌道に乗った欧州市場は今、20~30のアカウントがあります。この1~2年は米国向けも伸びて十数件。世界に取引先があるので一番いい形で発表したいと、パリを視野に入れています。ただ、段階がありますし、今回は助走的な意味で東京でもう1回。次はパリかなという気持ちです。

 最近、布と対話をしながらの造形を大事にしています。この生地ならどう動きを付けるか、どういうフォルムを作るかと。24年春夏はメインで使っている14オンスのデニムを生かし、1枚の布で彫刻のように立った洋服を作りました。真四角の布を切らず、カーブも付けず、プリーツ加工したり、つまんでシェイプをしたり。「ワンピースオブクロス」という、戦争が終わるまで続けるコンセプトの一つでもあります。1枚のピースに「平和」をかけて。今回のショーにも出てきます。

 今はいろんなものが分断されて、摩擦や争いがある世の中です。ただ一つから生み出される美しさがあるのに。世界も同じように、分断せずとも美しいということを伝えたい。過去には、ウッドストックで反戦を訴える祭典がありました。個人でいろんなことを発信していると、大きなうねりを見ることができないのですが、洋服もそういう力があるんじゃないかと思っています。(11日20時30分)

作りたいものをぎゅっと詰めた形

「フォトコピュー」竹内美彩さん

 19年秋冬に立ち上げてから服作り自体は変わっていませんが、より柔軟に考えられるようになりました。それ以前、フランスのサンディカやアトリエで学んだのは、必要なシームをデザインする考え方。日本ではまず原形があって発展させていきますが、原形を自分の好きなものにしていく方法をずっと考えています。

「フォトコピュー」竹内美彩さん

 アームホールや肩線、立体で作るうえで必要になるシームを、どうニュアンス付けていくか。無駄な切り替えは入れませんし、ディテールもポケットなどの必要部分をいかに素敵に見せるかだけです。その表現の仕方が増えて、もっと自由な感じに作りたい思いと、プロダクトの完成度のバランスを取っています。

 この秋冬はアアルトのパイミオチェアに改めて着目しました。削ったり折ったりせず、加工で曲げるしなやかさに女性的な発想の転換を感じます。決まったことにとらわれない柔軟性、困難なことも視点を変えて問題解決していく考え方って大事だなと。生き方もそうですし、服のデザインの仕方にも通じます。

 アワードを受賞して2月に初めてパリで展示会を行うことになり、より濃さを表現できるように作りました。例えば、綿シルクの生地を硫化染めしたユーロワーク。ワークウェアだけど高級というギミックです。欧州の人は歴史的な視点で見るので、そういう面白さに気付いてもらえるかなと。日本のバイヤーは物単体で選ぶので、高いと選択肢から外れてしまいますが。

 フランスではファッションというとアートの一つに入りますが、日本では文化ではなく、完全に商業です。一度、ビジネスを広げようとして、大事にしていたものが消えそうになりました。一つひとつの服に注力したいと最初は20型程度でしたが、売り先が広がって45型ぐらいにした。けれど売り上げを伸ばそうとすると、買いやすくて日本の市場に適している物を作るようになってしまう。そうじゃなく、作りたいものをぎゅっと詰めた形にしていきたい。

 自分でドレーピングしたものが一番、生々しくて好きです。それをいかに損なわないで製品にするかが、私らしさを保つために必要です。本当に好きで必要だと思えるものだけでいい。以前は、株式会社なので規模を大きくすることが決まりだと思っていたのですが、固定観念から少しそれたところで自分らしい表現ができるんじゃないかと考えます。やっぱり、自分が気持ち良く楽しく向き合えないと、それを人にお届けできない。

 最近は特に、心地よさや心の豊かさの広がり、セルフケアのような感覚が大事かなと思います。戦争で虐殺が起こる時代ですし、楽しいだけで服は作れない。本当に必要なものを作りたい。(14日12時)

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