22年春夏パリ・コレクションはコロナ禍を経てのフィジカルショーの開催に対する喜びとともに、コレクション日程の過酷なスケジューリングも再び訪れている。フィジカルとデジタルが交錯する中で、鮮やかな色柄が祝祭のムードを後押しする。
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〈フィジカル〉
ファッションスクールを卒業したばかりの新人シャルル・ド・ヴィルモランがクリエイティブディレクターに大抜擢(ばってき)され話題になったロシャスのデビューショーがついに行われた。自身のコレクションをオートクチュール期間中に発表しているヴィルモラン。アブストラクトアートのような色彩鮮やかな花や人の顔を描いた、パッチワークのパワーショルダーブルゾンで卒業コレクションから注目を集めた。そんな彼と7月のオートクチュール中に話すことがあった。ロシャスではどのようなことを学んだかという問いに、「どのようにコマーシャルに落とし込むかを学んでいる」と意外な答え。我々の記憶にはオリヴィエ・ティスケンスによるロシャスの記憶が残っているが、他のメゾンに比べると代表作があるわけではない。アーカイブをひも解くような服作りができるブランドではないのだ。クチュールデザイナーとして活動する彼には、コマーシャルなアプローチのほうが目新しいのかもしれない。
期待のコレクションは、ハリ感のあるプリーツが印象的だった。トップの肩からスリーブの先、ドレスの腰、さらにはルーズなニーハイブーツに至るまでサイドに付けられた巨大なプリーツがヒレのように動きを作り出す。花瓶に据えられた花やテーブル、部屋の様子を描いたイラストレーションはトリコロールでプリントされるなど、フランチメゾンであることを主張しているかのようだ。得意のアートワークは会場全体の窓や鏡をおおっていた。女性のヌード像を描いたワンポイントシャツやフレアパンツ、床を引きずるフルレングスのミリタリー調コートなどのシンプルなアイテムは男性モデルに着せ、新世代のデザイナーらしくダイバーシティー(多様性)な提案もしている。まあ悪くはないスタートだったといえるだろう。
実はパリ・コレデビューだったのがコペンハーゲンを拠点に活動するセシリー・バンセン。シグネチャーである清楚(せいそ)でガーリーなドレスは健在。大きなパフスリーブに胸の下からボリュームが広がるシルエットはエンパイアスタイルのようだ。背中やショルダーにカットアウトが施されたデザインもあるが決していやらしさはない。これまでなかったブラトップのようなディテールが加わったり、しっかりトレンドも取り入れている。花の刺繍は切り抜かれたり、ラバーのようなペイントでハイライトされたりと立体的に。22年春夏は特にテキスチャーにあふれていた。過去の残布を使うなどサステイナブル(持続可能な)デザイナーらしいアプローチもした。新作はデジタルでの発表となったが、マレ地区のギャラリーで開かれたプレゼンテーションではコレクションの一部を日本に送り、写真家ホンマタカシ氏がフリースタイルで撮り下ろした作品も展示した。
(ライター・益井祐)
〈デジタル〉
ドリス・ヴァン・ノッテンは、ラファエル・パヴァロッティによるファッション撮影とアルバート・モヤによる映像で新作を披露した。たくさんの色と柄で見せる幻想的なコレクション。花火のような柄がドレスにのせられスパークし、にじんだ色が混じり合って抽象柄を描く。カラフルなフリンジはモデルの動きとともに弾むように喜びを伝える。鮮やかな色と柄が重なり合い、祝祭のムードを生み出す。ラッフルのようなフロント合わせのトップに、肩が大きく膨らんだドレス。美しい色彩の一方で造形のフォルムがエレガンスを主張する。「フェスティバル・オブ・ラブ、喜びの共有、大胆な色と感情の爆発」が着想源。鮮やかな色粉や色水であふれるインドのホーリー祭やアントワープの夜景を写したぼやけた写真、あいまいなフラワープリントなど、様々な色と柄でパーティーへの熱望や喜びを表現した。惜しむらくはデジタルだとドリス・ヴァン・ノッテンらしい豊かなテキスタイルの表情が伝わりにくいこと。フィジカルの発表が待ち望まれる。
(小笠原拓郎)
ボッターの映像は、海のさざ波と霧笛の音で始まった。水面のように揺れる布の間に現れたモデルは海のモチーフを身に着けている。水中眼鏡やダイビングスーツを思わせるヘッドピース、船のブイをかたどったバッグをたすき掛けする。テントのように骨組みでフレアラインを描くトップ、救命胴衣のようなベストにレジ袋を二つつなげたようなタンクトップもある。コンセプチュアルなアイテムだけでなく、すっきりとした襟無しのパンツスーツやセットアップも揃う。鮮やかに色が舞うテーラードスタイルは、水面に映る光の反射のように思える。海と自然への賛美を感じるコレクションは、実は海洋プラスチックをアップサイクルした素材で作っている。
(小笠原拓郎)
マリーン・セルの映像は、明け方のヨガから始まった。自然や家でともに過ごす人々を、時間ごとに追っていく。どこかユートピアを思わせる空間だ。キッチンでもくもくと食事を作り、粉をまぶして体を清め、ナプキンをかぶって食事をする。その行動と同様に、新作も生活に基づいた素材を使うとともに、禁欲的なムードをまとっている。清潔感の漂う白いレースのシャツに、ティースプーンを飾ったネックレス。踊るときは小花柄の布をはぎ合わせたドレスを身にまとう。アイコンのジャージートップと同じように、絞り状の凹凸が体にぴったりフィットする。草原で染め物をする人々が着るのは、ピンクに後染めしたシャツやパンツ。その横で白いドレスを着た人も、頭から赤い液体をかぶってピンクに染まっていく。シグネチャーの三日月マークが神秘的なムードを一層高めている。
ウジョーは、那須のアートビオトープで動画を撮影した。大小の沼が点在する森を、軽やかなパンツスタイルのモデルがゆっくりと歩き、自然の中に溶け込んでいく。軸になるのは直線的なテーラーリング。そこに今シーズンはエアリーな動きが加わった。ジャケットの裾からのぞくのは、ひらひらと揺れるロングドレス。直線と有機的なラインが重なって、モダンなイメージを演出する。ドレスとパンツ、ジャケットと半身頃のジレなど、レイヤードしつつもあくまでも軽い。淡いグリーンや水色が新鮮だ。
(青木規子)
〈フィジカル〉
コシェ 場所が変わると印象も変わる。ホテルのボールルームで見せることでこれまでのストリート感が薄れた。オーガンディのトラックスーツなどスポーツウェアなのに高級感が漂う。クリスタルやスパンコール、フェザーといつものようにクチュール職人が手掛けた最高峰の装飾がコレクションをおおっていた。
オットリンガー ミレニアムスタイルで昨今のボディコンブームを担っているサステイナブルブランドだが、今回は特にボディーポジティブを感じさせる。再構築されたトップからは長いストリングスが伸び、様々な体形のモデルの体に巻きつく。ビキニやショーツのほか、ボーンを入れた立体アートのようなデザインも。
(益井祐)