楽天ファッション・ウィーク東京23年春夏 程良く緊張感を持った造形的なシルエット

2022/08/31 06:28 更新


 楽天ファッション・ウィーク東京23年春夏は、造形的なシルエットを強調するクリエイションが広がった。数シーズン続いている、オーバーサイズでシルエットに抑揚のない着こなしに一線を引いて、程良く緊張感を持った立体のフォルムに美しさを見いだす傾向だ。コルセットやビュスティエドレスが目立つ。

(須田渉美)

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〈フィジカル〉

 初のショーを行ったフェティコ(舟山瑛美)は、70年代の要素を反映し、「女性の造形美をたたえる」イメージのコレクションを見せた。ランジェリー要素を織り交ぜるフェティコらしい官能的なスタイルを新鮮に感じさせるのはダークな強さ。バスト下にギャザーを寄せたシースルーのトップにウエストを切り替え、サイドを結んで腰のシルエットを強調したミニドレス。直線のカットを生かし、フェミニンとは異なる女性の強さをしっかりと出す。メッシュのマキシ丈ドレスは胸元が深いVラインを描き、体のラインに沿って女性らしい曲線美を際立たせる。そこにピリッとスパイスを利かせるのは、幾何学柄ニットのボディースーツ。素肌に映えるグラフィカルな柄がアクティブな表情を作る。メンズライクなパンツを合わせたストリートムード、ブラを重ねた繊細な女性らしさと、スタイリングの振り幅の広さも光った。

フェティコ
フェティコ

 3年ぶりにショーを行ったエズミ(江角泰俊)は、英国のビクトリア朝時代のシルエットを現代へと発展させた。江角が英国で学んだ学生時代に作ったスケッチブックを見返し、「原点に回帰して、自分が引かれた女性らしい造形美を誇張するスタイルを見直す」クリエイションだ。ペプラムのようなディテールの付いたビュスティエに、適度なハリを持ったクロップト丈のスカート。すっきりとした輪郭と、引き締まった光沢の変化で自立した女性像を描く。フロックコートをベースにしたウエストシェイプのジャケットなど、マスキュリン要素の一方で、クラシカルな女性らしさも。鮮やかなブルーのギャザードレスは、胸元をスモッキングで飾り、軽やかでフェミニン、クラフト感のあるモダンな美しさを引き出した。

エズミ
エズミ

 ケイイチロセンス(由利佳一郎)は、水をテーマにCGを組み合わせたプレゼンテーション。揺らめくプリント柄のボディースーツに、豊岡産地の「アートフィアー」のリュックを着用するなど、産地や企業を超えた連携で見せた。バッグには恐竜の化石を着想源にしたレザーを使ったり、ウォータースキンと呼ばれる表面変化の豊かなオーガンディを使ったドレスを作ったり、素材の開発にも力を入れている。

ケイイチロセンス

 バイアールでの発表となったヨシオクボ(久保嘉男)はチュールの透け感を生かしたコレクションを見せた。透ける素材を象徴するように、ダンサーたちが薄いカーテンの裏で踊る演出からショーはスタートした。ダンサーが着るのはチュールでできた大きな熊の着ぐるみ、オオカミや獅子舞を模したチュールの造形服も登場する。

ヨシオクボ

 この間、ジェンダーフリーの見せ方へとかじを切る中で、男性が透ける素材を着てもいいし、チュールのドレスを着てもいいと考えたのであろう。さまざまなチュールのアイテムがメンズとウィメンズの差を感じさせないように登場する。エアリーな透け感の造形服は、前シーズンの空気をはらんで膨らむ服からの発展でもある。そして熊やオオカミ、獅子舞といったモチーフは日本の神事とも関係があり、やはりこの間、久保が取り組んでいる新しいジャポニズムの在り方とも関係している。

 そのクリエイションは、この間のデザインの論理的な発展を感じさせるものだ。チュールのビッグサイズブルゾンは袖が膨らみながら垂れ下がり、襟はエリザベスカラーのようで、ドレスのようにも見える。テーラードジャケットの袖やパンツのサイドには、牙のような造形ディテールが取り入れられる。チュールの透け感と重なるのは壮大な宇宙の柄。その一方で、Tシャツの胸元には「SHIRANGANA(知らんがな)」のタイポグラフィーが立体的なテープ刺繍で描かれる。そんなちょっとしたユーモアも久保らしいところ。

 デザイン上のロジカルな展開を理解しつつも、フィジカルなショーの見せ方としての課題を挙げるとすれば、チュールの造形服とビジネス上のコマーシャルなアイテムとのバランスであろう。コレクションピースとしてのファンタジックなアイテムとコマーシャルなアイテムをつなぐ中間のアイテムがもっと多ければ、より迫力を感じることができたのかもしれない。

(小笠原拓郎、写真=堀内智博)

〈デジタル〉

 メアグラーティア(関根隆文)は、意匠性の高いテキスタイルを生かし、トラッドなメンズアイテムの着こなしを女性的なニュアンスで見せた。テーマは「サンライズシャドウズ」。3ピーススタイルに柔らかな表情を作るのは、ジャカードで糸を浮かせた先染めのチェック。影のような糸の線がアクセントになって、着用するうちに糸が切れるとラフな印象も出てくる。関根らしい型にはまらない自由なクリエイションに大人のエレガンスが加わった。ライダーズジャケットには、モノトーンのファンシーツイード。グラフィカルな織り柄が際立ち、ストリートムードでクリーンな抜け感を感じさせている。

メアグラーティア

(須田渉美、写真=フェティコ、エズミは加茂ヒロユキ、他はブランド提供)

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