楽天ファッション・ウィーク21年秋冬は、アートに着目したクリエイションが目立つ。絵画やグラフィックアートなどデザイナーの趣向は様々だが、ワードローブに自然な形で落とし込む手法が見どころとなっている。
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〈フィジカル〉
フミト・ガンリュウ(丸龍文人)は、夜の国立新美術館でファッションショーを開いた。6月から始まる展覧会「ファッションインジャパン1945-2020流行と社会」展のプレイベントとして、「リトゥンアフターワーズ」の山縣良和とのコラボレーションによる発表となった。
会場に入ると、和紙で作られた三角形のオブジェが置かれている。そこに描かれたのは人の手や指先。ランウェーには分解され土へとかえろうとする白い服が棺に入って横たわる。人の手によって生産され、消費され、分解される循環型の服作りを思わせるプレゼンテーションだ。
そこに登場するフミト・ガンリュウの新作は、ボリュームたっぷりのアイテムが揃う。かつてジャミロクワイがかぶっていたような大きなフェイクファーの帽子、袖口がずるずると長く体が泳ぎそうな分量のダッフルコート、フェイクファー襟のコーチジャケット。背の高い男性モデルから小さな女の子まで、老若男女、体の大きさを問わずに着られるボリューム服だ。
小さな女の子が大きなGジャンを重ね着して楽しむこともできれば、背の高い男性モデルがダウンジャケットをスリーピースのように重ねて着ることもできる。それぞれの体形に合わせて分量で遊ぶ。ジーンズは中心でファスナーによって左右が別になり、ブリーチ具合の異なるデニムのパーツを選んでカスタムできる。たっぷりのスウェットパーカは、その分量とともにボディーに飾ったウィッグのアクセサリーが楽しい。そしてサルエルパンツのシルエットやシャツのパッチワークには、丸龍らしさがきっちりと貫かれている。
テーマは「必然的多様性」。誰もが着られるニュートラルな服で、着る人が着方を選べるコレクション。同じサイズ展開で、誰もが着られる物作りはサステイナブル(持続可能性)でもある。
(小笠原拓郎)
ミカゲシン(進美影)は、長い歴史のなかで生まれたアートや文化を、現代のテーラードスタイルに落とし込む想像力の強さ、柔軟性あふれるコレクションを見せた。ニーチェの手記をコラージュしたプリントのドレスやシャツは、スタンドカラーで前身頃にドレープを差し入れる。その緊張感あるエレガンスが心地よい。モノトーンのドレスには、伝統工芸の墨流しが体をたゆたうように施されて、循環していくリズムを感じさせる。テーマはプロセス。「コロナ禍で皆が悔しい思いをしていることも、未来の視点で見ると一つの通過点に過ぎない。同様にアートワークにも生み出される過程があることに着目した」と進。シンプルな形のニットドレスも、左半分をカーディガン風に切り替えてフリンジを垂らすなど、完成しきらないアシンメトリーな作りも目を引いた。
初参加で、ドレスを軸にするアデリー(小松未季)は、女性がときめきを感じる普遍的なドレスを、モダンなセンスで見せた。ベースは膝下丈で襟とカフスのついたクラシックスタイルだが、パステルカラーのオーガンディー5、6色を切り替えるなど、女性の心に響くフェミニニティーをしっかりと表現する。強みは、国内産地で作る花柄のエンブロイダリーレース。複数色の糸を重ねてコントラストを利かせ、完成度の高いプロダクトに仕上げている。
(須田渉美)
リンシュウ(山地正倫周)は男女とも黒のドレッシーなスタイルを前面に出した。「装うことを楽しむ」をテーマに、メンズではロングジャケットやタキシードで黒を中心に光沢のあるシルバー、モノトーンの総柄などでドレスコードの象徴でもあるテーラードのバリエーションを見せた。カジュアルにも合うようにストレッチ生地を中心に、艶っぽいコーティングしたジャカード、マイクロスパンコールなどを使い、ブーツインのスタイルにした。新たなウィメンズスタイルではペアコーディネートが楽しめる提案にした。
(大竹清臣)
=写真は堀内智博、南部菜穂子、加茂ヒロユキ