楽天ファッション・ウィーク東京22年春夏 豊かに広がる色柄、素材の重なり

2021/09/07 06:29 更新


 楽天ファッション・ウィーク東京22年春夏は、異なるトーンの柄を重ねたり、表面変化の豊かな素材を掛け合わせたりすることで奥行きを感じさせるスタイルが目を引いた。国内産地の協力を得て、テキスタイルの表現力が日々進化していることもうかがわせる。

(写真=ノアールエトフは堀内智博、フェイスエージェーは加茂ヒロユキ、その他はブランド提供)

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〈フィジカル〉

 「さあ、楽しもう。どこまで。僕たちはどこへ」--貸し切りの京浜急行の電車内にはカラー(阿部潤一)の中刷り広告があふれている。どこへ行くのか、どこでファッションショーが行われるのか。いっさい知らされることなく、品川駅から電車に乗り込み、目的地へ向かう。車内には「行き19分、帰り36分」という意味不明な広告も張ってある。

 楽天ファッション・ウィーク東京22年春夏最終日に集まった乗客たちは、さながら遠足のようなムードで電車に揺られる。「間もなく京急蒲田。お客様は席を立たず、そのままお待ちください」という不思議なアナウンスとともに蒲田へと電車が滑り込むと、ホームには等間隔で観客が立っている。扉が開き、モデルたちがホームと電車を舞台にして歩き始める。

 「バイアール」に招待されたカラーはそんな楽しいショーを見せた。22年春夏コレクションはすでに6月のパリ・メンズでデジタル配信していただけに、フィジカルでいかに違いを見せられるかが試された。そして、それは見る側の予想をはるかに上回る驚きの連続となった。カラーの法被を着たスタッフが、帰りの出発待ちの間に弁当やお茶、アイスキャンディーまで配る心憎い演出。旅行もままならない昨今の世の中で、我々が求めているのは非日常であり、ファッションの持つ楽しさを感じること。それを再認識する日となった。

 肝心の服はというと、プロダクトクオリティーの高さとユーモアにあふれていた。デコンストラクト(解体再構築)のデザインは、コートやシャツに異なるアイテムのパーツをアシンメトリーに重ねていくもの。アイテムにパーツを足し引きしながら、まるでクチュールのように、どこまで足してどこで削るかを繰り返す。あらゆるデザインがやり尽くされた中で、ミニマリズムと装飾の間での新しいバランスを探る。そこに阿部らしいハズしの美学が貫かれている。

カラー
カラー

(小笠原拓郎)

 初参加のノアールエトフ(浦崎直胤)は、ライトの影がジオメトリックな模様をなす空間で、テーラードを軸にした黒一色の新作をユニセックスで見せた。ポケットの位置を楕円(だえん)状にカットアウトしたラペル付きのロングベストに始まり、コートの袖と脇を切り落としたベストなど、カットして違和感のあるワードローブを作り上げる。素肌の上に着るとカットが映えて新鮮味もあるが、元になっているテーラードアイテムはシンプルなフォルムなので黒一色という表現に狭さも感じた。引き算だけでなく化学反応を起こすような新しい要素の掛け合わせも必要だろう。

ノアールエトフ

(須田渉美)

 アフリカと日本のクリエイティブマーケットをつなぐプロジェクト、フェイスエージェーは4シーズン目の取り組みを見せた。今回は、南アフリカのニットブランド「マコサアフリカ」と東京のニット業者を中心とするプラットフォーム「トウキョウ・ニット」の協業コレクション。マコサが得意とするコサ族の伝統的な柄や現地の人の姿をジャカードニットで表現した。ポイントはプリミティブな要素を取り入れながら、モダンで都会的に仕上げている点だ。ジャカードニットのセットアップやジャンプスーツに、クロップトトップとプリーツスカートの組み合わせ。黒やベージュに赤や水色を効かせて、洗練された大人のニットに仕上げた。会場の背景には、東京の繁華街の写真の上にトライバル柄がプリントされていた。そのミックス感がコレクションにも生きている。

フェイスエージェー

(青木規子)

〈デジタル〉

 ハイク(吉原秀明、大出由紀子)は、ミリタリーのディテールを取り入ながら、女性らしいエレガンスを感じさせるスタイルをランウェー形式の動画で見せた。この数シーズン、直線的なカットでそぎ落とすシルエットを主体としていたが、構築的な膨らみや柔らかに体を覆うテクスチャーが加わった。シアンカラーのブラウスやドレスは肩にタックが入って、緊張感のあるフォルムを作る。ウエストにはリボンのディテール。袖にボリュームを出して女性らしい表情を添えながら、甘すぎない輪郭にハイクらしい潔さが見える。ハリのある機能素材を使ったミリタリー仕立てのコートに、畝のようにプリーツがかったパンツやスカート。ふんわりとしなやかに揺れるシルエットを差し入れ、豊かな表情に見せた。凛(りん)とした強い一面もありながら時に女性らしさに立ち返って着飾る。そんな現代女性の柔軟性ある生き方を感じさせた。

ハイク
ハイク

 ミントデザインズ(勝井北斗、八木奈央)は、ランウェー形式の動画を通じて、色と柄、テクスチャーが織りなす世界を表情豊かに見せた。テーマは「ア・ハッピー・ミステイク」。太陽の光が心地よく差し込むなかで、ミントデザインズらしいグラフィカルな柄をイレギュラーに重ねて軽やかに見せる。蛍光色で英字の記事をプリントした上に、グレーのドット柄を乗せたスカート。ドット状に穴が開いた半袖セーターと透け感のあるパープルの長袖を重ね、異なる色や素材が共鳴する。細いテープをベルトにしたオール・イン・ワンは、一枚の布をラップした形。異なるグラフィック柄が体のラインに沿って広がる。ドット柄のショートパンツに透け感のあるストライプ柄のシャツドレス。プレイフルに変化する柄と透明感のあるテキスタイル、開放的で抜け感のあるシルエットが調和して、映像を通じてもポジティブで心地よい姿勢が響いてくる。

ミントデザインズ

 ナオキトミヅカ(富塚尚樹)は、クロマキーの技術を取り入れ、グリーンのドレスを軸に現実と仮想が入り混じった世界を動画で表現した。少女のようなモデルはフリルが幾重も連なったドレスを着て、その表面に雲が漂う青空の映像が映し出される。雲のもこもこした形状がテクスチャーとなってフリルの表情を際立たせ、動く柄はモダンアートを見ているかのようだ。デジタルのイメージの表現にとどまらず、クラシックなフォルムのハットがトートバッグに変わっていくモノとしての遊びも主張した。

ナオキトミヅカ

 ドレスドアンドレスド(北澤武志)は、前々回から続く仮面3部作の第3部。「モラル」をテーマに、ミニマルなテーラードスタイルを軸としたランウェー形式の動画を配信した。都会の喧騒(けんそう)の中で、ジェル状の仮面を付けた男性モデルが、肩の位置がきちんと合ったテーラードジャケットを着用して通り過ぎる。セットアップのパンツは、小学生の制服のような三分丈にスリットが入り、北澤らしいフェティッシュなムード。同じモデルが再び出てきて投げやりになったり、取り乱したりする身体表現をしながら去っていく。その繰り返しで着飾った人の表と、内面の素の部分の二面性を主張する。ジャケットは、リングやボタンの装飾でキラキラ輝くシーンもある。最後はガーターベルトにストッキングの下着姿のモデルが椅子にもたれかかり、はかなさを感じさせた。

ドレスドアンドレスド

(須田渉美)



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