楽天ファッション・ウィーク東京23年春夏は、経験を積んだデザイナーが、クラシックなスタイルも踏襲しながら現代的な視点を持って造形性を再解釈していく姿勢が目を引いた。一つの言葉では表現しきれない、多面性を持ったワードローブへと発展している。
(須田渉美)
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〈フィジカル〉
2年ぶりにフィジカルショーを行ったサポートサーフェス(研壁宣男)は、モダンでフェミニンな美しさを、一段とそぎ落とした線で表現した。目を引くのは、女性らしい肩の輪郭を滑らかに見せて、袖に動きのあるシルエットを作るバランスだ。袖をつなぐシームラインを落として直線のカットで切り替えるシャツやドレスの手法をニットへと応用する。さりげないフレア袖のカーディガンは、シースルーの糸を切り替えて、デコルテをボーダー状にカットアウトしたように見せる。体の線に沿って伸びるニットがフェティッシュなアクセントとなって、レディーライクな魅力を艶っぽく際立たせた。「シンプルなものを、シンプルに見せたいと、原点に返って取り組んだ」と研壁。シームをどこに入れるか、丁寧に検証する姿勢が伝わる。首元にドレープを寄せるテクニックは、これまでもブラウスのアクセントに取り入れられていたが、ドレスの造形へと発展した。丸みを帯びた線が静かに落ちる。後ろ身頃にすっと入った袖のニュアンスも、見えない体の美しさを感じさせる。
ヨウヘイオオノ(大野陽平)は、国立科学博物館の展示室で、5年ぶりのショーを行った。テーマは「空間と時間」。大小の恐竜の骨が無言でたたずむ部屋の通路に置かれたネオン管がピカピカと光る。舞台に負けない存在感を放つのは、クラシックなフォルムを残しながら、ユニークな形や異素材の変化を交え、造形美の多面性を表現していく大野らしいクリエイションだ。冒頭に登場するのは、ボディーファンデーションを発想源にした、3連の立体バッグを着用して腰回りを強調するドレス風のスタイル。スパンコールの生地を使ったタンクトップは、デコルテで切り替えたヌーディーなメッシュを後ろ身頃でトレーンのように流し、背中にバッスルのようなフォルムを作る。ウエストをシェイプしたジャケットは、シースルーのバッグで盛り上がるヒップラインに裾が広がる。バッグそもののは異質な存在なのに、ボディーラインと結びつくなかで、フェミニンという意識が芽生えてくる。シースルーのノースリーブトップやキャミソールドレスの裾には、角の形状をした立体型のディテール。透明感のあるテクスチャーときれいに整った曲線がグラフィカルに揺れ、生身の体の美しさをリアルに感じさせた。
日本博のプロジェクトで初参加したエムエーエスユー(後藤慎平)は、キラキラと輝くレッドカーペットの装いを、日常着のスタンダードアイテムに落とし込んで見せた。テーマは「ready」。絞りを応用したスタジャンに中折れのハット。大小のカラービジューをちりばめたブラックデニムを履いて、白いソックスにローファー、片方の手には白いグローブ。熟年層に既視感のあるスタイルは、マイケル・ジャクソンがイメージソース。そのアイコニックな装いを、パロディーのようにユーモアを持って強調していく若い視点が楽しい。サテンのラペルが付いたジャケットからのぞくのは、テックマテリアルでミニフリルをあしらったフーディー。セットアップのトラウザーは、膝上のジップで取り外した残りの筒がクシュッと足元を飾るアクセサリーに。ポップスター感を一段と強調するのは、シャイニーなスパンコールが輝くファブリックを大胆に使ったマキシ丈フーディーやロングマフラー。振り切ったセンスが、ファッションのポジティブな力とともに後味の爽やかさを感じさせた。
DHLジャパンのサポートで初のショーを行ったベイシックス(森川マサノリ)の会場は、新木場にある東京ディストリビューションセンター。鉄のパイプなどが設置されるコンクリートの大きな空間の柱には、古着のデニムが山のように積み重なる。21年のデビューから、環境に配慮した服作りをコンセプトにするなかで、DHLのユニフォームの古着をアップサイクルを交えてコレクションを組み立てた。ベーシックなワードローブを新鮮に見せるのは「アンブロ」と協業するトラックスーツ。コードを挟んで肩を切り替えるディテールを応用したテーラードジャケットなど、スポーティーな要素をストリート感覚で融合していく。レッド、イエローをアイコンカラーにするDHLのユニフォームは、発色の強さを生かしてスポーティーなブラに。ジップアップのハイネックの作りをベースにしたホールターネックのトップなど、森川らしいセクシーなポイントを作る。これらは、ベイシックスの公式ECで販売し、海外発送DHLの環境に配慮した輸送サービス「Gogreen」で届ける。
(写真=サポートサーフェス、ベイシックスは加茂ヒロユキ、ヨウヘイオオノ、エムエーエスユーは堀内智博)
〈デジタル〉
ハイク(吉原秀明/大出由紀子)は、ベースとなるミリタリーにアウトドア、スポーツ要素を加え、アクティブな女性像を描いた。ハイクらしい、きりりとしたエレガンスから外れない印象は、セットアップ、ドレスを軸にしたスタイリングだ。テック素材でギャザーを寄せた半袖トップにトラックパンツ。その上に、ハンモックのロープワークを応用したクロシェニット風のスカートを重ねる。長いフリンジが足元で揺れ、フェミニンな表情を作る。ボリュームのある袖のシルエットが控えられ、素肌とコントラストを成す直線的なカットが増えたことも新しい一面だ。縦に切り替えたタイトスカートは女性らしい腰のラインとともに、パネル状のヘムが揺れてセンシュアルな印象に。ミリタリーのリブニットを応用したドレスには、ミニ丈のキャミソールをベスト風にレイヤード。ニットが伸縮する曲線でバストラインが強調されて、大人のムードが際立った。
メグミウラワードローブ(三浦メグ)は、エイジやジェンダーを問わないアウターのコレクションを、カラーブロックのパターンや配色のコントラストを生かしたスタイリングによって、さっそうと見せた。ボリュームのあるフォルムにストライプ柄のシャツを応用したアウターが動きを感じさせる。パステルカラーの細いストライプ柄3色を組み合わせたブルゾン、鮮やかなブルーの太いストライプ柄のロングシャツなど、一着で様になるメリハリのあるデザイン。
ユニセックスのサートグラフ(中野晋介)は、ワークウェアの要素を取り入れたテーラードスタイルに、異素材のアクセサリーを添えて変化を作る。テーラードジャケットやトラウザー、ドロップショルダーの五分袖トップなど、ミニマルを意識したコレクションを軸としながら、直線でカットしたカラフルなパーツで違和感を作る。ノースリーブトップにレザー製のスクエアヘムのショルダーパーツやレイヤード仕立てのパーツを付けたり、カラフルなブロック型のモチーフをベルトで添えたりと、付け替えのできるモダンなデザインが楽しい。変化の少ないテーラードのフォルムを発展させていく遊び心がほしい。
コンダクター(長嶺信太郎)は、不安定な世界の情勢をリアルに感じる中で「ジャッジメントデイ」をテーマに、終末論的なイメージをスタンダートアイテムの装飾に取り入れた。最後の審判から着想を得て、プリントTシャツの柄に取り入れたり、地獄の鬼をグラフィック化してスカジャンに刺繍で施したり。50年代のカンカン帽スタイルをミックスして、品の良さも加えた。ムービーの放映時には、5周年を記念し、コレクションの一部を着用したラッパーのライブイベントも行った。